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(海原稔/三人称)
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ミノルは、フロル、ランディと共に宿の部屋にいた。
フロルとランディが口々に言い合う。
といっても、会話ではなく双方独り言にちかい愚痴のようだが。
「アレルのヤツ、何を考えているのかしら!」
「クラリエ様、なんでいつも無茶をされるんですかぁ」
「だいたい、クラリエ様もわけわかんないし! 自分の立場くらい理解しなさいよ!」
「もしもクラリエ様に何かあったら、陛下になんと申し開きすれば良いのか……」
2人の言いたいことも分からなくはない。
同時に、クラリエ王女の気持ちも理解できなくはないし、アレルの考えも大体分かる。
ショートがパニックになるのももっともなのだろう。
(なにしろみんな、子どもですしね)
6歳のアレルやフロルはもちろん、10歳のクラリエ王女や、年齢は知らないがおそらくティーンエイジャーであろうライトやソフィネ、ランディ、そして日本では高校卒業間近だったいうショートも含め、ミノルからすれば皆子どもである。
細かい事情はともかく、クラリエ王女とアレルの行動は、ミノルからすればただの反抗期にしか思えない。
ショートやランディがアレルとクラリエ王女を御せないのも、ミノルにいわせればお子様がお子様の面倒を見切れないと嘆いているようにしか見えない。
そういう意味では、30代のタリアにはもう少ししっかりしたらどうなのかといいたいが、冷静に考えてみればそれもシルシルのいうところのゲームマスターが設定した年齢である。
ある意味、タリアだって6歳とも思えてしまう。
とりあえず、ミノルはフロル達に言った。
「そんなに心配されることはないでしょう。勇者様をどうにかできるようなモンスターやら悪人やらなんていませんよ。魔王様みずから出張ってでも無い来ない限りね」
が、フロルがミノルに言い返す。
「そういうことを心配しているわけじゃないわよ! むしろ心配なんてしていないわ。あの2人をどうお説教してやろうかと考えているの! クラリエ様もアレルもありえない行動して! どうにか2度とおなじことをさせないようにしないと!」
フロルにとっては2人が無事戻ってくるのは大前提で、アレルとクラリエ王女をどう教育するかと頭を働かせているらしい。
確かに、今回の2人の行動はどちらも目に余る部分がある。
何らかの形でお説教なり罰なりは必要かもしれない。
だが。
それをいうならば、だ。
「そういう言い方をするなら、まずは自分の言動を見直したらどうですか?」
「どういう意味よ?」
「私が言うのもどうかと思って黙っていましたけどね。あなたのクラリエ様への言動もそうとう目に余りますよ。クラリエ様がご自身の立場を理解していないというなら、それはあなたも同じでしょう?」
そこで少しミノルは声を潜める。
「少しは勇者と王女という立場を理解した言葉遣いをしたらどうなんですか?」
ミノルから見ても王族であるクラリエ王女に対して、フロルは暴言が過ぎる。
幼児かつ勇者だからこれまで問題視されていなかったのかもしれないが、一般人が王族に『馬鹿なんですね』などと言えばその場で手打ちにされても文句が言えない。
このままフロルがクラリエ王女に毒舌を続ければ、2人の仲はますます悪化し、ひいては王家と勇者との遺恨になりかねない。
「だって……」
「今回の件は、目上の人へ毒舌をふりまくあなたにも一因があるのではないですか? 自分が頭脳明晰であるが故に相手に侮った態度を取るのは、正しい行動ではありません」
フロルは何か反論しようとし……しかし、それ以上は何も言わずにプイっと横を向いた。
「ランディさん、あなたもあなたです。あなたのお役目はクラリエ様の補佐でしょう。毎回毎回殴られてクラリエ様のストレス解消をするだけでは意味がありません。むしろ長期的には悪影響です」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「補佐役ならば、まずはクラリエ様に意見を聞いてもらえる信頼を得る努力をなさい。それが足りていないから、今回もそうやって何もできないんです」
「……でも……その……すみません……」
シュンとなって肩を落とすランディ。
ミノルはため息をつきたくなる。
なんで、自分はこんなところでお子様に説教しなければならないのか。
本来これはショートの役割だと思うのだが……
(シルシルとかいうあの神様も何を考えているのやら)
ショートは別に悪人ではない。
アレルやフロルをここまで導いたことも、それなりには評価できると思う。
だが、彼自身未熟な若者にしか見えない。
日本人から選ぶにしても、もっと教育係としてふさわしい人はいくらでもいるだろう。
ミノルは王都の教会にて、シルシルという神様と2人きりで会話している。
ショートと3人での会話はシルシルに拒否されたのだ。
時間の止まった不思議な空間に2人を同時に連れ込めないからとのことだが、本当かどうか。
いずれにせよ、ミノルとしても色々と確認をしたり、約束したりしたのだが……
(あの神様自体、かなり未熟っぽかったしなぁ)
そんなことを思ってしまう。
それでも、すべてが終わった後、ミノル自身の日本への帰還を確約させたことだけは成果であろう。
もっとも、それすらもそれまでミノルがこの世界で生き残れればという条件付きなのだが。
ミノルに正論でお説教されて、ふくれっ面のフロルと、肩を落としているランディ。
まるでミノルが子ども達をいじめたみたいな構図になっている。
(ま、いいか)
子どもなんてたまにはお説教された方が良いのだ。
2人とも馬鹿ではないだろうし、反省することもできるだろうと信じよう。
それはそれとして、自分は大人として自分の仕事をしなければ。
「ま、2人ともしばらく考えていてください。私はちょっと席を外しますので」
「え、どこへ?」
「別に宿からは離れませんよ。野暮用です」
ミノルはそう言って、部屋から出て下の食堂へ。
適当にフルーツジュースを頼んで、席に着く。
そして、『通信』のスキルを発動したのだった。
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