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(ソフィネ/三人称)
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ソフィネは誰にともなくうめく。
「なにがどうしてこうなるわけよ!?」
わけがわからない。
ソフィネの目の前で起こったことを説明すれば次のようになる。
ショートが操られ敵に回り、アレルが落ち込みまくっていた。
で、ライトがアレルを庭に連れ出し――そして、真剣を抜いてアレルに襲いかかった。
冗談の剣スジではない。
ソフィネは剣士ではないが、そのくらいは分かる。
手加減なしの、もしアレルが動かないままだったら首が吹っ飛んでいてもおかしくない一撃だった。
その一撃を、アレルは唖然となりながらも鞘が被さったままのミスリルの剣ではじいた。
放心状態でありながら、なお天才戦士ライトの剣をはじくとは、さすが勇者といったところか。
アレルも叫ぶ。
「なにするんだよ、ライト!」
「うっせーよ! いつまでもウジウジしているガキ、たたき切ってやる」
ソフィネはライトに叫ぶ。
「ちょっと、ライト! あんた何考えてんのよ!?」
が、ライトはアレルとにらみ合ったままこちらに目もくれない。
「本当になんなのよ……」
つぶやくソフィネに、ミノルが言う。
「まさか、ライトさんまで操られて……?」
確かに、彼からすればその可能性を考えたくもなるだろう。
だが、ソフィネは確信している。
「そんなんじゃないわよ」
「どうしてそう言い切れるんですか?」
「アイツと私が何年付き合っていると思っているのよ」
どう見ても、ライトはゲームマスターだかなんだかに操られてアレルにおそいかかっているわけじゃない。
自分の意思で剣を振るっている。
目的は……言葉通り、アレルを立ち直らせることなのだろう。
「……って、だからそれでどうして真剣で襲いかかるわけ!?」
やっぱり理解できない。
が、そんなソフィネにクラリエ王女が言った。
「それが戦士ってヤツじゃないの?」
「はあ?」
「あなたも戦士でしょ、なら分からない? 戦士は言葉よりも剣で意思を伝え合うものなの」
いや、やたらかっこつけているが、たぶん冒険者活劇本か詩吟の受け売りだろう。
「わかんないわよ! そもそも私はアーチャーであって、剣士じゃないし」
大体、もめ事があるたびに真剣で戦ったのでは、戦士は命がいくつあっても足りない。
クラリエ王女はこんどはタリアに尋ねる。
「タリアはどう? あなたも戦士なら、言葉よりも剣で語り合おうとか思わない?」
クラリエ王女の問いに、タリアは困った表情。
当たり前だ。
物語ならともかく、現実で真剣で語り合うなど馬鹿馬鹿しい。
死んでしまっては話もクソもない。
ランディがぽつりという。
「それって、戦士がどうこうじゃなくて、単に暴力でしか解決できないバカってだけ……」
そこでランディの言葉は途切れる。
例によって、クラリエ王女による顔面パンチで地面に倒れたからだが。
ミノルが頭を抱えながら言った。
「バカというよりも、お子様のケンカという気がするんですが」
確かに、それの言葉が一番しっくりくるかもしれない。
問題なのは、アレルとライトが『お子様のケンカ』ではすまない実力を持っていることだが。
フロルが
「まあ、いくらあの2人がバカでも、さすがに本気で命のやりとりは……」
と、そこまで言った時だった。
ライトが思いっきり剣を振りかぶる。
暴風とも言える風がアレルに襲いかかる。
……『風の太刀』か。
アレルが吹っ飛ぶ。
致命傷ではないだろうが、そこそこ痛そうだ。
「ライト!」
アレルは叫んでミスリルの剣を鞘から抜く。
「やる気になったか、アレル!?」
「先に剣を抜いたのはライトだからね!」
「かかってこいや!」
完全に本気モードだ。
ミノルがぽつりと言った。
「……命のやりとり、しだしそうですけど……」
「そうね……」
フロルも同意する。
タリアが言う。
「勇者様は元気になったように見えますけど」
それは確かにその通りだ。
が。
そういう問題じゃない!
アレルがライトにミスリルの剣を振り下ろす。
ライトはかろうじて躱す。
そのやりとりだけでも、ソフィネにはついていけないレベルの戦いだ。
「やるね、ライト。いつの間にそんなに強くなったの?」
「上から目線だな、勇者様。最初の模擬戦では俺が勝ったの忘れたか?」
「そうだったかな」
ニヤリと笑い合う2人。
どうにも戦いをやめるつもりはないらしい。
「本当にどうしてこうなるのよ……」
頭を抱えるソフィネ。
実力で止めようにも、あの2人を止められる実力者など、それこそ魔王かレルス・フライマントくらいだろう。
フロルはソフィネと同じくあきれ顔で叫ぶ。
「ああ、もう! 2人ともすきなだけケンカでも決闘でもしなさい! 死なない限り私がどうにかするからっ」
ほとんどやけっぱちのフロルの言葉。
それを聞いて、アレルとライトは再び動き出すのだった。
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