フロル達のいる街の南にやってきた俺達。
この先の道を曲がれば目的地らしいのだが。
アレルがキョトンとした顔で首をひねる。
「……? 誰だろう?」
「どうしたんだ?」
「なんか、フロル達の周りに人がたくさんいる」
どうやら、『気配察知』でフロルの周囲に人がいると知ったらしい。
俺が尋ねる。
「まさか、また襲われて?」
ライトが「いや」と俺の言葉を否定する。
「特に戦闘が起きている様子はないな」
確かに。
フロルが魔法を使えばここからでも分かるだろう。
「じゃあ、一体?」
「ちょっと、アレル先に行くね」
アレルはそういうと、その場から消えた。
彼が『俊足』を使うと、俺には消えたようにしか見えないのだ。
「おい、アレル!」
ライトが慌てて言うが、止めても無駄なんだよね。
「俺達もいこう」
俺は言って道を走った。
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俺達が道を曲がると、そこではアレルとソフィネが王都の衛兵達を向かい合っていた。
明らかに剣呑な雰囲気。
アレル達の後ろにはフロルと……それに、隻腕の戦士――いや、魔族?
(どういう状況だ、これ?)
アレルと兵士が言い合う。
「あの人をやっつけたのはアレルたちだよ?」
「それは理解するが、王都を襲った犯罪者だ。こちらに引き渡してもらう」
「なんで?」
「いや、なんでって……今説明したとおりなんだが」
なんとなく、俺は状況を理解する。
俺達を助けに来る前に、アレルが倒したという魔族の戦士――たしか名前はララルブレッドだったか――の処遇をめぐって、王都の衛兵と一悶着しているらしい。
ソフィネが衛兵に言う。
「わるいんだけどさ、この人には私達も聞きたいことがあるのよ」
「尋問はこちらでおこなう」
「頑固男が」
「どっちが頑固だ!」
ふぅむ。
俺としてもララルブレッドには直接話を聞きたいのだが。
とはいえ、衛兵らも仕事だろうしなぁ。
アレルが剣の柄に手をかける。
やべ。
さすがに戦闘までは見逃せない。
「アレル、やめなさい」
ここは俺がわってはいらないと平行線だろう。
「衛兵のみなさんも、落ち着いてください」
その場の全員が俺に注目する。
「その魔族――ララルブレッドは引き渡します。ただし、こちらとしても聞きたいことがあるのも事実です。
そこで、引き渡しはしますが、俺達も尋問させていただく権利を保障してもらうというのはいかがでしょうか?」
衛兵達はすこし相談し――
「それは、我々だけでは判断できかねます」
「はい。ですので、引き渡しはマララン大将におこないます」
彼なら俺達にも配慮してくれるだろう。
妥協点としてはこのくらいのはずだ。
「それは……」
それでも、納得出来なさそうな衛兵達。
そこに追い打ちをかけるライト。
「あんたらだけでその魔族拘束できるのかよ?」
「それはどういう意味か?」
「そいつ、強いぜ。腕を1本うしなったらしいが、それでも、あんたらよりは強いよ。あんたらに引き渡したら、逃げられるのがオチだね。しかも、犠牲者も出るぜ」
ライトの言葉が正しいのかは分からない。
だが、衛兵達を動揺させるには十分だったようだ。
しばし、衛兵達は話し合い――
「……わかった。それでは共に王城へ来てもらう」
結局、そういうことになったのだった。
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王城への道すがら。
剣を奪われ、体を縛られたララルブレッドが俺に尋ねる。
「アブランティアは?」
短い問いだったが、その意味するところは理解できる。
おれも端的に答える。
「死にました。自ら喉を突いて」
「そうか」
返事を聞いて、俺はちょっと思う。
「ひょっとして、あなた女性ですか?」
声がどうもそんなかんじ。
短髪だし、見た目はあまり女性的ではないのだが。
「その通りだが、それがなにか?」
「いえ、特には」
別にだからなんだということはない。
彼女は敵だし、これから尋問する相手。
おそらく、そのあとは死刑だろう。
街の南にはたくさんの遺体があった。
アレルが怒るも無理がないほどに。
彼女は大量殺人犯だ。
これで死刑でなければ民が納得しない。
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王城の入り口で、マラランと再会。
「君達、活躍したようだな。王都を護る者として礼を言う」
マラランが俺達に言う。
「いえ。西や北のほうはどうだったんですか?」
「そちらはほとんど被害なしだった。君達が敵を引きつけてくれたおかげだろう」
俺の魔法や、アレルの『蛟竜の太刀』を見て、ドラゴン達は街の西や北を襲うのをやめたらしい。
やはり、目的は勇者だったのか。
「その者は?」
マラランが縛られたララルブレッドを見て問う。
衛兵の1人が答えた。
「モンスターを操っていた魔族の戦士です。名前はララルブレッド」
「なるほど。やはり今回の襲撃は――」
マラランは少し考え――
――それから、俺達に言った。
「彼を倒したのも君達か?」
「うん、アレルがたおしたよ。あ、男じゃなくて女だけど」
「そうか、それについても礼を言おう」
「いらないよ、この人達が襲ってきた理由はアレルのせいだもん」
おい、アレル。
さらっと、色々と問題になりそうなことを口にするな!
「それは……いや、やはりそうなんだな」
マラランは難しい顔。
いっぽう、衛兵達はアレルの言葉に動揺を隠せない。
「まさか、ドラゴンと魔族の狙いは……」
衛兵の震える声に、マラランが一喝。
「それ以上はいうな。彼らは王都の救い主だ」
「はっ!」
衛兵達が納得したかは分からない。
とはいえ、彼らも軍人。
大将の言葉には敬礼して従う。
「この魔族の処遇は私が預かる。お前達は下がって民の誘導を行なえ。敵がいなくなったとは言え、まだまだ混乱が広がっている」
「はっ!」
衛兵達が立ち去ったあと、マラランは俺達に言う。
「色々と大変だったが――やはり、君達には王城に……いや、王宮に来てほしい」
「国王陛下に会えと?」
「ふむ、こういう事態になった以上、その必要はさらに増しただろう」
どうやら、俺達がララルブレッドを尋問する前に、俺達の方が国王に尋問されることになりそうだ。
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