アレルの警告の直後。
ダンジョンの奥から透明で少し青みがかった、丸くてぷにゅぷにゅしたモンスターが現れた。
「スライム!?」
俺は叫ぶ。
そう、現れたモンスターは、地球で……いや、地球の創作物でよく見たモンスターだった。ザコキャラの代名詞、スライムである。ちなみに形は楕円形。頭はとんがっていない。
「よく知っているな。あれはスライム。ダンジョンに巣くうモンスターの一種だ」
レルスが言う。
なぜ、地球と同じ名前なのかと思うかもしれないが、これは実のところ俺の『自動翻訳』スキルの効果らしい。この世界では全く違う名前なのだが、俺がイメージした名前に自動翻訳されているらしい。
冷静に考えてみれば、角の生えたウサギが『ツノウサギ』っていうのも、異世界ではあんまりだもんな。
うわぁ、スライムかぁ。そうかぁ。ここまでゲーム的なんだもんな。そうだよなぁ、いるよなぁ。
実のところ、俺達は初めてスライムと出会った。うん、なんか妙に感動する。
「よし、うりゃぁぁぁっ!」
ライトが先行。少し先走り気味だ。どうやらレルスを前にしてかっこいいところを見せたいとか思っているらしい。
鋼鉄の剣でスライムに斬り掛かる。はたして、スライムはあっさり真っ二つ。
うむ、やはりこの世界でもスライムは弱いのか。
俺がそう思ったときだった。
2つに分かれたスライムが、ライトに飛びかかった。
生きているのかよ!?
しかも、しゅぅーっという、嫌な音がする。スライムが触っている部分のライトの服が溶けているようだ。
全然ザコじゃなかった。
しかも、この状況じゃあ魔法攻撃しようにも。ライトに当たってしまう。ソフィネの弓も同じくだ。
「ライトっ!」
アレルが叫び、片方のスライムに剣を刺す。
だが、スライムはアレルの鋼鉄の剣に纏わり付く。
「わっ、わっ、わっ!?」
だめだ。スライムは物理攻撃がほとんど効かないようだ。
どうする? おそらくこの場合は。
「アレルっ! 『炎の太刀』だ」
俺が叫ぶ。
「あ、ちょうかっ!」
アレルも気づいたらしい。
スライムの纏わり付いたアレルの剣が燃え上がる。
スライムはあっという間に干からび、消えてなくなった。
そして、地面にコトリと、小さな魔石が転がるのだった。
同様の手法で、分裂したもう一匹のスライムもアレルが倒す。
「助かった。アレル。サンキュ」
「ライトだいじょーぶ? 怪我ない?」
「おう。服がちょっと溶けちまったけど」
ライトの服は溶けていたが、皮膚までは影響していない様子だ。
俺は2つの魔石を拾い上げ、布袋に回収。無限収納に入れるのはまとめて行なうことにする。
それにしても。
スライムって結構強敵だな。単に斬っただけでは分裂してしまうし、攻撃方法もえげつない。
俺は思念モニタを開いて残り時間を確認。カウントは残り96。
「みんな、急ごう。次のオーブを探さないと……」
俺は言って、皆と共にエメラルドグリーンの洞窟を進み始めた。
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だが。
すぐに俺達は足を止めざるを得なくなる。
「マジかよ……」
ライトがウンザリした顔になるのも無理はない。
曲がりくねった分かれ道を適当に進むと、広い部屋に出た。
その部屋の中には――20匹近いスライムがうごめいていたのだった。
ライトが俺に提案する。
「どうする? 戻って別の道を行くか?」
だが、部屋の向こうにはさらに道が続いている。
もちろん、その先に目指すオーブがあるかは分からないが、ここで戻るのも時間ロスのような気がする。
「大丈夫、一気に散らすわ」
フロルが行って思念モニタを弄る。
使った魔法は『火炎連弾』だ。
敵の数の応じて炎の球が出ていく魔法。
はたして、22個の炎が生まれ、スライム達は全て魔石に変わったのだった。
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その後も、俺達はモンスターを倒し、魔石を回収しつつ進む。
冷静に戦えばそれほど強いモンスターではない。
スライムが一番強いくらいで、ツノウサギやカタカタツムツムなど、魔の森でもザコと呼ばれるモンスターばかりだ。
今の俺達にとっては敵ではない。
問題は。
「くそ、こうも数が多いとな」
ライトがカタカタツムツムを斬り倒して言う。
その通り。ダンジョン内のモンスターの数は尋常ではない。
倒しても倒しても襲いかかってくる。
しかも、試験に合格するためにはできるだけ魔石を拾っていかないといけない。
なにしろ、冒険者がダンジョンに来る理由は魔石採取なのだ。
俺はあらためて思念モニタで残り時間を確認。あと32。
くそ、この階層どれだけ分かれ道があるんだよ。
時間がない。
レルスをちらっと見ると、彼は落ち着いた表情で思念モニタをタッチして何やら確認している様子だ。
俺達に必要以上のアドバイスをするつもりはないらしい。
どうする?
走りながら考える。
このままじゃ、オーブが見つからずに時間切れだ。
俺の中に焦りが生まれる。
全滅の絵すら思い浮かぶ。
ライトやフロル、ソフィネの顔にも焦りが浮かぶ。アレルも顔には出さないが、焦っているかもしれない。
と。
そこでふと気がつく。
なぜ、レルスは冷静なんだ?
時間切れになれば死ぬのは彼も同じ事。
そして、もうひとつの疑問も浮かぶ。
彼は思念モニタをタッチしている。
残り時間はタッチするまでもなく、最初に開いた画面に表示される。彼が確認しているのは残り時間ではない。
俺達のステータスを確認している?
いや違う。彼とは正式なパーティー登録をしていない。思念モニタ上で見れるステータスは正式なパーティー登録をした者のだけだ。
ではなぜ、彼は思念モニタをタッチしているんだ?
ステータス確認以外だとタッチする理由は――魔法だ!
彼は戦士として有名だが、魔法戦士を名乗るだけあって魔法も使えたはずだ。
だが、彼が攻撃魔法や補助魔法を使っている様子はない。
ならば、彼は何の魔法を使っている?
まさか、ダンジョンの構造や次のオーブを見つける魔法を持っているのか?
だから、いざという時には大丈夫と落ち着いている。そういうことか。
いや、ちょっと待てよ。
俺はモンスターが出たわけでもないのに足を止めた。
「ごちゅじんちゃま、どうちたの? いちょいがないと時間切れになっちゃうよぉー」
アレルが言う。
「ちょっと、待ってくれ、試したいことがある」
俺は言って、思念モニタを表示。残りカウントは30.
落ち着け、俺の想像通りならば、まだ間に合う可能性は高い。
さらにタッチして、ある魔法を使う。
やっぱりか。
俺の思念モニタ上にはダンジョンの構造図――つまり地図が表示されていた。
そう、使った魔法は『地域察知』である。
さらに、俺達以外に、全く動かない反応がある。
むろん、これは人間やモンスターの反応ではなく――
俺はレルスの様子をうかがう。
レルスは『やっと気がついたか』という顔だ。やはり、この反応がオーブか。
そう、『地域察知』こそが、ダンジョン攻略の鍵だったのだ。
レルスが道中なんどか思念モニタを弄っていた。それは、時間切れ前には次の階層に行くため。もちろん、彼の力を借りたら俺達は不合格になるが。
俺が『地域察知』を失念したのには理由がある。正直、ダンジョン外ではこの魔法そこまで使い勝手が良くない。
地図の拡大に限界があり、全体的に概要しかわからないためだ。
俺も最近はほとんど使っていない魔法だったのだ。
「みんな、ゴメン、俺のミスだ」
言って俺は『地域察知』でダンジョンの構造とオーブの場所を把握したと説明したのだった。
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「その分かれ道を左。でもって、次は真っ直ぐ。最後に左にいけば……」
「ごちゅじんちゃま、オーブあったよぉ」
俺達はオーブを見つけた。
思念モニタで残り時間を確認する。カウントは残り3まで迫っていた。
俺達はオーブに手をかざし、次なる階層へと向かったのだった。
そこは、これまでの洞窟型とは全く異なる姿のダンジョンだった!
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