異世界で双子の勇者の保護者になりました

ちびっ子育成ファンタジー!未来の勇者兄妹はとってもかわいい!
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第十四章 新たな同行者達と次なる目的地へ

1.一夜明けて

公開日時: 2021年3月6日(土) 10:41
文字数:3,350

王都到着から始まった激動の一日。

 その翌日、俺たちが起きたとき、すでに2つある太陽はどちらも高く上っていた。

 5人そろって昼頃まで眠ってしまったらしい。

 というか、アレルとフロルはまだすやすやお休み中。

 ソフィネとライトも寝ぼけ眼だ。

 寝ぼけているのは俺も同じなわけだが。


 ソフィネが身支度をしながら言う。


「ちょっと、寝坊しすぎたわね」

「そうだけど、さすがに今日は仕方がないだろ」


 なにしろ、昨日はイベントが盛りだくさんすぎた。

 俺たち全員、クタクタなんて言葉じゃ足りないくらい疲れまくっていたのだ。

 これだけ眠った後も、まだ疲れは残っている感じがある。


 ライトが思念モニターをいじりつつぼやく。


「全員、HPは回復しているんだけどな」

「肉体的には回復しても、精神的な疲れはとれないよ」


 これまでの経験で俺はそれをよく知っている。


「で、これからどうするんだ?」


 ライトが俺にいう。

 実際、どうしたものか。

 一年以内に北大陸の各国を回って、さらにエルフなどの亜人種とも会って……とやることはあるのだが、具体的にどういう順番で動くべきかと言われれば、判断に困る。

 どの国に先に行くかもそうだが、すぐ出発するべきか、あるいは王都でさらに準備や根回しをしてから行動すべきかなど、検討する余地が多すぎた。


 だが、そんな俺たちにソフィネがあっさり言った。


「あら、これからどうするかなんて決まっているじゃない」


 俺とライトはちょっとびっくりしてソフィネを見る。

 そんなあっさり今後の方針が決まるのか?

 いや、彼女の父親はかつての冒険者。彼女自身も父親と共に旅したことがある。

 ……それが、ゲームマスターによって作られた偽りの記憶だとしても。

 彼女には俺たちには見えていない方針があるのかも。


 そう思って、俺がソフィネに続きを促すと。


「下の食堂にいって、朝食兼昼食をとる。他に何かある?」


 おいおい。

 さすがにライトが反論する。


「いや、俺達が言っているのは、そういうことじゃなくてだな……これからどうやって北大陸を回るかとか、他の国の指導者とどういう話をするかとか、そういう……」


 ライトの言葉に、ソフィネはあきれ顔。


「だから、そういう真剣な話をするためにも、まずはお腹に物を入れるの。空腹じゃ、いいアイデアも出てこないわ」


 あっけらかんとしたソフィネの言葉。

 だが、確かにその通りだ。

 どこの国を最初にすべきかなどすぐには決まらないが、腹が減ったら飯を食うというのはすぐにもできること。

 こういう開き直ったおもいっきりのいい考え方ができるのはは、ソフィネの長所だと思う。


「確かにな」


 俺は苦笑して立ち上がる。


「ま、腹はへってるしな」


 ライトも俺と同じく。


「双子はどうする? 起こすか?」


 うーん。

 気持ちよさげに寝ているアレルとフロルをみると、このまま寝かせておきたい気もする。


「軽く起こしてみて、起きなさそうだったらそのままにしておこうか」


 俺はそういって、アレルとフロルの肩を叩くのだった。


 ---------------


 アレルとフロルも寝ぼけつつも目を覚まし。

 俺たちは5人連れだって1階の食堂へ。

 それぞれ、朝食とも昼食ともつかない食事を注文する。


 俺はサンドイッチとコーヒー。

 フロルとソフィネもサンドイッチで、飲み物は葡萄ジュース。

 ライトはハンバーガーのような肉を挟んだパンと紅茶。


 そして、アレルは――


「えーっとね、パンとスープと、あとコッコの香草焼きでしょ、それに串焼きと……角ウサギのステーキサラダ!」


 ――頼みすぎだろ!?

 確かにアレルは普段から6歳児としては食欲旺盛な方なのだが。


「だって、お腹すいたしー」


 別に良いけどさぁ。

 金欠ってわけでもないし。


 困惑する俺に、ライトが言う。


「俺も最近実感しているけど、『風の太刀』とかのスキルってかなり腹減るから。アレルは昨日がんばっていたからさ」


 なるほどね。

 確かにあの超絶技、MP以外の何を消費しているのかと考えれば、そうなのかもしれない。


「わかったよ。ライトも他に注文する?」

「いや、俺はそこまでじゃない」


 そんな感じで、用意された食事。

 一番ちびっ子のアレルが、一番注文したことに、宿の主人もびっくりしていた。

 ともあれ、ソフィネではないが、腹が減ってはなんとやら。

 俺たちは食事を始めたのだった。


 ---------------


 あらかた飯を食い終わったころ。

 宿の入り口に2人の旅人が現れた。

 2人ともやたらフードを深くかぶっているが、それ以外には特に不審な点はない。


(冒険者かな?)


 俺は思いつつも、さほど気にしない。

 なにしろ、食堂だからね。

 人の出入りはあって当然だ。


 だが、2人は俺たちを目指して一直線に歩いてくる。


「え、えーっと?」


 俺は戸惑いつつ、2人を見やる。

 明らかに俺たちに用事がありそうな2人。

 誰だ、こいつら?


「昨日は、お世話になりました」


 この声!?


「まさか、リラレルンスさん?」


 驚くしかない俺。

 だが、確かにフードの奥に見えるのは、リラレルンスの顔だった。


「な、なんでこんなところにいるんですか!?」


 とっくに南大陸へ向かったと思っていたのに。

 いくらなんでもまずい。

 今の王都で、魔族の彼が出歩くのはトラブルの原因にしかならない。

 まして、この宿には冒険者の姿もちらほらあるのだ。

 ゴルあたりに目をつけられてもいろいろ面倒だし。


「1つ、お願いがありまして」

「はあ、なんでしょうか?」


 リラレルンスはもう1人のフード姿を示し、言う。


「こちらは私の腹心の部下です。是非、彼を皆さんの旅路に同行させていただきたい」


 いやいやいや。

 それはマズイでしょう。

 普通に考えて。

 魔族を連れて旅するなんて、余計なトラブルを増やすだけだ。

 今後、各国の指導者と会ったときにも、『勇者が魔族に与した』という誤解を与えかねない。


「ご心配はいりません」


 リラレルンスが目で合図すると、彼の部下はフードを取り外した。

 そこから現れたのは魔族――ではなく、人族の姿の青年――いや、少年か。


「――人族の方なんですか?」

「彼は様々な便利なスキルを持っています。『変化へんげ』もその1つ」


 なるほど。

『自動翻訳』や話の流れからして、自らの姿を変えられるスキルか。

 確かに、そういう能力を持つ協力者がいなければ、北大陸の王都までリラレルンスが徒歩移動するのは難しかったことだろう。

 そして、そういう能力者ならば、俺たちと一緒に旅しても問題にならないと。


 いやいや、しかしだな。


「俺たちの監視をさせるつもりですか?」


 そう考えると不愉快にもなる。


「いいえ。正直に言えば、私としても勇者の動向は知っておきたいですが、それがメインの理由ではありません」


 じゃあなにさ。


「まず、彼は『通信』スキルも持っています。魔道具では南大陸までは連絡できませんが、彼のスキルを使えば、皆さんと私が互いに連絡することが可能です」


 ふむ。

 確かにリラレルンスとの連絡はとっておきたいところではあるが……

 それはつまり、俺たちの行動がリラレルンスに筒抜けになるって意味でもある。


「彼は戦闘能力こそ高くありませんが、役立つスキルをたくさん持っています。皆様の旅のお役に立ちますよ」


 うーん。

 どうしたものか。


「ほら、あなたも挨拶なさい」


 リラレルンスに促され、部下の人が自己紹介する。


「ラクラレンス」


 名前だけかい!

 必要最小限というよりは、最小限にも満たないだろその情報は。


 だが、そんな彼に、アレルが言った。


「でも王都の警備はしなくていいの?」


 は?

 それはどういう意味?

 俺とライト、フロル、ソフィネの4人がアレルを見やる。


「だって、その人、姿は変えているけど王都の門にいた人だよ」


 ええ!?


「ほら、『ステータス鑑定』スキル持ちの人」


 まじか!?

 そういえば、声は似ているような……

 いやしかし。


 ラクラレンスは苦笑する。


「ばれてしまいましたか。声色は変えたつもりだったのですが、さすが勇者様」


 あっさり認める彼。


「うん。声は違ったけど、歩き方とか見たら分かるよ」


 分かるの!?

 天才戦士からするとそんなもんなのだろうか。

 ライトは気づいていなかったようだが。


 まいったなぁ。

 いずれにしても、他の人の目があるところでこれ以上話し込むのはマズイだろう。


「お申し出はわかりました。他の目もありますから、ここではなく俺たちの部屋に行きましょう」


 俺はそう言って、2人を部屋に案内したのだった。

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