模擬戦と決闘は似ているようで全く違う。
模擬戦はあくまでも訓練の一環である。本質的には勝負をつけることが目的ではない。
一方、決闘は訓練が目的ではなく、自分と相手どちらが強いかを決する戦いだ。
そして、模擬戦では基本的に木刀を使うし、相手を殺すことは想定しない。もちろん、事故は何時も起こりうるが。
決闘は相手を殺すことを目的にこそしないが、自ら選んだ刃のついた剣を使うし、仮に相手を殺してしまったとしても罪には問われず、恨みっこなしが大前提である。決闘をするならば、死を覚悟して行なうこと。それが戦士の大原則だ。
はたして、アレルは大陸最強の戦士と決闘することになった。
フロルだけでなく、俺やソフィネらが本気で心配するのも当然だ。アレルに万が一のことがあっては困るというのはもちろん、アレルがレルスを殺してしまってもマズいだろう。
とはいえ、2人の間で合意はなされた。
戦士同士の決闘は一度決まれば後は止められない。
ライトやミリス、ミレヌも『ならば見守るしかない』と言う。
2人の決闘はダンジョン探索=試験から2日目の昼に行なわれることとなった。
場所は、エンパレの町から西に行った場所。
広々とした草原である。
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決闘会場にはかなりの人数が集まっていた。
というか、エンパレの町の冒険者や町人の大半が集まっているのではないか。
「なんか、お祭りみたいだな……」
アレルが大陸最強の戦士と決闘をするという話は、2日の間に町中に広まっていたらしい。レルスがミレヌなどに場所や時間の相談をしていたのを、何人かの冒険者が聞いていたからな。それどころか、隣の町などからも人がやってきている。そもそも、隠すようなことではないが。
この世界にはテレビも映画もラジオもない。日本に比べて娯楽が少ない。
そこに、もはや町の有名人、超絶天才少年戦士アレルと、生きる伝説大陸最強の戦士レルス=フライマントの決闘である。
これを見逃す手はないということだろう。
さらに、人が集まる場所は商売のチャンスと、食い物やらなんやらの簡易露店までできている。本当にお祭り状態だ。
今、草原の中心にアレルとレルスが向かい合っている。
その横に立つのはライト。今回の審判役だ。
人々は彼らを中心に円になって座る。
俺達はアレルの関係者と言うこともあり、もっとも前の方で見守る。
ちなみに、俺の左どなりにフロル、ソフィネ、ミリス、ミレヌの順番で座っている。別にそんなつもりは全くなかったが、そちらだけ見ればまるで俺がハーレムでも築いたかのようだ。
もっとも、右隣は……
「うーん、アレルちゃん頑張ってほしいわぁ。でも、レルスさまもとってもステキね♪ イ・イ・オ・ト・コ♪
あ、もちろん、ショートちゃんも私は大好きよ♪」
……誰が座っているかは、発言を見れば説明するまでもないだろう。
うん、隣に座るのはいいんですけど、しなだれかかってくるのは勘弁してください、本当に。
っていうか、ミレヌかミリスのどっちか、俺とブライアンの間に座ってもらえませんかね?
そんな中、会場の反対側で響く声。
「さあ、張った、張った。本日の対決はこの町の超天才児アレルVS大陸一の戦士レルス=フライマント! アレルが勝つか、レルスが勝つか、それとも最後は引き分けか!?
今のところ、レルスと予想する者が多いが、その分アレルに賭ければ一攫千金!
意外なところで、引き分けもあるかもしれんぞぉぉぉぉ!!」
ゴボダラのヤツ……どうやらこの対決の結果をつかった賭け事の元締めをやっているらしい。
「あの男は……神聖な戦士の決闘をなんだと思っているんだっ!」
ミリスが言ってゴボダラを止めに走りそうになるが、ミレヌが止める。
「抑えてください。法やギルドのルールには抵触していませんし、決闘をするご本人達も問題にしていないんですから。
なにより、すでにあれだけ売れているのに、今さら中止なんて私たちが言ったら暴動になります」
「うう、しかしだなぁ……」
ミレヌの正論に、ミリスは押し黙る。
今はミレヌがミリスの上司だからなぁ。
アレルの命がけの決闘を賭け事にされるのは、俺もあまりいい気分ではないけどね。まあ、あの男のやることなので仕方がない。
ちなみに、今のところ『アレル勝ち:引き分け:レルス勝ち=3:1:6』くらいで売れているらしい。
アレルの勝ちが意外と売れているのは、大穴狙いか、アレルを応援する気持ちか、レルスが最終的に手を抜くと思っているのか、あるいは、本当にアレルがそこまで強いと思っているのか。
なんともいえないが、いずれにせよもちろん、俺とフロル、ソフィネはアレルを応援する。いや、賭札は買ってないぞ。
ミリスとミレヌはギルド職員という立場上どちらを応援するつもりかは口にはしない。
今日のレルス=フライマントは軽装だ。剣こそ強そうだが、鎧はかなり簡易的。アレルと対等に戦いたいということか、あるいは鎧を着ていてはアレルのスピードに負けると思っているのか。
アレルの装備は相変わらずミリスからもらった鋼鉄の剣だけ。
「装備はレルス=フライマント殿の方が圧倒的に有利だな」
ミリスが言う。自分がアレルに与えた剣では不足だと、暗に自虐しているようにも聞こえる。
「……もっとも、あのレベルの戦士にとって、武器などなんであっても大して問題ではないかもしれないが」
地球のことわざで言うところの『弘法筆を選ばず』ってやつか。
いずれにせよ。2つの太陽の中点が、空の頂点にやってきた。
約束の時間だ。
「では……」
ライトが決闘のはじめを宣言しようとした時だった。
「ちょっと待たんかぁぁぁい」
上空から声がした。
……上空?
そこにはギルド長ダルネス=ゴッドウェイが浮かんでいた。
おいおい、この世界って空飛ぶ魔法もあるのか?
ダルネスは2人の決闘を止めるつもりなのだろうか。
「こんな面白いイベントをワシが来る前に始めるとは。隣町で噂を聞きつけて、慌てて飛んで来たぞ」
ダルネスはブツブツ言いながら、ブライアンの右隣に下りたって座る。
「こ、これはギルド長様」
ミレヌさんが慌てて立ち上がるが、ダルネスは「よいよい」と手をフリフリ。
「今日の主役はあの2人の戦士じゃろう? ワシへの気遣いは無用じゃ。
おーい、レルス、アレル、すまんかったのう。初めてくれ」
その言葉に、レルスとアレルは一礼だけし、再度向かい合う。
そして、ライトが叫ぶ。
「では、今度こそ。始め!」
次の瞬間。
アレルとレルスが動いた!
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