「なんとも、判断に困るな」
僕らが――というよりも、フロルとライトが色々と説明した後、レルスが言ったのはそんな言葉だった。
クラリエ王女がレルスに尋ねる。
「判断とは?」
「まず、君たちの話がどこまで真実か」
え、それって……僕らが嘘つきってこと!?
フロルがレルスを軽く睨む。
「私たちが嘘をついていると?」
「誤解しないでくれ。君たちが私に嘘をついているとは思っていない。だが、それは君たちの話が真実だという担保にはならない」
???
よくわかんない。
僕らは嘘つきじゃないけど、僕らの話はホントじゃないかもってこと?
なにそれ?
っていうか『タンポ』ってなに?
だが、フロルはレルスにうなずく。
「確かにその通りです。ゲームマスターはもちろん、ミノルも全ての事実を話していたか分かりません。そこに虚言があっても確かめようがありませんし、仮に彼らが真実を話していたとしても、私たちの解釈が正しいかも分かりません」
????
お願いだから、僕に分かる言葉で話してよ……
「その通りだ。さらに言えば、そもそもミノル殿やゲームマスターとやらも、全ての真実を知っていたとは限らん。いや、少なくともミノル殿は知らないこともあったと判断すべきだろう」
2人は何を話しているの?
ミノルが嘘つきってこと? ちがう?
僕の頭が沸騰しかける。
ソフィネがつけたす。
「ついでにいえば、私たちが見たものを話したとして、話だけでレルスさんが全て認識できるわけでもない。私たちが今、兵器とやらについて想像しきれていないように」
うぎゃぁ。
もうダメ。
限界!!
頭がパンクする。
こういうとき、僕のやることは決まっている。
理解するのは諦めて、とりあえず、分かったような顔でニコニコしておくことだ。
大丈夫、フロルならなんとかしてくれる!
「何しろ、神だの世界の創造だのの話だからな。あまりにも規模が大きすぎる。こういってはなんだが、全てを理解できる人間などいないだろう」
フロルとソフィネとクラリエ王女がうなずく。
ライトはちょっと難しい顔をしているけど……ひょっとしてライトも理解できていないのかな?
「ミノル殿がゲームマスターとやらを封印したというならば、我々はそれを信じて活動するしかあるまい」
フロルはもう一度うなずいた。
「ええ、その通りです。ただ……」
「ショートくんのことだな」
「はい。私は……私達はショート様を助けたいと思っています。たとえ、それが勇者の使命とは無関係だったとしても」
それはそうだ。
ご主人様を助けたい。
僕はずっとそう思っている。
「ふむ。だが、あえて言おう」
「なんですか?」
「ダルネス殿もおそらくその方法は知るまい」
そんな……
「なぜそう考えるのですか?」
「確かにダルネス殿はこの世界の魔法や歴史、神学に精通している。だが……」
そこで、レルスはジュースを一口。
「……ダルネス殿の知識は、この世界の既存のものの掘り起こしにすぎない」
「それがなにか?」
「つまり、神や世界の成り立ちについての研究は、ダルネス殿とて教会の資料に頼っている。だが、教会の教えに『ゲームマスター』などという存在はない。美しき女神が10日かけて世界を作ったという君たちの話とはまるで異なる世界観だ」
うーん、つまり……
……教会さんは嘘つき?
ちがう?
「確かにそれはそうですね……ですが、ご主人様は教会で平和を望む神と交信していたのも事実です」
「ふむ、たしかにな。だが、いずれにしても、ダルネス殿の研究ではこの世界を作った『ゲームマスター』の封印については何も分かるまい」
「じゃあ、どうしたら……」
フロルは困った顔だ。
彼女にすらわからないんじゃ、僕にはどうにもできない。
「手がかりがあるとすれば……人がもっとも神に近づける瞬間かもしれないな」
「人が神に近づける瞬間?」
「そうだ。勇者に与えられる3つの試練。
すなわち、『勇気の試練』『真実の試練』『祝福の試練』だ」
「試練のことはショート様から少しききました。ですが、どういうものかはわかりません」
「世界各地にある3つのダンジョン。勇者とその仲間のみが立ち入ることができる試練」
もう、全然話は分からない。
わからないけど……
「そのダンジョンをクリアーできれば、ご主人様を助けられるの!?」
僕はレルスに言う。
レルスはちょっと困った顔。
「そういうわけではない。だが、試練の最深層で、勇者は神と出会うとされている。その神が『ゲームマスター』のことであるというならば、あるいは手がかりになりうるということだ」
ううー。
やっぱりなにがなんだかわからないよぉ~
頭が爆発しそうになって机に突っ伏す僕。
そんな僕の背をライトが叩く。
「心配するな、アレル」
「?」
「俺もさっぱり分からん」
ダメじゃんっ!!
ソフィネがライトに飽きれ顔。
「ライト、あんたまで……」
「だってそうだろ。要するに、レルスさんも『何が真実で何が誤りか分からない』っていっているだけじゃん」
ライトの言葉にレルスが苦笑する。
「確かにその通りだ」
「なら、やっぱり、俺たちのやることは変わらねーよ。世界の王様達に戦争しない方向でまとまってもらって、魔族との戦争を回避する」
うん、まあ、そうなのかな?
フロルが付け足す。
「同時に勇者の試練についてもクリアーすべきかもね」
ソフィネが尋ねる。
「それは……後回しじゃだめなの? 1年っていう時間制限もあるわけだし」
「私もそう思っていた。でも、人族をまとめるためにも、私たちが勇者として真に目覚める必要があるわ」
言い切ったフロルにレルスが聞く。
「なぜそう考える?」
「ジンパルグ帝国のお話を聞いたからです。アラバランの王様が平和を愛する人だったから油断していたわ。世界の全ての代表がそうであるとは限らないのに」
「勇者の力に目覚めればジンパルグ帝国の皇帝を説得できると?」
「少なくとも、私たちの手札が増えることは間違いありません」
「なるほどな」
うなずいて、それからレルスは言う。
「アラバラン王都から南西に4日ほどの場所にレベル99のダンジョンがある」
いや、レベル99って!
「そんなレベルの人いないじゃん」
レルスだって、レベル……えっといくつだったかわすれたけど、50はいっていないはずだ。
「その通り。レベル99と設定しているのはただの名目。実際のところは勇者専用のダンジョンだ」
それって!
「つまり、3つの試練のうちの1つ?」
「そう、『勇気の試練』とよばれる場所だ」
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