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(守人の長・アルベロ/三人称
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『勇気の試練』の守人の長アルベロはジッと目をつむっていた。
別に瞑想をしているわけではない。
彼女は生まれながらに視力に障碍があり、一般的な意味で『見る』ことができない。
目を開けていると砂埃がとんできても気がつかず、目にしみてしまうことがある。
それゆえ、彼女は人生のほとんどの時間を、まぶたを閉じたまま生活してきた。
視力の代わりに、アルベロは物事の本質と未来を見抜く力を持って産まれた。
神が与えたその能力をずっと磨いてきた。
その力は、すでにある種のスキルのような領域に達している。
あるいは彼女の思念モニターのステータスには何らかのスキルが表示されるかもしれない。
もちろん、目の見えない彼女には思念モニターを読めないし、冒険者ではなくパーティー登録していない以上、他の人間にも彼女のステータスをを確認できないのだが。
(もうすぐこの地にいらっしゃるね)
300年。
守人達が待ち続けた勇者。
もうじきここにたどり着くだろう。
そう確信できる。
確信できる理由は分からない。
多くの人が『なぜ自分は目が見えるのか』を理解していないように、アルベロも『なぜ自分が未来が見えるのか』を理解していないからだ。
それでも、これまでの経験から自分の見通す未来が正しいと確信できる。
(もうすぐ。もうすぐだ)
里の者には伝えていない。
勇者をお迎えする準備は、300年間欠かさずおこなってきた。
だから、特別な準備は必要ない。
夕刻。
そろそろ偉大なる力を持った2つの太陽が地平線の彼方へと沈む時間だ。
視力がなくとも太陽のエネルギーを感じることはできる。
――そして。
(いらっしゃったね)
勇者が里へとたどり着いたことも理解した。
はたして、しばしして。
「長様、大変です!」
里の若者――まだ10代だったはず――のカロカロが飛び込んできた。
「なんだい、騒々しいね。部屋に入るときはノックくらいしな」
「それどころではありません! 勇者様がやってきたのです」
「それがどうした? 我々はずっと勇者様をお迎えする用意をしてきた。何も慌てることはない」
「ですが、彼らが本物かどうか分かりません」
確かにそうだろう。
勇者だという身分証明書などないはずだ。
よしんば、どこかの国か冒険者ギルドが発行した身分証明書があったとしても、守人達にとっては信じるに値しない。
守人は自分の『見た』ものしか信じないし、アルベロもまた自ら『視た』もののみを信じる。
だからこそ――
――アルベロは確信を持って言えた。
「その子達は勇者だよ。間違いない」
「で、ではいかがいたしましょうか?」
「ここに連れておいで。当然だろう?」
「はい!」
カロカロはそう言って駆けだしていった。
勇者が現れたなら、我々は受け入れ、歓迎し、『勇気の試練』へと誘わなければならない。
今回たどり着いた者達のなかに勇者がいることは間違いない。
(だけどなんだろうね。勇者と共にいる、それと同じくらい力強くて、それでいて正反対の性質を感じる存在は)
実際のところ、アルベロは1つの可能性を思いついている。
というよりも、論理的には他の可能性はない。
勇者と同じ大きさの真逆のエネルギーをを持つ者。
そんなものは『魔王』しかいないではないか。
だが、アルベロをもってしても、なぜ勇者と魔王がともにここに来たのかという疑問は見通すことができないのであった。
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