セルアレニとの戦いは、いつの間にか終わっていた。
何故自分が助かったのかも分からない。
気がついたら、宿のベッドの上だった。
ショートは「光の戦士」がどうこうといっていた。
その時のアレルにはサッパリ分からなくて。
だから何も答えられなかった。
その後、バーツ達が冒険者をやめて。
ミリスも怪我が治らなくて戦士を続けられなくなった。
(強くなりたい)
アレルは強くそう思った。
フロルやショート、それに新しく仲間になったライトやソフィネを護れるくらいに。
ううん。それだけじゃない。
みんなを護れるようになりたい。
レベル1の冒険者としての修行の日々。
自分はまだまだ弱いけど、でもやっぱり不思議な力を持っている。
この力はみんなをまもるためのものだ。
誰よりも、誰よりも強くならなくちゃ。
セルアレニにも、レルスにも負けないくらいに!
みんなを護る。
そのために強くなる。
アレルは気づいていなかった。
いつの間にか、自分が6歳にして大陸一の戦士とよべるほどに覚醒していることに。
その力が、幼い彼の心には不釣り合いなほど大きくなっていたことに。
やがて訪れるレベル2の冒険者試験。
アレルは自分の実力が上がっていることを実感できた。
あの魔の森の個体よりも大きなセルアレニも倒せた。
そして、レルスとの決闘。
彼に決闘を申し込まれたこと自体、アレルが強くなったと認められたということ。
アレルだって幼いながらも戦士だ。
レルスという最強クラスの戦士に認められれば嬉しい。
だから、命がけの決闘を受けた。
レルスは確かに強かった。
1年ほど前のレベル1のテストの時、彼は実力の十分の一も出してはいなかったのだと分かった。
だけど。
(アレルも強くなった)
レルスの全力に、アレルも全力で応じた。
経験で優るレルスに、才能で優るアレル。
戦いの結果はアレルの負けだったが、アレルは確かな手応えを感じていた。
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自分が勇者だと聞かされて。
アレルは最初意味が分からなかった。
アレルの知っている勇者様は絵本の中の存在。
アレルはアレルで、勇者様とは違うのに、なんでショートやダルネス達はアレルとフロルが勇者だって言うのだろう。
頭を悩ませて、アレルの中で「勇者とは冒険者の職業の1つ」という結論に達した。
でも、それだけじゃない。
きっと、それだけじゃない。
絵本の勇者様はみんなを護った。
だから、アレルが勇者なんだったら、みんなを護らないといけない。
自分の力は、きっとそのために神様がくれたんだ。
フロルほど複雑な考え方をしないアレルは、そう単純に思った。
(アレルは勇者として生まれた、だからみんなを護らなくちゃいけない)
『護りたい』から『護らなくちゃいけない』に。
自分が勇者だと知ったことで微妙にだが、またアレルの考え方が変わった。
その時の、幼いアレルはそれがどれだけ重い決意か理解していなかった。
だって、アレルにとっての『みんな』はせいぜいエンパレの街の住人全員くらいでしかなかったから。
世界にはもっとたくさんの人が住んでいて、人族だけじゃなくて、エルフもドワーフも、そして魔族もいるんだとか、そんなことは実感できなくて。
いくら剣術がすごくても、全員を助けるなんてできないなんて考えもつかなくて。
微笑ましいほど無邪気に、嘲笑われてもしかたがないほどに無邪気に。
アレルは『皆』を護ろうと決意していた。
だから、生贄の村の人達に怒りつつも、やっぱりドラゴンがいるなら放っておけないと思ったし、実際その事件はアレルの剣術でどうにかできた。
ライトが『風の太刀』を覚えてくれなかったら危なかったようにみえるシーンもあったけど、実際のところは『俊足』を使えばアレルにだってショート達を助けることはできたのだ。
自分はみんなを助けられる。
助ける力を持っている。
勇者として、アレルはみんなを助けて、魔族や魔王さんともちゃんと仲良くなれる。
恐ろしいほどの無邪気さでそう信じていて。
それが甘すぎる考えだったと、王都の戦いで思い知らされることとなった。
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