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(ライト/一人称)
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アレルと俺の決闘というか、ケンカというか、戦いの後。
とりあえず、俺たちは宿の部屋に戻った。
当然ながら、音とかで宿の主人達も俺たちの戦いには気づいていて。
壁だの塀だの壊してしまった件に関しては平謝りするしかなかったわけだが。
タリアが本当に指輪を取り出して弁償代に当てた。
「すみません……」
「ごめんなさい……」
言う俺とアレル。
タリアは「かまいません」と言ってはいたが、目が笑っていない。
実際、金はどうにかしないとな。
いや、金だけじゃない。魔石もだ。
フロルの最大MPはすでにブライアンなんかを遙かに超えて成長しているが、それでも無尽蔵ではない。
金と魔石のほとんどはショートの無限収納に保管してあった。
「それで、国王陛下はなんて?」
ミノルがスキルを使って国王陛下に状況を説明。
その返信内容について聞く。
「そうですね。まずクラリエ王女の護衛はこのまま勇者様にお願いしたいそうです」
ミノルの言葉に難しい顔をしたのはタリア。
「そうですか……」
ショートを欠いた俺たちだけでは王女の護衛として不安なのだろう。
戦闘力はともかく、俺たちは所詮子ども。
しかも、勇者様が精神的なもろさを見せつけたばかりだからな。
「勇者様以外の兵や冒険者に護衛を任せて、もし魔族や操られたショートさんに襲われたら、それこそひとたまりもないだろうというご判断のようですね」
ミノルの言葉に、タリアは言う。
「それは分かりますが……それでも大人の存在は必要では?」
ミノルは笑う。
「もともとそのために、アナタがいるのでしょう?」
「それは……そうですが」
どうも、ミノルは相手を挑発するような物言いをするくせがあるよなぁ。
別に悪意はないみたいなんだけど。
「王都の復興は思った以上に大変みたいですし、マララン大将ならまだしも他の雑兵を呼ばれても勇者様やライトくんからみれば足手まといでしょう?」
足手まといとまではいわないが……いや、確かにそうかもしれない。
王都で何人かの兵士を見たが、マララン以外は見るからに実力不足。
あれならまだゴルあたりに手伝ってもらった方がマシなレベルだった。
一番実力がありそうなヤツが、拷問官だったくらいだ。
もちろん、会っていない兵士の中にはそこそこの実力者くらいはいるだろう。
が、マララン以下なら、俺やアレルからすれば問題外の実力と言わざるをえない。
むしろ、足りないのは戦士よりも……
「戦士より魔法使いが足りないんだけどな」
直接戦闘は戦士の役目だが、魔法使いの後方支援があるなしでは随分違う。
戦いで怪我をしても治してもらえるかどうかというのは、戦士にとって大きな問題だ。
フロルは優れた魔法使いだが、1人では限界がある。
クラリエ王女が俺に言う。
「ランディも魔法使いよ」
「戦闘訓練を受けていない魔法使いでしょう?」
戦いの後の回復はともかく、戦闘中の後方支援をランディに任せる勇気は俺には無い。
魔法使いとしての実力ではなく、戦闘へのとっさの判断力の問題だ。
たとえば、さっきフロルがとっさに『金剛』を使った反射的な判断は彼には無理だ。
……まあ、それはショートも似たようなもんだったが。
そこで、フロルが口を挟む。
「それより、ショート様のことはどうするの?」
フロルやアレルにとって……いや、俺やソフィネだって、今本当に心配なのはその点だ。
「国王陛下としてはなんとも判断できないと」
そりゃそうだ。
アレルが声を出す。
「アレル、ご主人様を助けたい」
だが。
「とはいっても、どうしたらいいのか見当もつかないんだよな」
そもそも、今ショートはどこにいるのか。
居場所が分かったとして、どうすればゲームマスターの支配から解放すれことができるのか。
それが分からないのではどうにもならない。
アレルはフロルにいう。
「フロル、ご主人様助けられないの?」
「それは……私に言われても……」
フロルも困った様子。
そりゃそうだ。
いくら天才児で天才魔法使いでも、この状況ではどうにもならない。
こういう時たよりになりそうな相手というと……
俺がぽつりという。
「頼れるとしたら、ダルネスとか?」
俺達が今まで出会った中で、もっとも魔法とかの分野に詳しいのはあのじいさんだろう。
「そうね……」
フロルがうなずく。
ミノルがいう。
「わかりました。私が『通信』で連絡を取ってみましょう」
「ダルネスとも連絡できるのか?」
「私のスキルは会ったことがない方とは通信できません。残念ながら、ダルネス殿とはお目にかかったことがないですね」
「じゃ、だめじゃん」
「ですが、レルス殿とは面識がありますから。彼を通じてダルネス殿に相談できるかもしれません」
一縷の望みとしては、そのくらいか。
そちらの話が一段落したところで、ソフィネが言う。
「それにさ、お金はどうするの? タリアやクラリエ様の宝飾品を売り続けるわけにもいかないでしょ」
そりゃそうだ。
タリアはもう宝飾類を持っていないし、クラリエ王女はあくまでも依頼人。
依頼人の物を売り続けるわけにはいかない。
俺はミノルに尋ねる。
「国王陛下から追加の依頼料とか支援とかもらえないのか?」
「それもお願いしたのですが、難しいようです。理由は3つ。
1つは王都復興に予想以上の予算がかかっていること。
もう1つはショートさんが受け取った依頼料がそもそも破格だったこと。
これでさらに追加となると、民が納得せず、暴動になりかねないと」
国王陛下のお金って、つまり税金だからなぁ。
もちろん、国直轄のダンジョンからの収入とかもあるだろうけど。
ソフィネが口をとがらせる。
「そんなの、だまっていればいいじゃない」
「そういうふうに国民をだませない方だからこそ、民に慕われているわけで」
かもしれないな。
「そして、3つめの理由なのですが……」
「うん」
「お金はともかく、魔石が王都で枯渇しつつあるようです」
「マジで?」
「ええ、復興に土木作業用の魔法をたくさん使っていたり、王都直轄のダンジョンに近衛兵を送り出す余裕がなかったりと色々理由はあるようですが。いずれにしても、お金はまだしも魔石は送りたくても物がないのが現実です」
なるほどね。
ないものはどうしょうもないもんな。
だがなぁ。
「しかし、現実問題として、金と魔石は必要だぞ」
ミノルはうなずく。
「ええ、そこで国王陛下からご提案いただきました」
「?」
「勇者様達がダンジョンに入って魔石を手にしてくればいいと」
まあ、たしかにそうなるか。
この街の近くにもダンジョンはあるらしいし、俺とアレルとフロルとソフィネならどうとでもなるだろう。
だが、問題は。
「俺たちがダンジョン攻略している間、クラリエ様の護衛はどうするんだよ?」
現実的には、二手に分かれるなどだが戦力不足だと思う。
ダンジョン探索するなら、まずレンジャーのソフィネは必須。タリアもレンジャースキルはあるようだが、彼女は王女の近くにいるべきだろう。
そして、戦士。これも必須だ。さらに魔法使いも欲しい。ダンジョンの中ではどんな事故が起きるか分からない。何かあった時に回復魔法が使えるか否かは大きな差があるだ。
必然的に、クラリエ王女の護衛が俺かアレルのどちらかと、タリアだけになってしまう。
正直、操られたショートがくるかもしれないとなると、オレ1人では手に余る、。アレルは実力的にはショートに勝てるだろうが、精神的にヤバイ。
「その通りですね。答えは簡単。クラリエさまとランディくんもダンジョンにつれていけばいいんです」
ミノルがあっさりそういう。
『はい?』
俺とソフィネとフロル、それにタリアの声が重なった。
一方で、クラリエ王女が身を乗り出す。
「ホントに!? ホントにダンジョンに連れて行ってもらえるの!?」
「ええ、国王陛下からのご提案ですし」
いや、待てよ。だってさ。
フロルが疑問を口にする。
「だって、ダンジョンに行くならのはレベル2以上じゃないと……」
クラリエ王女とランディは、まだ冒険者ですらない。
ダンジョンへの立ち入りは許可されないはずだ。
「実は、この街の近くにも王家が管轄しているダンジョンがあります。そこなら、冒険者レベルに関係なく、国王陛下の許可さえあれば入れますよ。もちろん勇者様達が同意してくださればですが」
俺とソフィネ、それにアレルとフロルは顔を見合わせた。
そして、ため息。
「たしかに、ダンジョンの中なら少なくともショートや魔族におそわれはしないな」
ダンジョンは入るたびに姿を変える。
仮に後から同じダンジョンに誰かが入ろうとしても、別々に入った者がダンジョンないでばったり出会うことはありえない。
「やったー、ダンジョンに行ける!!!」
こうして、クラリエ王女の初めてのダンジョン探索記が始まるのだった。
俺としてはすんごい嫌な予感がするんだけどなぁ。
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