◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(アレル/一人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕は木刀を構え、振り下ろす。
「てやー」
宿の部屋の中に響く僕の声。
僕の隣では、ライトも同じように剣術の稽古中。
それをフロルが冷たい目で見る。
「あのさぁ、2人ともいい加減にしてよ。部屋の中で暴れられるとウザいんだけど。ホコリが立つし。隣の部屋のお客さんにも迷惑」
ソフィネとランディは買い物中なので、ここにいるのは謹慎を命じられた僕ら3人だけ。
「だって~、飽きたんだもん。ねえ?」
「だよなぁ」
この部屋から出るなと命じられて、早10日。
本当に、トイレ以外は外に出ていない。
食事すら部屋の中でしろと言われているのだ。
こんなんじゃ体はなまるし、何より暇で暇でしょうがない。
「レルスもあんなにおこんなくてもいいのに」
ぶーっと頬を膨らませる僕。
10日前のことを思い出す。
---------------
ブラネルド王国軍との決闘で勝利して半日ほど。
そろそろ日も暮れようという時間帯。
勇者一向に与えられた王城の一室で、僕らはレルスに睨まれていた。
ちなみに、僕らというのは僕とフロルとライトの3人。
ソフィネとランディは別行動中。どうやらランディがクラリエ王女に呼ばれたらしく、ソフィネもそれに付き添っている。
「さて、言い訳を聞こうか?」
レルスの声が恐い。
怒声というのではなく、冷たい声だけど……
僕はフロルとライトにささやく。
「レルス、怒ってるよね?」
「ええ、たぶん」
「怒ってるな」
「だよね-」
などと僕らが言い合っていると、レルスがキレた。
「こそこそ話しても聞こえているぞ」
まるで『威圧』を使われたかのように僕らはシュンっと縮こまる。
ううぅ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。
フロルが恐る恐ると言った様子でレルスに言う。
「あの……私達は何について怒られているんでしょう……?」
「もちろん、いきなりこの国と決闘などをしたことだ」
やっぱりそうだよね。
でもさ……
「だけど、レルスも審判を引き受けてくれたじゃなん」
「国王陛下からの正式な依頼となれば断れないし、そもそもあそこまで話が進んで止められないとなれば、近くで見守るしかないだろう。
で、なんで決闘などと?」
「それは……」
僕らは王様に会って話したことを説明する。
話せば話すほど、レルスは頭を抱えた。
「それでは最初から国王陛下を挑発したようなものではないか」
「だって、王様がむちゃなことをいうからさ。魔王に勝てるって思い込んでいるし、そのまま戦争になったらまずいかなぁって……」
「だからといって、国を相手に決闘など常軌を逸している!」
ううぅ……
「そもそも、勇者については秘密だと言っただろうが」
「僕らだって、まさか王様が『勇者との決闘』なんて皆に言うとは思わないし」
そう。
僕としては決闘はするにしても、勇者が相手だって王様が国民に宣伝するなんて思わなかったのだ。
「ただの子どもと国軍が決闘など、それこそ国民から非難されるだろう。国王陛下としては決闘をするならば勇者が相手だといわざるをえない」
「そんなもんなのかな?」
「そんなもんだ!」
ううぅ。
レルスってば、本当に怒ってるなぁ。
「私もうかつだった。ショートくんとミノルくんがいなくなったと聞かされた時点で、君たちの勝手を許すべきではなかった。少なくとも、国王陛下との謁見は私が着きそうべきだったな。子どもだけで王宮に行かせるなど、判断ミスだった」
ライトが反論する。
「でも、俺たちはちゃんと冒険者資格を持ってる。子ども扱いするなよ」
「確かにライトはその通りかもしれん。だが、アレル、フロル、君たちの冒険者カードに付記してある言葉を忘れたわけじゃあるまい?」
えーっと『※ただし満十歳までは大人の冒険者とパーティを組んだときに限る』ってやつかな?
僕は言い返した。
「そりゃ、覚えているけど、ほら、ライトとソフィネが保護者ってことで……」
「ライトやソフィネも大人とはいえないだろう。そもそも国王陛下との謁見時は2人もいっしょではなかったと聞いているぞ?」
ううぅ。
確かにその通りだけどさぁ。
でもさ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか。
と、フロルが言う。
「ですが、レルスさん」
「なんだ?」
「そもそも、エンパレを旅だったときとは状況が違います」
「どういう意味だね?」
「アラバランでの魔族の襲撃。それによる被害。そのことはすでにこの国にも伝わっています」
「だから?」
「勇者や魔王の生誕は、もはや隠し立てする時期を過ぎているということです。むしろ、下手に隠し立てするといらぬ憶測を生みかねないかと」
フロルの言葉に、レルスは少し考える。
そして、「はぁ」と大きくため息。
「それを判断するのは君たちじゃない」
「勇者は私達よ」
「だとしてもだ。少なくとも相談もなく勝手は困る。勇者の生誕を広めることと、君たちが勇者だと広めることの意味も違う」
……よくわからない。
僕が首をひねっていると、レルスが言う。
「勇者だとバレれば、まず君たちに危険が及ぶだろう」
「魔族や魔王に襲われるってことですか?」
「それだけではない。人族やエルフ、ドワーフらにしても、勇者の力を金もうけにつかおうとする者や自分の欲望のために使おうとする者がいないとなぜ言える?」
つまり、僕らが浚われたりすると困るってことかな?
「うーん、でも僕ら強いし?」
その言葉に、レルスは冷たい目。
「自分達の力を過信して調子に乗っているのは、国王陛下ではなく君たちではないのかね?」
その言葉に、僕は「うっ」とうめく。
強烈なカウンターパンチを食らったような気分だ。
「とにかく! これ以上子どもの理屈で勝手は困る。これ以上王城にいてさらなるトラブルに見舞われても迷惑だし、しばらくは宿で謹慎だ。いいな?」
レルスはそう言って僕らを王城から宿屋の一室に引っ立てたのだ。
----------------------------
で、今に至る。
その後は、10日間ずーっと部屋の中に閉じ込められて。
決闘に参加しなかったソフィネとランディの外出は許されているけど、僕ら3人はトイレ以外で部屋から出ちゃダメと言われている。
僕は飽き飽きしていた。
レルスもいないし、内緒でお散歩行っちゃダメかな?
「いつまでここにいなくちゃいけないんだろう」
暇で暇でどーしょーもない。
「私はたまにはこういう時間も嬉しいけど。この本も面白いし」
そりゃね。
フロルはいいよ。
クラリエ王女を通じてお城の図書館から借りた本を読み放題だもん。
読書が好きな彼女は暇ってこともないのだろう。
「だって暇なんだも~ん」
「じゃあ、アレルも読書したら?」
「絵本ないし」
「文章だけの本も読みなさいよ。歴史とか魔法とか、あ、剣術の本もあるわよ」
「僕は文字を見ていると頭の中がぐっちゃぐちゃになって混乱してたおれちゃうの!」
「……それ、威張って言うことじゃないでしょ」
僕だって一応文字は読める。
ご主人様に教えてもらったからね。
でも、単語ならともかく文章を読むのは無理。
それはライトも似たようなものらしく。
「ってか、このままだと体がなまっちまうよな」
そんなわけで、木刀を振り回してみたんだけど、やっぱり無理があった。
ひょっとして、これってレルスから僕らへの罰だったりするのかな。
そんなことを思っていたときだった。
扉がノックされた。
ソフィネとランディが帰ってきたのかな?
でも、『気配察知』では誰のの反応がない
「はい?」
フロルが返事をして扉を開ける。
だが、その先には誰もいない。
「???」
ノックの音は聞こえたのに、どういうことだ?
……
…………
………………
いや、違う。
やっぱり扉のところに誰かいる!!
見えないし、『気配察知』でもわからないけど、僕の直感が告げる。
「フロル、さがって」
僕はフロルを部屋の中へと引っ張り、謎の気配にむけて真剣を向けた。
「アレル、どうしたんだ?」
「誰かいる」
「え? 『気配察知』には……」
「でも、いるよ」
僕の『気配察知』すらごまかせるとしたら、そうとうな使い手だ。
しかも透明人間かもしれない。
警戒するなって方が無理。
と。
「ちょ、ちょっと待って!!」
僕が剣を向けたからか、相手の方が声を出した。
透明なカーテンが床に落ちるがごとく、相手の姿が徐々に見えるてくる。
同時に『気配察知』にも引っかかるようになった。
現れたのは2人。
どちらも僕と同じくらいの年齢の子ども。
男の子と女の子だ。
なんだ?
この子達一体!?
ライトが警戒の声を出す。
「お前、何者だ?」
こんなところに現れた透明人間がただの子どもなわけもない。
「オイラ達、怪しい者じゃないよ!」
いや、透明人間はさすがに怪しいと思うよ?
ライトがもう一度尋ねる。
「何者かと聞いているんだが?」
「えっと、こんにちは。オイラ達が魔王です。よろしくね、勇者アレルくん」
その言葉に……
『は?』
僕らは一声あげて、それから絶句するしかないのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!