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(○○の○○/三人称)
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勇者とブラネルド王国との決闘。
なぜそれがおこなわれることになったのかは知るよしもない。
いずれにせよ、勇者の力は圧倒的だった。
王国側も、最後に最強の2人の戦士を残していたが、決着は時間の問題だろう。
闘技場の観客席から、その戦いをジッと見守っている2人。
背は低い。というか、小さい。
6歳の勇者達とかわらない。
彼らが人族だと仮定するならば、どうみても幼児だろう。
もっとも、フードを目深にかぶり、全身を隠してるのでドワーフやエルフの可能性もある。
ドワーフならば、大人でも背が低くてもおかしくはない。
2人は小声で話す。
「ワイルス。勇者について、どう思う?」
「オイラわかんないよ。タレイスより強いの?」
「今見せたのが実力の全てだっていうなら、私だけでアレルくんには勝てるよ、たぶんね」
「ふーん。やっぱりタレイスはすごいねー」
「ま、アレルくんは全部の実力なんて見せてないと思うけど」
「そーなの?」
「そーなの!」
「どーしてわかるの?」
「そりゃ、戦士同士の勘?」
「そうなんだー、戦士ってすごいねー」
尊敬のまなざしでタレイスを見るワイルス。
その目には一点の曇りもない。
ワイルスにとって、タレイスは憧れの存在だとしれる。
「それにさ。アレルくんだけならともかく、フロルちゃんの魔法も一緒だとねぇ。私1人じゃ勝ち目はないかな。勇者じゃないけど、ライトルールさんもそこそこ強いみたいだしね」
「そーなんだ。こまったねー」
「他人事みたいにいわないでよ」
「だって、オイラには戦う力なんてないもん」
「あんたはねぇ……」
タレイスがため息をつきかけたとき。
闘技場では決着が付いた。
結論を言えば勇者の勝ちだ。
アンデウスやガイロスという戦士も弱かったわけじゃない。
2対1ならば、勇者アレルともそこそこ戦えていた。
鞭を失ったと見せかけて、服の中に予備を隠してアレルの不意をついたのも功をそうし、一時は優位にすら立ち回った。
だが。
2人の大人の戦士は忘れていたのだ。
そもそもこの戦いは2対1ではなかったという事実を。
ライトルールとフロル。
彼と彼女は未だダメージすら受けていなかった。
ライトの不意打ち的な『光の太刀』でアンデウスの2本目の鞭が叩き切られた。
さらに、せっかくアレルに与えたダメージも、フロルの魔法で回復してしまう。
この国の王子とやらが「不意打ちだ、卑怯だ」と騒いでいるが、むろんそんなのはただの寝言である。
闘技場の外から選手でもない人間が攻撃したならともかく、フロルもライトルールも選手として最初から闘技場にいたのだ。不意打ちのわけもない。
天性の戦士としての感覚がタレイスにはある。だから、このたたかいの意味が分かる。
勇者アレルはある意味おとりだったのだ。
アレル1人で戦う様子を見せて2人の注意を釘付けにし、いざとなったら他の2人が乱入する。
最高戦力をおとりにするとは贅沢な話だが。
アレル自身の策略には見えない。ライトルールか、あるいはフロルかがアレルの行動を利用したのかもしれない。
「オイラ達が勇者に勝てないと、やっぱりまずいの?」
「ま、戦争になればね」
「だよねぇー」
「戦争にしたくはないんだけど」
「でも、勇者達は……」
そこまで2人が話したときだった。
「おい、君たち」
話しかけてきたのは身なりのいい金髪の男。
いや、少年といった方が年齢的には正しいか。
ワイルスはにっこり微笑んで応じる。
「なあに、おにいちゃん?」
「子ども達だけのようだが、親御さんは?」
「ママとパパはいないよ。オイラ達を産んですぐに死んじゃったから」
「そうか、それは失礼した。だが、子どもだけでは心配だな。誰か大人と一緒ではないのか?」
「大丈夫だよ。タレイスは強いから」
などと話していると、そのタレイスが立ち上がる。
「ワイルス、行きましょう」
「でも、勇者は……」
「もう、戦いは終わったわ」
「わかった」
ワイルスも立ち上がる。
金髪の少年が慌てる。
「おい、ちょっと……」
「おにいちゃん、さようなら」
「いや、え?」
金髪の少年は少し判断に困った様子だが、後ろから声をかけられてワイルス達から目を離してしまう。
「なにやっているのよ、ランディ」
「いや、ソフィネ。すまん。この子ども達を……」
「子どもなんていないけど?」
「え?」
ランディが改めてワイルス達が居た場所を振り返ると、確かに2人の子どもは消えていた。
「なに? 何かあったの?」
「いや、子ども……それでも幼児だけでいたからな。迷子かと思ったんだが」
「私はむしろ、アナタが迷子になったんじゃないかと心配だったんだけど?」
「いや、それは……すまん」
ランディとソフィネがそんな会話をしているとき。
ワイルスとタレイスは別に闘技場から出ていたわけではない。
タレイスはともかく、ワイルスは『俊足』みたいなスキルは使えない。
彼らは身を隠していただけだ。
絶対に見つからない方法で。
その力が合ったからこそ、南大陸からここまで幼児2人でこれたのだ。
勇者を見るために。
自分たちと対の存在に近づくために。
闘技場でランディとほんの少しの会話を交わした男の子と女の子。
双子のワイルスとタレイスは産まれ故郷ではこう呼ばれていた。
すなわち――
――魔王と。
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