異世界で双子の勇者の保護者になりました

ちびっ子育成ファンタジー!未来の勇者兄妹はとってもかわいい!
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【番外編】

【番外編18】勇者と○○

公開日時: 2021年6月24日(木) 17:58
文字数:2,124

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(○○の○○/三人称)


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 勇者とブラネルド王国との決闘。

 なぜそれがおこなわれることになったのかは知るよしもない。

 いずれにせよ、勇者の力は圧倒的だった。

 王国側も、最後に最強の2人の戦士を残していたが、決着は時間の問題だろう。


 闘技場の観客席から、その戦いをジッと見守っている2人。

 背は低い。というか、小さい。

 6歳の勇者達とかわらない。

 彼らが人族だと仮定するならば、どうみても幼児だろう。

 もっとも、フードを目深にかぶり、全身を隠してるのでドワーフやエルフの可能性もある。

 ドワーフならば、大人でも背が低くてもおかしくはない。


 2人は小声で話す。


「ワイルス。勇者について、どう思う?」

「オイラわかんないよ。タレイスより強いの?」

「今見せたのが実力の全てだっていうなら、私だけでアレルくんには勝てるよ、たぶんね」

「ふーん。やっぱりタレイスはすごいねー」

「ま、アレルくんは全部の実力なんて見せてないと思うけど」

「そーなの?」

「そーなの!」

「どーしてわかるの?」

「そりゃ、戦士同士の勘?」

「そうなんだー、戦士ってすごいねー」


 尊敬のまなざしでタレイスを見るワイルス。

 その目には一点の曇りもない。

 ワイルスにとって、タレイスは憧れの存在だとしれる。


「それにさ。アレルくんだけならともかく、フロルちゃんの魔法も一緒だとねぇ。私1人じゃ勝ち目はないかな。勇者じゃないけど、ライトルールさんもそこそこ強いみたいだしね」

「そーなんだ。こまったねー」

他人ひと事みたいにいわないでよ」

「だって、オイラには戦う力なんてないもん」

「あんたはねぇ……」


 タレイスがため息をつきかけたとき。

 闘技場では決着が付いた。


 結論を言えば勇者の勝ちだ。

 アンデウスやガイロスという戦士も弱かったわけじゃない。

 2対1ならば、勇者アレルともそこそこ戦えていた。

 鞭を失ったと見せかけて、服の中に予備を隠してアレルの不意をついたのも功をそうし、一時は優位にすら立ち回った。


 だが。

 2人の大人の戦士は忘れていたのだ。

 そもそもこの戦いは2対1ではなかったという事実を。


 ライトルールとフロル。

 彼と彼女は未だダメージすら受けていなかった。

 ライトの不意打ち的な『光の太刀』でアンデウスの2本目の鞭が叩き切られた。

 さらに、せっかくアレルに与えたダメージも、フロルの魔法で回復してしまう。

 

 この国の王子とやらが「不意打ちだ、卑怯だ」と騒いでいるが、むろんそんなのはただの寝言である。

 闘技場の外から選手でもない人間が攻撃したならともかく、フロルもライトルールも選手として最初から闘技場にいたのだ。不意打ちのわけもない。


 天性の戦士としての感覚がタレイスにはある。だから、このたたかいの意味が分かる。

 勇者アレルはある意味おとりだったのだ。

 アレル1人で戦う様子を見せて2人の注意を釘付けにし、いざとなったら他の2人が乱入する。

 最高戦力をおとりにするとは贅沢な話だが。

 アレル自身の策略には見えない。ライトルールか、あるいはフロルかがアレルの行動を利用したのかもしれない。


「オイラ達が勇者に勝てないと、やっぱりまずいの?」

「ま、戦争になればね」

「だよねぇー」

「戦争にしたくはないんだけど」

「でも、勇者達は……」


 そこまで2人が話したときだった。


「おい、君たち」


 話しかけてきたのは身なりのいい金髪の男。

 いや、少年といった方が年齢的には正しいか。

 ワイルスはにっこり微笑んで応じる。


「なあに、おにいちゃん?」

「子ども達だけのようだが、親御さんは?」

「ママとパパはいないよ。オイラ達を産んですぐに死んじゃったから」

「そうか、それは失礼した。だが、子どもだけでは心配だな。誰か大人と一緒ではないのか?」

「大丈夫だよ。タレイスは強いから」


 などと話していると、そのタレイスが立ち上がる。


「ワイルス、行きましょう」

「でも、勇者は……」

「もう、戦いは終わったわ」

「わかった」


 ワイルスも立ち上がる。

 金髪の少年が慌てる。


「おい、ちょっと……」

「おにいちゃん、さようなら」

「いや、え?」


 金髪の少年は少し判断に困った様子だが、後ろから声をかけられてワイルス達から目を離してしまう。


「なにやっているのよ、ランディ」

「いや、ソフィネ。すまん。この子ども達を……」

「子どもなんていないけど?」

「え?」


 ランディが改めてワイルス達が居た場所を振り返ると、確かに2人の子どもは消えていた。


「なに? 何かあったの?」

「いや、子ども……それでも幼児だけでいたからな。迷子かと思ったんだが」

「私はむしろ、アナタが迷子になったんじゃないかと心配だったんだけど?」

「いや、それは……すまん」


 ランディとソフィネがそんな会話をしているとき。

 ワイルスとタレイスは別に闘技場から出ていたわけではない。

 タレイスはともかく、ワイルスは『俊足』みたいなスキルは使えない。


 彼らは身を隠していただけだ。

 絶対に見つからない方法で。

 その力が合ったからこそ、南大陸からここまで幼児2人でこれたのだ。


 勇者を見るために。

 自分たちと対の存在に近づくために。


 闘技場でランディとほんの少しの会話を交わした男の子と女の子。

 双子のワイルスとタレイスは産まれ故郷ではこう呼ばれていた。

 すなわち――


 ――魔王と。

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