転がり落ちるように屋根から飛び降り。
背後から感じた強烈な熱波に振り返ると、一瞬前まで俺達が屋根に立っていた建物がまるごと吹っ飛んでいた。
やべぇ。
マジで九死に一生だった。
かつてシルシルに言われた忠告が脳裏に蘇る。
『魂が破壊されれば、この世はもちろん、輪廻の間にも、あの世にも行けん。完全に消滅する。もちろん、日本で蘇生することもできなくなる。無理矢理蘇生させても完全に廃人状態になるじゃろう』
魔法を覚えて強くなったつもりで、また俺は無茶をしてしまった。
自分だけじゃない。ライトも危険に晒したし、あるいはアレルやフロルも今ごろ危ないかもしれない。
二手に分かれれば効率的などと安易に判断してこのザマだ。
だが、俺に後悔している暇はなかった。
俺達が逃げたのを見て、ドラゴン達はさらに追撃を書けてくる。
「走るぞ、ショート!」
ライトが叫び、駆け出す。
俺も慌ててついていく。
グキっ。
右足に痛み。
どうやら屋根から落ちたときにひねって捻挫したらしい。
『怪我回復』を使いたいが、その余裕はないか。
必死にライトのあとを走る俺。
ライト1人ならば、もっとずっと速く走れる。
もともとの体力の違いがある上に、『俊足』スキルも持っているのだから。
俺が彼の後についていけるのは、彼が俺にあわせて走ってくれているからに他ならない。
これ、完全に俺足手まといだ。
だが。
「どこに向かっているんだよ!?」
問う俺に、ライトはいう。
「アレル達と合流する!」
確かにそれしかないか。
この状況、街の人達を救う以前に、俺達の命が危ない。
一度は別れたが、ここは戦力を集中させて対処するしかあるまい。
アレルたちの元へドラゴンを案内する形になってしまうが、致し方がない。
俺達は南の街の方向へと走る。
だが。
道が複雑すぎる!
渋谷や池袋なみのゴチャゴチャだ。
むしろ、大通りがないぶん、それらよりも分かりにくい!
「くそっ、行き止まりだ」
結局、俺達は袋小路に追い詰められてしまった。
慌ててUターンしようとするが、そこにはすでにドラゴンの大群が!
「くっ!」
こうなったらやるしかないか。
俺は思念モニターを表示し、魔法を使う。
炎系はほとんど効果が無かった。
ならば一か八か!
『吹凍雪』を放ってみる。
威力としては『火炎連弾』に劣るが、モンスター相手には相性というものもある。
少なくとも、セルアレニにはこっちの方が効果があった。
ドラゴンとセルアレニには『炎を吐く』という共通点もある。
巻き上がる吹雪に、襲い来るドラゴンたちの動きが止まった。
効果がある……か?
だが。
効果はあっても倒し切れてはいない。
ドラゴン達が再び口を開く。
また炎を吐くつもりか!?
今度は逃げ場がないぞ!
『水連壁』を使うしかないか!?
受けきれるかは微妙だが。
と。
ライトが飛び上がる。
何を!?
上空6メートルほどを飛ぶドラゴンに接近!
さすがのドラゴンもこれは予想していなかったのか、対処できていない。
ライトは剣を振るい、一匹のドラゴンの首を切断!
すっげー。
やっぱり、アイツも天才だ。常人の力じゃない。
一般の戦士なら、ドラゴンに斬りつけても鱗に弾かれているんじゃないか?
いや、そもそも6メートルも飛び上がれないだろう。
首を切られたドラゴンが地上へ落下する。
が、当然、落下するのはドラゴンだけではなく。
ライトもまた地上へ。
他のドラゴンたちからすれば、それは良い的でしかない。
仲間の敵討ちとばかりにライトへとドラゴンの口から炎が放たれる。
「ちっ」
ライトは舌打ちしながら剣を構える。
『風の太刀』で相殺するつもりだろう。
だが、さすがに10匹近いドラゴンが同時に吐いた炎に対抗できるとは思えない。
俺は慌てて魔法を入力。
『水連壁』を使う準備をし、ライトに駆け寄ろうとする。
しかし、数秒間に合わない!
ドラゴンの口から炎が放たれ、ライトに襲いかかる!
「ライト!」
叫ぶ俺。
『風の太刀』を放つライト。
荒れ狂う炎。
これ、ガチで……
ライトの死すら覚悟する俺。
だが、炎が治まったとき、ライトはまだ倒れずその場にいた。
全身焼けただれ、服も燃えかすのようになっているが、それでも剣を握っている。
どうやら生きているらしい。
むしろ、『生きてはいる』といったかんじだが。
俺は慌てて『水連壁』をキャンセル。
ライトに『怪我回復』を使う。
「サンキュ、ショート」
笑うライトだが、表情は険しい。
回復しきれていない。
大きな火傷こそ治っているが、全快とはいっていない様子だ。
「無茶するなよ」
言いつつも俺は理解していた。
ライトが無茶をしたのは、俺を庇うためだ。
俺のステータスではたとえ『水連壁』で威力を弱めても、ドラゴンの炎を喰らったら死にかねない。
もう一度回復魔法を使うべきか?
だが、それよりも残りのドラゴンを……
思ったときだった。
上空の魔の空より、これまでよりも数倍大きなドラゴンが、俺達の方に悠然と下りてきたのだった。
「かんべんしろよ……」
俺は誰にともなく言うのだった。
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