レルスは俺達一人一人のダンジョンでの行動について述べ始めた。
「まず、ショート・アカドリくん」
「はい」
「魔法使いとして、君は優秀な能力を持っている。『地域察知』と『無限収納』を両方持っているのはダンジョン探索で極めて有利に働くだろう。攻撃魔法と回復魔法両方使える点も大変利便性が高いといえる」
「ありがとうございます」
ふむ、なかなかに高評価……かな? これなら合格?
しかし、レルスは続けた。
「だが。せっかくの魔法も使いこなせなければ宝の持ち腐れだ。
まず、ダンジョン内での『地域察知』の効果に気づくのが遅すぎる。私は何度もヒントを出したし、そうでなくともダンジョンに入って即試すべきだった」
ううっ!?
「さらに、状況を分析しようとしているのかもしれないが、とっさに魔法を使えない場面が目立つ。セルアレニが現れた瞬間、攻撃魔法も防御魔法も使おうとせず、なかば思考停止していたのがもっともたるところか。また、いくら後衛とはいえ、体力が低すぎる。これでは不意打ち一発で致命傷になりかねない」
ぐうの音も出ない。
「次に、ライトルールくん」
「はいっ」
「君はなかなかに強い戦士だ。エルモンキ4匹を相手に圧倒できる戦士はそうはいまい。セルアレニに恐れることなく、自らの力でできる限りの戦い方をした点も高く評価しよう」
「はい」
ライトはかしこまりまくっている。
「だが、一方で先走った行動や迂闊な行動も多い。スライムの特性を検討しなかった点や、宝箱の罠にあっさりはまった点はいただけないな。しかも後者はレンジャーであるソフィネの警告を無視した形だ」
「……はい」
ライトはしょんぼりと小さくなる。
「ソフィネくん。君はレンジャーとして相当優秀だ。並のレンジャーならば、宝箱の鑑定は10が限界だったはずだ。お父様も鼻が高いだろう。のみならず、弓を扱うアーチャーとしてもかなりの実力を持つ」
「ありがとうございます」
うん? ソフィネの父親?
「だが、その力を活かしきれていない。まず、第一に宝箱のダンジョン以外で罠鑑定を怠っている。洞窟型のダンジョンでも床や壁に罠があることがある。今回それにであわなかったのは、まあ、たまたまだな」
「ううぅ?」
「それに、弓矢が上手いのはいいが、矢の回収を怠っている場面があった。谷のダンジョンはともかく、他の場所ではできるかぎり矢は回収すべきだろう」
「それは……」
「そして、なにより。先ほどライトルールくんに指摘した宝箱の罠の件。たしかにライトルールくんが迂闊ではあるが、レンジャーならばもっと強く具体的に警告すべきだった」
「……はい」
ソフィネもしょんぼり状態に。
「フロルくん」
「はい」
「君はショートくん以上の優れた魔法使いだ。さらに年齢に対して頭の良さも評価できる。思念モニタへの入力も早い。岩のダンジョンで『泥沼』を使った判断もすばらしいし、セルアレニの攻撃を先読みして『水連壁』の入力をしていたのも評価できる点だ」
「ありがとうございます」
しかし、レルスの言葉はもちろん終わらない。
「だが、入力スピードへの自信からか、事前の準備が甘い。主の間に行く前に、『力倍増』や『金剛』を全員にかけることは考えなかったのかね?」
「あっ……」
「それ以前に、そもそも『金剛』は攻撃をうけるまで有効なのだから、ダンジョンに入る前に全員に保険としてかけておくべきだな。これは、むしろ前衛よりも一撃が致命傷になるも後衛に行なうべきだが」
「仰るとおりでした」
フロルも小さくなる。
「そして、アレル」
「はい」
「君の戦士としての力は大したものだ。おそらく、大陸中探しても5本の指に入るだろう。その年齢で『風の太刀』、『光の太刀』、『炎の太刀』、『天下無双』などを操るなど、はっきりいって規格外だ。セルアレニの首を両断した時の跳躍力、胆力、勇気、実力、どれも申し分ない」
だが、とレルスは続ける。
「スライム相手に『炎の太刀』で燃やすことを自分で思いつかなかったのはいただけないな」
「ごめんなしゃい」
「そして、第二階層での醜態。これははっきりいって、庇いようがない。もっとも勇敢であるべき戦士として、あるまじき行動だ」
「うう」
「それと、試験とは直接関係ないが、いいかげん舌っ足らずなのはなおすように。ダンジョン探索はともかく、外部からの依頼では雇い主からの信頼にかかわる」
「はい」
さらに、とレルスは続ける。
「パーティー全員、行き当たりばったりが多い。まず根本的にダンジョンに行く前に事前準備をしなかった」
どういう意味だと首をひねる俺達。
「たとえば、矢や魔石の補充。薬草などの消費物、万が一武器を失った場合の予備の武器などなど、ダンジョンに行く前に用意しておくべきアイテムがいくらでもあるのに、それを用意しようとする様子がみられなかった。ショートくんの『無限収納』があるのだからなおさらだ」
「それは試験だから……」
「誰もダンジョンに行く前に店によってはいけないとは言っていない。いいか悪いか私に尋ねることすらしていない」
俺の反論も、レルスは一刀両断。
「他にも、見張りの男にこのダンジョンはどのようなものなのか尋ねる方法もあっただろう。私は試験官という立場上何も言えなかったがな。
また、第四階層ではまだまだタイムリミットまで時間があったのにもかかわらず、早々に次の階層に行ってしまった。ダンジョン探索の目的は魔石集め。余裕がある場合は時間切れギリギリとまでは言わないが、ある程度粘るべきだろう」
レルスによる数々のダメだし。
はっきりいって、ダンジョンで受けたダメージよりも、俺達の心にぶっささりまくる。
ここまでダメ出しされたのでは、ひょっとして俺達は不合格なのか?
「それらをふまえてだ。今回の試験結果だ」
そういって、レルスは俺達に冒険者カードを返すのだった。
――そして。
俺達はカードに表示されている内容に驚愕することになる。
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