「ここにいるのは分かっているのよ、勇者! 私と勝負しなさい!」
やたらと響く声。
俺は頭を抱える。
ライトがあきれ顔で言う。
「なあ、これってあの王女さんの声だよな」
いや王女には『さん』じゃなくて『様』をつけろよ……
……と、ツッコミを入れる気にもなれない。
次々とやってくる出来事に、俺は軽く頭痛を覚えつつも、誰にとはなく問う。
「なんで、クラリエ王女がここにいるんだ?」
むろん、それに答えられる者などいるわけもなく。
ソフィネが俺に言う。
「いずれにしても、このまま勇者がどうこう叫ばれ続けるのはマズイでしょ」
それはその通りだ。
「アレル、フロル、ついてきてくれ」
俺がそう言うと、ライトが言う。
「俺とソフィネは行かなくて良いのか?」
その問いに、俺は目線だけでリラレルンスとラクラレンスを示す。
今、あの2人を放置したくない。
本当に問題なのはあの2人の動向であって、暴走王女様ではないのだ。
この部屋の中にいる限り何もできないと思いたいが、それぞれがどんなスキル持ちかも分からないのだ。
ライトとソフィネには2人を見張っていてもらいたい。
俺のその意図は伝わったらしく、ライトとソフィネは軽くうなずいてくれた。
俺は双子を引き連れ、1階へ。
クラリエ王女は宿の外で未だ、「勇者出てこい」と騒いでいる。
1階の食堂には、宿泊客らが『なんだなんだ』と集まっていた。
その中にはゴルもいる。
「あれ、王女様だろ」
小声でそう言ってくるゴル。
「知っているのか?」
「以前、遠目にみただけだがな。他の何人かも知っていると思うぞ」
だよなぁ。
王女様ともなれば、王都の民の前に顔を出すこともあるだろう。
しかし、だからといって、こんなところで騒ぐことが許される身分でもないと思うんだが。
ええい、もうしかたがない。
俺は、とりあえず1人で宿の外に出た。
まさか、いきなり殺されはしないだろうし、双子と対面させる前に事情というか、用件を聞いておきたかったのだ。
「やっと現れたわね! 勇者の一味! 勇者はどこ!?」
クラリエ王女は腕組みして、大いばりの格好でこちらを見ている。
さらに、クラリエ王女の後ろには同い年くらいの1人の少年。
彼はやたらオドオドしている。
その2人を、民衆が遠巻きに見ているという図。
俺はクラリエ王女に尋ねる。
「これは一体何の騒ぎですか?」
「勇者が出てきたら直接話すわ!」
「このことはお父様――国王陛下はご存じなんですか?」
「お父様は関係ないわよ!」
いや、関係なくはないだろう。
などと、やっていると、クラリエ王女の横にいた少年が小さな声でおずおずと言う。
「クラリエ様、本当、やめましょうよ、こんなこと。国王陛下にどんなお叱りを受けるか……」
まったくである。
なんとなくだが、少年はクラリエ王女の小姓的な立場のように見える。
いや、小姓というのは男性主君に仕える者のことだったか?
などと、考察する暇もなく。
「ランディうるさい!」
クラリエ王女が少年――ランディの顔面をグーパンチ!
思いっきり決まった。
いや、それはもう見事なほどに。
そのままノックアウトされて、倒れるランディ。
鼻血まで流して、グロッキー状態だ。
回復魔法使うべきかな?
そんなことすら考えてしまうが、クラリエ王女にとってはどうでもいいらしい。
「さあ、勇者を呼びなさい!」
参ったなぁ。
昨日から勇者のことを秘密にしておいたのが台無しすぎる。
「ですから、先に用件を仰ってください」
俺はもう一度クラリエ王女に言う。
「王女の命令が聞けないの!?」
確かに、相手は王族だ。
権力者には間違いない。
だが。
「国王陛下が承知されていないご様子ですし、聞く理由はありません」
わがまま王女にもそれなりに権力はあるだろうが、国王陛下には及ばない。
もちろん、勇者という存在にもだ。
ここでわがまま王女に逆らったとしても、国王陛下が勇者の味方である以上罰せられる恐れは限りなく低い。
「キーッ!」
叫び、地団駄を踏むクラリエ王女。
つーか、リアルに『キーッ!』って叫ぶ人、初めて見たぞ……
マジでどうしたもんやら。
放っておけば、そのうち兵士とかが来てくれそうな気もするが、それまで騒がれ続けるのも困るし。
つーか、そもそも護衛なしでなんで王女様がここにいるんだよ。
王女のグーパンで沈んだランディが護衛とはとても思えないよなぁ。
などと、考えていると。
「ほら、クラリエ様、もうお城に戻りましょう」
いつの間にか復活したランディがクラリエ王女の服の裾を引っ張る。
何気ない行動だが、それが許されているってことは、この少年もそれなりの身分ってことだろう。
普通なら同年代の男性が王女の服を引っ張ったりなどできるわけがない。
「うるさいって言っているでしょ! ランディのくせに生意気よ!」
クラリエ王女は叫び、再びランディの顔面にパンチ。
再度ノックアウトされてしまうランディ。
数分前と全く同じ光景。
デジャブか!?
これ、どうしたらいいのやら。
などと思っていると。
「ああ、もう、うざい!」
これ以上我慢ならないと、フロルが宿から飛び出して叫んだ。
「一体何なのよ、このバカ王女は!?」
おい、フロル!
「誰がバカよ!?」
「アンタに決まっているでしょ!」
「勇者でもないガキにバカ呼ばわりされるいわれはないわ」
「私も勇者よ!」
おい、フロル!
俺は慌てる。
クラリエ王女が騒ぎまくった時点で、アレルが勇者っていうのは最悪広まってしまうことを覚悟していた。
が、フロルも勇者だって言うのは、まだ隠し通せるかと考えていたのに。
クラリエ王女が鼻で笑う。
「私の剣をよけられもしなかったのに、勇者!? 笑わせるわね」
国王との最初の面会の時のことか。
「私は、魔法と頭脳担当なの!」
「ふん、魔法がなによ! そんなのランディだって使えるわ」
どうやら、ランディは魔法使いらしい。
だとすると、ある程度は護衛役でもあるのか?
もしそうなら、王女にノックアウトされている場合ではないと思うんだが。
「で、結局何のようなの?」
「だから、勇者が出てきたら教えるわよ」
この場合の勇者っていうのはアレルのことだよなぁ。
しょうがない。
このままじゃらちがあかないし。
「アレル、出てきて」
「わかったぁ」
俺の指示に、アレルも宿から出てくる。
「ようやく、出てきたわね!」
クラリエ王女は言って、アレルを指さす。
「勇者! 私はアンタに決闘を申し込むわ!」
おいおい。
いきなり何を言い出しますか、この王女様は。
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※すみません、昨日更新作業忘れていました。
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