異世界で双子の勇者の保護者になりました

ちびっ子育成ファンタジー!未来の勇者兄妹はとってもかわいい!
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【番外編】

【番外編11】戦いの後始末

公開日時: 2021年2月14日(日) 20:38
文字数:3,598

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


(タルオネウス・ル・アレキサンドル三世/三人称)


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 アラバラン王国国王、アレキサンドル三世は勇者一行との面会後、マララン大将より報告を受けていた。

 国王の横には側近の内務大臣の姿もある。


「取り急ぎ、被害報告をまとめました。死者数約30、重傷者約150、軽傷者は1000を超えております」

「そうか」


 国王は溜息をつきたくなるのを我慢した。

 被害規模はやはり大きい。

 人的被害だけでこれだ。

 いや、襲撃からまだ1日も経っていない。

 被害の全容が見えてくるのはこれからだろう。


「物的被害に関しましては、まだまとめ切れておりません。ただ、私見を申し上げるならば、かなりの人数が家を失うことは確実かと」

「さもありなん。何しろ王都を焼かれたのだからな」


 人が家を失うというのは、その者にとって一大事だ。しかし、それだけではない。

 長期的に見れば治安の悪化を招く。

 家を失い、浮浪者が増えれば、彼らは生きるためにやがて盗みを行なうようになる。

 盗人が増えれば、商人は身を守るために自ら武装し、あるいは傭兵を雇うなどするだろう。

 そうなれば、いつしか暴力によって物事を解決するのが日常になりかねない。

 民が住む場所を失うというのは、そういうことだ。


「は。王都を護る者としていかような罰もお受けする所存」

「その方らに責任はない。空から襲われるなど誰が想像できようか。もし、その想定をしておけと民が言うならば、それをなすべきであったのは軍ではなく、政治家。即ち国王たる余であろう」


 この世界、街が空から攻められるなど、通常誰も考えない。

 空から襲い来る存在が想定しにくいのだ。


 もちろん、今回そうであったように空飛ぶモンスターの存在はよく知られている。

 だが、そもそも魔物は魔の空かダンジョンにしかいない。

 少なくとも、王都近くに魔の空は存在しないはずだった。

 いや、因果関係を正しく述べるならば、魔の空や魔の森がない場所に王都は作られた。


 むろん、モンスター以外の空飛ぶ害獣がいないではないが、いずれにせよ王都近隣にそのようなものの生息は確認できない。

 よしんばそのようなものが襲いかかってきたとしても、さすがに対応できる。


 他に考えられるとすれば、空飛ぶ魔法の使い手だろうが、そんな高度な魔法の使い手はこの大陸中をさがしても数人しかいない。

 というか、ぶっちゃければギルド長ダルネス以外に聞いたことがない。

 あるいは、勇者の片割れや魔王は使えるかも知れないが。


 いずれにせよ、空からの敵――まして都市空襲などこれまで想定すらしていなかったのだ。


 内務大臣が重ねて問う。


「他に問題は?」

「はっ。さすれば勇者殿らが退治したモンスターの遺骸処分についても検討せねばなりませぬ」


 マラランに言われて、国王もその問題に気づく。


「なるほど、それはそうだな。盲点であった」


 言われてみれば当然。

 ダンジョンのモンスターは倒すと魔石になる。

 一方、魔の森や魔の空のモンスターはそのまま遺骸として残る。

 どうしてかはわからない。そういう風にこの世界ができているのだ。

 そして、モンスターの遺骸は、通常の生物同様いずれは腐敗する。


「ドラゴンをはじめとする多数のモンスターの遺骸が王都の南を中心に残っている状況。放置は出来ませぬ」


 それはそうだ。

 放置しておけば腐敗し、やがては悪臭と疫病を呼ぶだろう。


 国王は少し考えて提案する。


「とはいえ、どうするか。肉であるならば食ってしまうか?」


 モンスターが食用にならないわけではない。

 同じ魔の空のモンスターコジャラックスは珍味として知られている。

 処分方法として妥当といえば妥当だろう。

 王都の様々な施設も破壊されている。今後飢饉がおきてもおかしくない。

 そこに肉が転がっているならば、一石二鳥の処分方法ではないか。


 ……そう思ったのだが、内務大臣に反対される。


「陛下、僭越ながら申し上げます。確かに良きアイデアではございますが、ドラゴンはじめとして、これまで食用に使われてきていないモンスターでございます。

 体内に毒素があるやもしれず、安易に食用に廻すのは如何かと愚考致します。

 また、仮に毒が無かったとしても、見たことなきモンスターの遺骸を食べろと言われても、民も戸惑うことでございましょう」


 体内に毒を持つ生物というのは存外多い。

 日本で言えばなにも知らずに河豚ふぐを食べれば命すら危険である。

 また、よしんば「これは食用だ」と言われても、多くの現代日本人は蛙を食べたいとは思わない。

 王都の人々に「ドラゴンのステーキを食べよう」と言っても、まず毒を心配し、そうでなくても精神的な忌避感を覚える者が大多数だろう。


「ならばどうする?」

「やはり、燃やして王都の外に埋めるしか無いかと」

「となると、それも人手が必要だな」


 国王は今度こそ盛大に溜息をつきたくなった。

 人命救助、民家をはじめとする建物や施設の復興に加えてこんな問題も出てくるとは。

 むろん、国王たる者、部下の前で溜息はもちろん、困った顔すらできない。

 そんなことをすれば、頼りない主だと思われるだけだ。


 それでも、思わず口から愚痴がこぼれてしまう。


「勇者達には、倒すならば遺骸処分までしろといいたいな」

「同感ですな」


 大臣も苦笑しつつ頷き、さらにつけたす。


「いっそのこと、本当に言ってしまいますか?」

「そうもいくまいよ。なにしろ、まだ6つの幼子だぞ」


 いかに勇者であろうと、子どもに何もかも押しつけるわけにもいかない。


「は。むろん、勇者に押しつけることは出来ません。が、彼らが所属する冒険者ギルドにならばできます」

「うん?」

「ギルドに依頼を出せばよろしい。王都に残るモンスターを街の外に持ち出し、燃やして処分せよと」

「金がかかるぞ」


 冒険者を動かすには金がかかる。

 彼らはボランティアでも、公務員でも無いのだから当然だ。

 それに対し、内務大臣が言う。


「金以外の報償を与えればよろしい」

「金以外?」

「王家の管理するダンジョンへの立ち入り権はいかがでしょうか」

「なに?」


 王家の管理するダンジョン。

 少々特殊にできている。


 モンスターもでてくるが、それ以上に宝の間が多く出現する。

 すなわち、危険度に比べて報酬である魔石が多い。

 いわば、ローリスクハイリターンなダンジョンである。


「王家の利権を冒険者に開放すると?」

「あくまでも、一時的な措置としてでございます。その上で、入手した魔石の一部を国に献上させる。この状況下では、近衛兵らをダンジョンに向かわせる余裕はございません」


 通常、王家のダンジョンは近衛兵らによって攻略させている。

 そこで手にした魔石によって、王都の社会経済は成り立っている。


「好き勝手隠匿されるぞ」

「入手した魔石に対する割合で納品させればそうなりましょうが、入手量にかかわらず一律の重さで納品させれば問題ないかと」


 魔石の価値指標の1つが重さだ。

 他に、純度などもあるが、一般に重い魔石ほど価値があり、魔力がある。


「問題もありましょうが、モンスターを片付け、今後訪れるであろう魔石不足を解消するには良き一手となるかと」


 国王は考える。

 内務大臣の提案の是非を。


 王家のダンジョンは王家の利権。

 それを簡単に解放はできない。


 だが。

 あくまでも仕事の報酬として回数制限をかけるならば。

 それも、王都復興までの限られた時間に限るならば。


「ふむ。そうだな。ならば問題点を精査した後、ギルドに依頼するように。詳細は任せる」

「は、有り難き幸せ」


 話が纏まったところで、マラランが言う。


「それでは、私は戻ります。まだ、兵を指揮せねばなりませぬ」

「ふむ、頼むぞ」


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 マラランが出て行った後、国王は内務大臣に言う。


「実直な男だな」

「はい。美点ではございますが、実直に過ぎるのが玉に瑕かと。陛下が責任を負う言葉を言わざるをえぬところに追い込んだことにすら気づいておらぬようす」


 マラランは自らの責任を口にした。

 それは彼の実直な性格によるものであり、他意は無いだろう。

 もし、国王がマラランの責任を問えば、それに素直に従う男だ。

 仮に、責任を取ってこの場で自刃しろと言えばそれすら従うつもりでの言葉だっただろう。


 だが、今マラランを切ることはできない。

 今後の復興作業のためにも、そしていずれ訪れるかもしれないさらなる襲撃に備えるためにも。

 故に、彼の責任を問うことはできず、結果として軍よりも上の存在、すなわち国王の責任と国王自身がいうしかなかった。

 結果だけを見れば、マラランが国王に責任を認めさせたといえなくもない。


「よい。実際、余は責任を感じておる。空襲は想定外にせよ、ダルネス殿より警告を戴いた時点でもっと備えるべきであった」


 民の死の責任は、やはり最終的には国王たる自分にある。

 アレキサンドル三世はそう考える。


 内務大臣はそれ以上その話題には触れず、別のことを言う。


「ところで、勇者はいかがでしたか?」

「ふむ、そうだな……」


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