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(ソフィネ/3人称)
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フロル達からもろもろの説明を聞き終えて。
ソフィネの口からでてきたのはこんな一言だった。
「なにがどうしてそうなったのよ?」
その問いに。
宿ので待っていた仲間達3名+2名はキョトン顔。
代表してアレルが言ってくる。
「えっと、今お話したとおりなんだけど……僕らの説明下手だった?」
正直言えばアレルの説明は下手である。
まあ、それは今に始まったことではない。
普段なら、フロルがちゃんとフォローしてくれる。
だが。
しかし、さすがに今回は……
「えーっと、確認するわよ?」
しかたないので、ソフィネは1つずつ確認することにした。
「1、そこにいる2人は実は魔王」
部屋の中にいた幼児兄妹(あるいは姉弟)を指さす。
うんうんうなずくアレル。
「ちなみに、名前はワイルスとタイレスだよ」
無邪気に笑うアレルだが、言っている内容は尋常ではない。
「2.タイレスは戦士」
今度はライトがうなずく。
「正直、俺でも勝てないレベルだぞ。レルスよりも上。あるいはアレルよりも強いかもしれない」
アレルもそれを肯定する。
「すごいよねー。ライトより強いなんて」
頭痛がしてくるが、次の確認だ。
「3.ワイルスはモンスターを操る能力者」
そこについてはワイルス自身が補足説明をしてくる。
「モンスターを操るだけなら普通の魔族でもできるよ。タイレスはなぜかできないけど。オイラはモンスターに魔素っていうのを、たくさんあたえられるんだって」
ワイルスによれば、魔素とはモンスターにとって食べ物――あるいは栄養素のようなものだという。
もっとも、固形物ではなく、目に見えない空気のような存在。
魔素は南大陸のあらゆる場所にあるが、北大陸では限られた場所にしかない。
すなわち、魔の森や魔の空だ。
魔素さえ吸えば、モンスターは生きていける。
コジャラックが地上に降りずにずっと空を飛んでいられるわけだ。
「でも、モンスターって人間や動物を食べるわよね? セルアレニなんて他のモンスターを食べるらしいし、植物を食べるモンスターもいる」
「うーん、オイラよくわかんない」
わかんないって言われても……
タイレスが補足する。
「モンスターはもちろん、人間も動物も植物も、体内に魔素をもっているの。だから、他の生物を食べることで魔素を吸収するモンスターもいるわ。
魔族っていうのは、自分自身の魔素をほんの少しだけ自由にモンスターに与える力をもっているのよ。私以外の魔族はってことだけど。
私とは逆に、ワイルスは普通の魔族の何千倍もの魔素を持っていて操れる」
それが、魔族とモンスターがともに暮らせる理由か。
「だから、オイラといっしょならモンスターも北大陸にこれるんだ」
ワイルスは自慢気だが、北大陸の人間からすれば冗談ではない。
言い換えれば、彼の力があれば魔の森からモンスターを引き連れて街を襲えるということだ。
「オイラ達が変身しているのも、透明人間になれるのも、スラピーのおかげだよ」
「スラピー?」
「うん。いまもオイラの肩の上に乗ってる高位のスライム。透明化しているから見えないと思うけど」
「スライムって……この部屋にモンスターがいるの!?」
思わず身構えるソフィネ。
だが、ワイルスは心配ないという。
「オイラが一緒にいれば大丈夫。スラピーは良い子だし、変身能力や透明化能力はあっても、戦闘力はないから。
あと、移動にはイダくんのちからを使ったよ」
「イダくん……」
「うん。正式名称はイダテホース。北大陸でいうところの馬みたいなモンスターかな。でもスピードは何十倍も出るんだ。乗るとスリル満点だよ! オイラ、なんども振り落とされそうになっちゃった」
ワクワク顔で語るワイルス。
アレルも目を輝かせる。
「すごいねー、僕ものってみたい!」
「いいよー、今は街の外の魔の森で待っててもらっているけど、後で乗せてあげる」
「やったー、ワイルスありがとう」
頭が痛くなってきた。
目の前にいる幼児2人は1つ間違えれば北大陸の人々にとって最大の脅威となる。
まさに魔王だ。
本人達にはその自覚がなさそうだけど。
「確認の続きだけど。
4.アレルたちは魔王達とお友達になった」
魔王と勇者がニコニコわらってうなずく。
「5.これから一緒に冒険して勇者の試練の1つ『勇気の試練』に行くことにした。
あと、追加で補足すると、その話を聞いてそこのお坊ちゃんは気絶した」
4人……いや、ライトも含めて5人がうなずいた。
フロルが「ま、ランディは説明を聞く前にぶっ倒れたけど」と付け足す。
ちなみにランディは未だにベッドの上でうなされている。
正直ランディのことはどうでもいいので、そこは流しておく。
「……ってわけだから、ソフィネもダンジョン探索の準備しろよ」
ライトがそう話をまとめようとするが。
「だから、何がどうしてそうなるのよぉぉぉ!!??」
ソフィネは今日一番の大声でツッコミを入れたのだった。
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まず、ソフィネはライトとアレルとフロルに言う。
「そもそも、あなたたち3人は謹慎中でしょ! なに勝手に旅立とうとしているのよ!?」
レルスからの謹慎処分は未だ解けていない。
あれはレルスだけでなく、冒険者ギルドからのお達しだった。
法的な強制力や逆らったときの罰則こそないが、だからといって無視できるものではない。
が。アレルは「ぷー」とほっぺたを膨らませる。
「だって、もう飽きたんだもん」
「いや、飽きたって……」
フロルがアレルを援護。
「リラレルンスと約束した1年間っていう期限もあるし」
「それはそうだけど、目の前に魔王が現れた以上、話が変わってくるでしょ!」
さらにライト。
「ってか、10日も部屋の中にいるとストレスたまりまくるし、体はなまるし……」
「アンタまで幼児のワガママかっ!」
もう、ツッコミが追いつかない。
ソフィネはさらに魔王2人にも言う。
「あんた達も、大人に黙って北大陸まで来たんでしょう? そんなことしていいの!?」
魔王がいきなりいなくなって、魔族達は大混乱しているだろう。
が、ワイルスは無邪気に笑う。
「だいじょーぶ。ちゃーんと、『勇者とお友達になりに北大陸に行きます』ってお手紙のこしてきたもん」
「全然大丈夫じゃないわよ!!」
今頃、リラレルンス達は大パニックだろう。
ただでさえミノル――ラクラレンスと通信できなくなって混乱しているだろうに。
「おまけに、魔王と一緒に勇者の試練に行くって、もう意味不明すぎるでしょ!」
フロルが反論する。
「私も最初はそう思ったんだけどね。勇者の試練では神様に会えるんでしょう。だったら、勇者と魔王の気持ちを神様に伝えたいなって。ショート様のことも、神様に聞きたいし」
いやいやいや……
神様って言うけど。
「神様――ゲームマスターはミノルが封印したわけで」
が、フロルは言う。
「そのことについても、はっきりさせるべきだと思うわ。
ミノルは言っていた。戦乱を望む神と、平和を望む神がいると。
もしかすると勇者の試練で平和を望む神に会えるかもしれない。そうすれば、ショート様のことも、戦争の回避のことも、相談できるじゃない
あるいはゲームマスターとであえるならぶっ倒すって手もある」
「いや、ゲームマスターを倒すとこの世界そのものがほろびるんだってばっ!」
「殺すだけが倒す方法じゃないわ」
「そりゃあそうだけど……」
ライトが付け足す。
「ま、それは希望的観測が過ぎるとしてもだ。このままこの宿にいても何一つ先に進めないのは事実だろ。だったら、行動すべきだ」
そして、魔王の2人もいう。
「オイラも神様に会ってみたい」
「ダンジョンっていうところにも興味があるわ」
魔王側の言葉はともかくとして。
ソフィネは最後にフロルに尋ねる。
「このこと、レルスさんは知っているの?」
「知らないわよ。教えたら今度は牢屋に謹慎させられちゃうかも」
さもありなんである。
さて、どうするか。
「ライト、あなたは本当にこれでいいと思っているの?」
「ああ。どのみち勇者の試練にいくのは必須だ。そして、勇者の試練は最難関のダンジョン。単純な戦力として考えれば、魔王の力を借りられるのはこの上ない」
どうやら、ライトは戦士として魔王の――とくにタイレスの試練攻略に有用と判断した様子だ。
「そりゃそうかもしれないけどっ!」
そして、フロル、アレル、ワイルス、タイレスがソフィネに言う。
「ソフィネ、お願い。勇者の試練にも罠があると思う」
「一緒に冒険すればワイルス達ともっと仲良くなれる」
「オイラ、アレル達と冒険したい」
「あなたは最高のレンジャーなんでしょう?」
そして。
『お願い、ソフィネ、力を貸して』
6歳のちびっこ勇者&魔王4人にキラキラした瞳でそう訴えられ。
気がつくとソフィネは……
「あー、もうわかったわよ! どうなっても知らないからね!」
やけっぱちのようにそう叫んでいた。
こうして、勇者&魔王混合パーティによる勇者の試練攻略の冒険が始まったのだった。
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