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【番外編10】アレルくんの冒険 その4

公開日時: 2021年2月9日(火) 19:59
文字数:3,328

 街をモンスターが襲ってきた。

 だから、モンスターを倒してみんなを助けよう。


 単純で簡単な話。

 みんなを助けきることはできなかったけど、それでも話は簡単。

 アレルにも理解できること。


 そう思って、剣をふるって。

 そう思って、ドラゴンたちを倒して。


 でも。


 そんなアレル達の目の前に最後に現れたのは――


 人間。


 モンスターではない。

 会話もできる人間。

 自分たち人族とは違う、魔族と呼ばれる者。


 彼は言った。


「貴様が勇者だというならば、全ての力に目覚める前に我が討つ」


 それはつまり。


「まさか、この襲撃って勇者を倒すために?」

「その通りだ。人族の子よ。そして幼き少年よ、貴様こそが勇者であろう」


 フロルが確かめるまでもなく。

 アレルにもわかった。


 ララルブレッドの目的は勇者だ。

 勇者を殺すために、街を襲ったんだ。

 アレルを殺すために、こんなことをしたんだ。


「そうだよ。アレルが勇者だ」


 アレルはララルブレッドに言った。

 自分が勇者だと断言した。


 いつものように「アレルはアレルだよ」なんて言わなかった。


 だって。

 許せないから。


 アレルを殺すためだけに、たくさんの人を殺したララルブレッドが。


 いいや、ちがう。


(アレルのせいで、みんな死んだ)


 みんなを助けるための勇者という力が。

 その力をもっているアレルがやってきたために、王都のみんなが死んだ。


(こんなの、ゆるせない)


 モンスターのような害獣ではない。

 人間が。

 アレルを殺すためだけに、街を焼いたのだ。


 アレルの中で、怒りが渦巻いていた。

 ララルブレッドへの怒り。


 だが、同時に――


 アレルは自分が許せなかった。

 最年少冒険者だと褒められ、勇者だと称えられ、みんなを助けられると思い込んで。


 アレルは未だにソフィネの胸の中で泣く幼女をちらっとみる。

 そして、ソフィネの足下に転がる、彼女の母親も。


(全部、アレルのせいだ)


 アレルを殺すためだけに、こんなことをっ!


 アレルだけでなく、フロルも勇者らしい。

 だけど、そのことをララルブレッドに教えるつもりはない。

 この上、フロルまで殺されたらたまらない。


 アレルはララルブレッドに迫る。

 会話をするつもりはなかった。

 許すつもりもなかった。


 アレルの――勇者の力の全てを使う!


 ララルブレッドも剣を構えて、アレルと対峙する。

 そこそこ強い相手だろう。

 いや、かなり強い。

 ミリスなんかとは比べものにならない強さ。

 今のライトよりも強いかもしれない敵。


(だからなに?)


 剣をつきすララルブレッド。

 アレルはあっさりと振り払う。


 そして。


 それ以上反撃などさせない。


(アレルに――勇者にかてるわけないだろ)


 確かにララルブレッドは強いけど。

 アレルはもっとずっと強いから。


 アレルのミスリルの剣は、ララルブレッドの心臓を貫こうとして――


 ――しかし、ララルブレッドはとっさに体を動かし、アレルの剣は左肩を貫いた。


(で、だから?)


 確かに一撃で殺せなかったけど、腕を1本失って、アレルと戦えるわけがない。

 もともと、戦えていないけど。


 でも。 

 モンスターではない人間を初めて刺した感触は、けっして気持ちの良いものではなく。


 その時だった。

 背後から聞こえるソフィネの警告。


「アレル! 上!」


 言われ、アレルはララルブレッドから上へ視線を移す。

 ララルブレッドを乗せてきた巨大ドラゴンが口を開き、アレルに向けて炎を吐こうとしていた。


(ま、そうだよね。君もご主人様が殺されそうになったら戦うよね)


 そう思いつつ、アレルはララルブレッドから剣を引き抜き、一歩下がる。

 巨大ドラゴンが大きく息を吸い込む。


(むだだよ。遅い)


 アレルは剣を振う。

『蛟竜の太刀』では間に合わないか。


(まいいや)


 アレルは『光の太刀』を放った。

 巨大ドラゴンの顔を光が切り裂く。

 さすがに切断までは至らなかったが、もはや炎は吐けない様子だ。

 苦しげに倒れるドラゴンへ、今度こそアレルは『蛟竜の太刀』を放つ。

 それで、ドラゴンの頭は吹き飛んだ。


(さて、と)


 アレルはララルブレッドに向き直る。

 もう、彼に勝ち目はない。


「貴様!」


 ララルブレッドが怒りの表情を浮かべてアレルを睨む。


「よけないでよ、痛くなるだけだから」


 いいつつも、一撃で殺すよりも少し痛い思いをさせたいとすら思えてきた。

 ララルブレッドがこの街でやったのは、それくらいのことだと。


 ララルブレッドは残った右腕で剣を振う。

 片腕とは言え、そこそこの威力はある。

 たとえば、アレルが初めて模擬戦をした相手であるゴルとかなら、その一撃でも殺せるだろう。

 魔法なしなら、ショートやフロルだって殺せると思う。


(でもさ)


 アレルからすれば悪あがきにすらなってない。

 もともとの実力差が大きすぎる。


「いいかげんにしてよ」


 冷たい声でそう言い、アレルは再び剣を振う。


(こんどこそ心臓を――いや、それよりも)


 アレルの中で、冷たい考えが浮かぶ。


 アレルはララルブレッドの右腕を狙った。

 アレルの気合いが込められたミスリルの剣は、あっさりララルブレッドを隻腕へと変えた。


 左肩を貫かれ、右腕を切り落とされ、ララルブレッドは戦士としてもはや戦える状態ではなくなった。

 戦士として、全てを失った。

 戦えなくなるというのは、戦士にとって命を奪われる次に辛いこと。


「くっ」


 ララルブレッドはその場に崩れるように座り込む。

 当然だ。

 腕だけじゃない。大量の血液も失っているのだ。


 それでも、ララルブレッドの瞳の殺意は消えない。

 アレルを憎々しく睨む。


(これ以上くるしめてもしょーがないか)


 さすがに生きたまま肉をそぎ落として拷問するなんて発想はアレルにはない。


 だから、アレルは言う。


「じゃ、終わらせるね」


 次こそ心臓か喉かを貫いてトドメを刺すつもりだった。


 だが。

 そんなアレルを止めたのは、自分の命よりも大切な双子の声だった。


「アレル、待ちなさい! 殺しちゃだめ!!」


 フロルの声に、アレルが感じたのは純粋な疑問。


「なんで?」


 首をひねって問うアレル。

 こんなやつ、殺さない理由ないじゃないかと本気で思っていた。


「魔族のこととか、魔王のこととか、聞き出したいことがあるから。殺したら話を聞けないでしょう」


 フロルの言葉に、アレルはなるほどなと思った。

 やっぱり、フロルはよく考えている。

 フロルがそういうならきっと間違ってはいないのだろう。


 なら、トドメはささないでおこう。

 もっとも、このまま放っておいても死ぬかもしれないけど。


「わかった。殺すなら、あとでもできるもんね」


 アレルは納得して、剣をひいた。

 それから思う。

 東の戦いはまだ終わっていない。

 東の空には、まだドラゴンがいる。


(ご主人様、ライト……)


 最初の話では、後でレストランのところで待ち合わせする予定だったけど。


「フロル、あとはたのめる?」

「え?」

「ご主人様とライトを助けないと」


 ドラゴンは強かった。

 ララルブレッドはもっと。


 ショートの魔法ではドラゴンを倒せないかもしれない。

 もし、ララルブレッドと同じくらい強い戦士がいたら、ライトでは勝てないかもしれない。


 だったら、助けに行かないと。

 南の敵はもう倒したんだから。


「わかったわ。気をつけて」


 フロルは頷いてくれた。

 アレルは駆け出す。


 大切な2人を助けるために。


 ---------------


 アレルは一瞬にして立ち去った。

 彼が本気で『俊足』を使えば、フロルにもソフィネにも目で追うことすらできない。


 あとに残されたフロルはポツリと呟いた。


「アレル……」


 フロルからみて、双子の兄弟は普通の精神状態じゃなかった。

 当然と言えば当然だ。

 こんな風に、死体だらけの戦場なんて始めてだ。

 しかも、それがモンスターではなく魔族の――人間の手によるものだった。


 アレルが怒りを覚えるのも当たり前だ。

 自分だって、怒っている。


 だが。

 あれはただ怒っているのとは違う。

 どう違うのか、言葉で言い表すこともむずかしいけど。


 今のアレルは。


(危うい)


 そう。

 すごく危うい。

 なにか、ちょっとしたことで暴走しそうな危うさ。


 一人で行かせたのはまずかったかもしれない。

 私がついていくべきだったのかも。


 でも。

 フロルは『俊足』を使えない。ソフィネもフロルよりはマシにしてもアレルには追いつけない。


 ショートとライトを少しでも早く助けるためには、アレル一人で行かせるしかなかった。


(ショート様、アレルを頼みます)


 フロルはそう願うのだった。

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