異世界で双子の勇者の保護者になりました

ちびっ子育成ファンタジー!未来の勇者兄妹はとってもかわいい!
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第十三章 世界の真相

1.歴史の疑念

公開日時: 2021年3月2日(火) 13:17
文字数:2,108

リラレルンスとの会談の後。

 俺たちは今度こそ城をあとにして宿屋へ向かうつもりだった。

 王城の廊下を歩く俺たちを案内してくれるのはマララン。


 正直、疲れていた。

 王都に到着して、門番といざこざがあって、レストランに行ったと思ったら魔族やドラゴンに襲われて。

 国王に謁見し、尋問官と頭の痛くなるやりとりをしたり、シルシルに世界の裏事情を聞いたり。

 あげく最後は魔族との和平交渉。

 一日の間にイベントが多過ぎだろう。


 いや、お前が何をしたと問われれば、何もしていない気もするが。

 俺はまだしも、アレルとフロルは限界だろう。

 HPはともかく、精神的にクタクタな様子だ。


「正直、疲れたわね」


 珍しく弱音を吐くフロル。

 ソフィネが彼女をたたえる。


「さっきのフロル、かっこよかったわよ」

「……あんなの、ただの時間稼ぎよ」


 まあな。

 だが、それ以上のことは難しかっただろう。

 俺が交渉したらあんなに上手くいかない。

 勇者の頭脳担当の面目躍如ってところだ。


 マラランは俺たち――特にアレルやフロルに言う。


「君たちに負担をかけてしまってすまないと思う」

「まったくよ、この貸しはタルトーキくらいじゃすまないからね」

「ははは、フロルくんにそう言われると後が怖いな」


 まあね。

 王様やら魔族の代表やらと真っ向からやりあう6歳児。

 ある意味、アレルよりも子供離れしている。


 俺は話題を変えてマラランに話しかけた。


「王都の復興はどうなるのですか?」

「現在は復興の前に、被害の全容を確認しているところだ。むろん、緊急で必要なことはおこなっているが」


 被害の全容がわからねば、復興方針も立てられないか。


「手伝えることがあれば手伝います……と言いたいのですが……」

「わかっている。私も会談の結果は聞いたからな。君たちにはやるべきことが多いだろう」


 1年以内に人族のみならず、エルフなどの亜人種の意見までまとめる。

 簡単な話ではない。


「王都の被害は大きいですか?」

「ああ、まさか空から攻撃されるとはな。完全に想定外だ」

「そうですか……」


 俺は納得しかけ……

 だが、どこか違和感を覚える。


「空襲というのは考えたこともなかったと?」

「空襲? 空からの攻撃をそう呼ぶならば……そうだな。正直、検討したこともなかった」

「それはなぜ?」


 俺の問いに、マラランは当然だとばかりに言う。


「この近くには本来魔の空はない。よしんばあったとしてもそこから魔物が降り立つことはない。魔族が魔物を操るとは知っていても、そもそも魔物は魔の森や魔の空から出て長く活動することはできん。

 そして、魔物以外に空飛ぶ攻撃能力がある存在など、それこそギルド長くらいしか知らん」


 うーん?

 いや、確かにそうだろうけど。

 あれ?


「ですが、魔族が金色のドラゴンを操り、金色のドラゴンが魔の空を操るそうです」

「なんと、そうなのか?」


 知らなかったのか。

 マラランは王都の警備責任者。

 彼が知らないというならば、ほとんどの人族が知らないのでは?


「300年前の戦争では、そのような記録はないのですか?」


 300年前、人族と魔族は戦争をしたはずだ。

 もちろん、そのさらに300年前にも同じように。

 ならば、その中で魔の空を魔族が操っていても不思議はないはず。


 だが、マラランはひたすら困惑するばかり。


「正直なところ、300年前の戦争についてはほとんど記録がないからな」


 ……?

 どういうことだ?


「なぜですか?」

「なぜか、と問われれば確かに不思議なことかもしれん。それを深く考えたことはなかったが」


 いや、考えろよ。

 なんだ、何かおかしい。

 違和感がある。


 俺はマラランに言う。


「300年前、あるいは600年前や900年前、どのように戦争が起きて、どのように終結したのか。

 それがわかれば今回の戦争を止める手助けになるかもしれません」


 そもそも、おかしい気がしてきた。

 300年に一度の戦争。

 それが起きたとして、なぜ今のような状況になった?


 戦争が起きたというならば、どちらかが勝ったはずだ。

 だが、現状、魔族とそれ以外の種族はきっちり棲み分けができている。

 痛み分けで戦争が終わったとも考えられるが、だとしても300年前の戦争についての資料が少なすぎる。


 この世界の人々は『歴史に学ぶ』ということをしないかのようだ。

 いや、そもそも歴史自体が……


 俺の中で、ある考えが浮かぶ。

 妄想にちかい考察。

 寒気がするような思考。

 考えたくない話。


 だが。


『この世界はゲームマスターが作った』


 シルシルはそう認めた。

 だとしたら。


 まさか。


「ショート様?」


 俺が怖い顔をしていたからだろう。

 フロルが心配げに俺に言った。


「ごめん」


 フロルにい答えつつも、俺は上の空だった。

 もしも。

 もしも、俺の考えているとおりだとしたら。


 この世界は!

 この世界の歴史は!!


「みんな、悪いけど先に宿に行っておいてくれ」


 ちょうど、王城を出ようというところで、俺はそう言った。


「え、ちょっと、ショートどこにいくのよ?」


 ソフィネの問いに、俺はふりかえりもせずいう。


「野暮用だ。アレルとフロルを頼む」


 すっかり夜の更けた王都の道を走る。

 向かう先は教会。

 目的はもちろん、俺をこの世界に送り込んだ張本人に会うため。


 シルシル。

 お前はまだ、俺に一番重要なことを言っていないのではないか?

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