それからの俺の記憶は、かなり飛び飛びで、しかも順番もハッキリしない。
だから、いくつかの記憶を、結果をふまえて補完しながら語る。
巨大セルアレニの針に腹を貫かれ、俺はその場に崩れ込んだ。
双子が泣き叫び、足を止める。
ダメだ、2人とも逃げろ。
そう言いたくても、もう声が出なかった。
そこから数秒か、あるいは数分か、俺は完全に意識を失い、次に見たのは光り輝くアレルとフロルだった。
何が、起きている?
もう、幻覚と現実の区別が付かない。自分がまだ生きているのかも分からない。
そんな状況で、俺が次におぼえているのは、光り輝く1人の戦士の姿。
男とも女ともわからない、その戦士は巨大セルアレニに向けて走り、信じられない跳躍力で跳び上がり、奴の首を切り落とした。
首を切り落とされてものたうつ巨大セルアレニに、戦士はセルアレニ以上に巨大な氷の塊を召喚し、ぶつける。
そこで、再び、俺の意識は反転。
次に目を覚ましたとき、戦士が俺に回復魔法を使っていた。俺の『怪我回復』や『体力回復』などよりもずっと強力な回復力だ。
戦士はミリスにも同じ事をする。
そして、戦士の纏う光はさらに強くなり。
眩しさに、俺はたまらず目を閉じる。
俺が目を開いたとき、光の戦士はどこにもいなくて。
代わりにいたのは、気を失ったアレルとフロルだった。
---------------
俺は立ち上がる。
何が何だか分からない。
あの光の戦士はなんだったんだ?
夢か、現実か。
だが、巨大セルアレニの死体は間違いなく存在している。
ミリスも気がついたらしく、立ち上がろうとしていた。
「ショート」
「いったい、何が? あの戦士は……」
「さあな。だが、強力な戦士で、魔法使い。あえていうなら、勇者だろうな」
――勇者。
俺は気絶したままの双子に駆け寄る。
息はしている。むしろニコニコ笑って2人とも満足げに眠っているかんじだ。
双子の冒険者カードを確認する。
驚いたことに、2人のHPとMPは全回復していた。
さらにいえば基礎ステータスがまたしても増えている。
なんなんだよ、これ。
ちなみに、俺とミリスのHPも回復している。だが、俺の現在MPは1のままだった。
「バーツとカイも……無事のようだな」
ミリスは言って、2人を抱きかかえ、アレル達の横に寝かせる。
あ、すっかり忘れていたわ、その2人のこと。
「正直、休める環境ではないが、それでも4人を運ぶのは無理だな。せめて2人めざめるのを待つか」
周りはセルアレニの死体だらけ。血の臭いが漂い、とても気が休まる状況ではない。
そもそも、ここは魔の森の奥。セルアレニ以外の魔物だっていつ襲いかかってくるか分からない。それでも、4人を運びながら動くのはもっと危険だ。
「ミリスさん、その腕……」
俺は気になっていたことを言った。
ミリスの腕の傷は治っている。だが、先ほどから左手をだらんと下げたままだ。
「ああ、動かん。怪我は回復しても、神経か骨かの傷までは治らん」
なにも、ミリスだけではない。
回復魔法の限界だという。
傷やHPを回復させることはできても、切れた神経を繋ぎ治したり、あるいは切り落とされた腕をくっつけたりは魔法ではできないという。
「ま、命ばかりか、腕も残ったのだから僥倖か」
ミリスはそういうが、片腕ではもう戦士としては戦えないだろう。
その時だった。
死体だと思っていたセルアレニの1体が動き出した。
それはフロルの『氷球弾』一発で死んだと思っていた、1メートルほどのもっとも小さなセルアレニだ。
「くっ!」
ミリスが右手だけで剣を構える。
「もういいだろうがっ!」
ミリスが毒づく。
一番弱いとは言っても、セルアレニだ。
フロルとアレルは起きない。
俺のMPはない。
そして、ミリスは右腕しか動かせない。
この状況では……
生き残ったセルアレニが俺達に襲いかかる。
ミリスが片腕で対抗しようとするが、さすがに無理がある。
ダメだ。
これはっ……
俺が再び死を覚悟したときだった。
セルアレニの頭上に氷の球が落ちる。
ミリスが飛び退き、セルアレニを氷の球が潰す。
それで、奴は今度こそ絶命した。
!!??
フロルが起きたのか!?
だが違った。
双子はまだ眠ったままだ。
その魔法を放って、俺達を救ってくれたのは……
「ショートちゃん、フロルちゃん、アレルちゃん、大丈夫!? まだ生きている!?」
……タンクトップと筋肉がトレードマークの魔術師範だった。
そして、その後ろから、ライトが、他にもエンパレの町の冒険者達が次々と現れたのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!