「それで、王様はなんで私達を呼びたいの?」
フロルのその問いに、マラランが目をぱちくり。
「国王陛下が会いたがっているという話、もうしたかな?」
「これまでの話からすれば自明だと思います。『大将』というのがどういう役職かは知りませんけど、かなり高い地位にいるとわかります。
そうでなければそもそも、王様も勇者の話をマラランさんに教えないでしょうし。
で、そのマラランさんがわざわざ私達を迎えに来た。
となれば、それは王様の使いとしてやってきたのでしょうし、ギルドに行く前になにをおいても王様の元へ案内したいという意思も伝わってきます」
さらっと、話すフロル。
マラランはさらにビックリ顔。
「えーっと、フロルくん? 君、6歳なんだよね?」
うん、そういう反応になるよね。
アレルとは別の意味で、フロルも規格外の幼児だし。
「ええ、それが何か?」
「何かって……いや、ふむ。これが勇者というものなのか……いや、しかし……」
おそらく話について来れておらずポケーッとしているアレルの方を、マラランはチラ見。
まあね。
同じ勇者、同じ幼児、というか、双子で色々と違いすぎるからね。
俺やライトやソフィネはもう慣れてしまったが、初めて2人と同時に会話すれば、それが自然な反応かもしれん。
「いや、まあ、いいだろう。
確かにその通り。国王陛下は勇者とその一行にお会いしたがっている。
むろん、魔王復活への対処の話もあるが、それ以上に王都では現在直近で問題を抱えていてな」
問題?
そういえば、現在王都は厳戒態勢とか言っていたような。
そこまで、マラランが話したときだった。
部屋の扉が再びノックされる。
マラランが「どうぞ」と言うと、今度はウエイトレスではなくシェフらしき男が大きな皿と料理を持ってきた。
「うわぁー、すごいねぇー」
お皿の上にはコッコが丸々1羽丸焼きでのっている。
茶色いソースはキャラメル味か、あるいは照り焼きに近いか。
「こちらが本日のメインディッシュ、タルトーキになります」
ほうほう。
ちなみに、お皿は3枚。
つまり、コッコは3羽。
確かに、2人で1羽でも食べきれないくらいだろう。
いや、しかし。
まるごと持ってこられてもどうやって食べればいいんだ?
かぶりつくのもどうかと思うし。
などと思っていると、シェフがナイフとフォークを手に取る。
「これより、切り分けさせていただきます」
なるほど。
目の前で切り分けてくれるのね。
アレルはもう、王様の話とか完全に忘れたかのようにタルトーキをキラキラお目々で見ている。
ああ、またヨダレタラしているよ、この子。
とはいえ、それはアレルだけではない。
ライトやソフィネ、フロルも期待に満ちた顔。
いや、正直に言えば、俺だってヨダレが口の中に溜まっている。
そのくらい美味そうだ。
「では……」
シェフがそう言った次の瞬間だった。
「きやぁぁぁぁああ!」
甲高い女性の悲鳴。
部屋の外……いや、店の外からか!?
「何?」
思わず立ち上がる、俺達。
「わからん、だが……」
マラランも立ち上がり、自分の剣を握る。
ライトとソフィネが言う。
「様子を見に行くべきだな」
「ええ」
2人とも剣と弓を手に持つ。
「確かに、話と食事は後か」
「そうですね。残念ですけど」
俺とフロルもうなずきあう。
あの悲鳴、ただ事ではない。
単に物取りなり暴漢なりが出ただけかもしれないが……
俺達6人は部屋を出て、店の出口へと向かう。
店から飛び出した俺達が見たのは……
---------------
これって……
上空が暗かった。
空の一部が漆黒に包まれている。
むろん、まだ夜ではない。
雨雲でもない。
「魔の空……」
ソフィネが唖然と呟く。
そう。あれは魔の空だ。
いつか、コジャラックスを獲りに行った時と同じだ。
違うのは……
「でも、コジャラックスよりずっと強い魔物だ。しかも、こっちに来るぞ!」
そう。
魔の空からは次々と空飛ぶ魔物が王都へ襲いかかってきていた。
鳥の魔物、トカゲに羽が生えたような魔物、それに……あれはまさか、ドラゴンか!?
ライトが呆然と呟く。
「どうなっているんだよ、これ!?」
魔の空は、魔の森と違って、移動することはあるという。
だが、それはせいぜい、100日で10メートルとか、そういうレベルの話だ。
王都の近くに魔の空なんてなかったはずだ。
しかも、そこから積極的に魔物が襲いかかってくるなんて。
いつぞやのコジャラックスは魔の空から一切でようとしなかったのに。
俺は誰にともなく叫ぶ
「わからないが、このままじゃまずいだろ!」
何しろ、ここはこの国で1番人が住んでいる王都だ。
こんな形で魔物に、しかも上空から襲われてはどれだけ被害があるか分からない。
「くっ。おのれ!」
マラランさんが剣を抜く。
王都を護る者として当然の行動。
だが。
「マラランさん、あなたは魔法か弓か、あるいは『風の太刀』のような遠距離攻撃ができますか?」
俺が尋ねると、マラランは悔しげな表情。
「いや、私は剣術と槍術しかしらん。『風の太刀』なども使えん」
だろうな。
マラランも俺が何故そう尋ねたか理解しているはずだ。
空飛ぶ敵に、遠距離攻撃ができないでは圧倒的に不利なのだ。
それこそ、最弱に近いコジャラックスとだって、まともに戦えない。
「だが、地上に降りてきた瞬間に叩けば……」
マラランは言うが、その希望は淡く消える。
トカゲの魔物がはるか上空で口を開く。
その口から火炎が吹き出した!
火炎は王都の街並みを焼き、人々を追い詰める。
空から遠距離攻撃をされては、通常の剣術で対抗するのは極めて難しいだろう。
「王都に魔法使いや弓兵は?」
「冒険者ギルドや教会にも魔法使いはいる。それに、弓が使える兵もいることはいるが……」
マラランの言葉を、ソフィネが引き継ぐ。
「混乱している街中で上空にむやみに矢なんて放てないわよ。ハズレた流れ矢がどこに刺さるか」
確かに。
最悪、逃げ惑う人々を射貫きかねない。
となると。
「フロル、アレル、俺達でやるぞ」
魔法使いたる俺やフロル、あるいは『風の太刀』、『光の太刀』などのスキルを持つアレルやライトの出番だ。
「はい!」
フロルはすぐに返事をした。
一方アレル。
「ほへ?」
いや、なんで君、タルトーキの1つを両手で抱えているの!?
しかも、齧り付いているし!
一応、ミスリルの剣は背中に背負ってきたみたいだけど!
さすがにフロルがツッコミ。
「アレル! 今は食べてる場合じゃないでしょ!」
「うー、そーだけど」
よっぽど楽しみだったんだなぁ、この子。
「ねー、ご主人様、これどうしよう?」
半分くらい囓ったタルトーキを俺に渡そうとするアレル。
「そこらへんに、ポイしなさい!」
「えー」
不満そうにしつつも、アレルもさすがに状況は理解しているのか、名残惜しげにタルトーキを投げ捨てた。
そして、これまで俺達が経験した中でも最大の戦いが幕を開けたのだった。
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