アレルとレルスがぶつかる。
いや、実際には双方の剣と剣がぶつかったのだが。
超絶なスピードでの打ち合い。
そして――
すまん。その後はどうなったかよく分からん。
いやね。本当に。
互いに剣をぶつけ合ったかと思ったら、次の瞬間には10メートルも離れて『光の太刀』を放ち合う。かと思ったら、さらに次の瞬間にはアレルが3人に『分身』して、次の瞬間にはレルスが4人に『分身』していた。
そうかと思えば、燃え上がった剣がぶつかり合い、次の瞬間には地面が大爆発。
いや、地面が爆発ってなんだよ!?
つーか、観客の何割か、吹っ飛んだよ!?
このあたりで、ダルネスが「こりゃぁ、まずいのう」とか騒いで、思念モニタを弄り、2人――いや、審判のライトを含む3人を囲うように魔法の結界だかバリアだかをはった。
なおも続く、アレルとレルスの戦い。
爆発、閃光、炎上……
これのどこが剣術の決闘だ!?
ソフィネが呆れたような口調で誰にとも無く言う。
「戦士同士の戦いで、なんで爆発するのよ……」
「しるかっ!」
ミリスも吐き捨てる。
「おそらく、『火炎の太刀』や『爆破の太刀』、『暴風の太刀』などじゃろうな」
ダルネスが推察する。
「なんですか、それ!? っていか、アレルのステータスにそんなんなかったですよ!?」
「レルスが目の前で使ったのを見て、覚えたんじゃろう」
「そんな、非常識な!?」
「ワシもそう思うぞ」
気がつくと、2匹の炎の龍がダルネスの結界の中で荒れ狂う。
「今度はなんですか!? 『龍の太刀』とか!?」
俺がダルネスに尋ねる。
「ワシが知るか! というか、まずいのう。こりゃあ、ワシの結界ももたんぞ」
「え?」
ダルネスは立ち上がり、巨大な声で――おそらく、これも魔法だ――叫んだ。
「皆の者っ! 逃げるのじゃ」
ギルド長の声に、観客達は一瞬戸惑い――
――そして、我先にと逃げ出すのだった。
俺達? 決まっているだろ。一目散に逃げたさ。
「つーか、ライトは大丈夫なのか!?」
審判として結界の中にいるアイツが一番ヤバいんじゃ……
「一応、さっき、ライトに『金剛』をかけましたけど」
逃げ走りながら、フロルが言う。
「そういう次元の攻撃力じゃねーだろ、あれはっ!」
『金剛』で防げるダメージには限りがあるのだ。
結界の中では炎の龍と、光と、爆煙が荒れ狂っている。
――いや、この瞬間。
ダルネスの結界が吹き飛び、100メートルは離れたところにまで逃げていた、俺達もまた吹き飛んだのだった。
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砂と泥まみれになりながら、俺は立ち上がる。
「痛っつうぅ」
周囲を見るとフロル達は全員無事。まあ、ステータス低すぎの俺が無事だったんだ。他の皆も大丈夫だろう。
今は炎の龍も爆煙も光も見えない。
むしろ、不気味なほど静かだ。
「で、どうなったんだ?」
ここからでは、遠すぎてよく分からん。
「ふむ、見てみるかのう」
ダルネスが言って、思念モニタを弄ると、目の前に2人の戦いが映し出される。
こんな、テレビみたいな魔法もあるのか。
2人は、未だ戦っていた。
互いに剣と剣をぶつけ合わせている。
その横には、2人の動きを見守り続けるライト。
よかった、アイツ生きてたわ。
「……というか、よく剣が壊れませんね」
ミリスに尋ねる。レルスの剣はどうかしらないが、ミリスからアレルが譲り受けたのはただの鋼鉄の剣のはずだが。
「超一流の剣士は、自らの気合いを剣にもこめる。ゆえに剣の強度もおそろしいほど強くなる」
なるほど。
最初にミリスが言っていた『武器など関係ない』とはこのことか。
「すごいんですね。剣士って」
感心する俺。
「私レベルの剣士ではそんな超常現象は起こせんがな」
自嘲的にいうミリス。
アレルとレルスは幾度となく、剣をぶつけ合い、斬り合っている。
お互いの体には幾筋もの傷があり、しかしどれも致命傷ではないらしい。
「……アレル」
フロルが呟く。
「なんで、さっきから爆発とか光とかなくなったんでしょう」
ミレヌさんが疑問の声を上げる。
ダルネスがその疑問に答える。
「戦士のスキルはMPもHPも消費しない。だが、あの2人は派手な攻撃をひかえて、いま純粋に剣と剣で決着をつけようとしておる。おそらくじゃがな。
そして、だとすれば勝敗は……」
ダルネスがそう言った時だった。
2人の動きが止まった。
「互いに、次で終わらせるつもりじゃな」
2人が油断なく剣を構える。
静寂。
ひたすら静寂。
2人も。
ライトも。
俺達も。
他の観客達も。
そんな、おそらく数秒の、しかし体感的には何時間もの時が流れ。
「アレルっ!」
フロルの透き通った声が草原に響き渡る。
次の瞬間。
2人はかけ出し、剣と剣がもう一度だけぶつかり合う。
そして。
決着の時は来た。
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アレルとレルスは未だ互いににらみ合っている。
レルスの剣は折れていた。
――一方、アレルの剣は。
刀身が粉々に砕け、柄のみがアレルの手の中に残った。
そして。
アレルが何事か口を開いた。
次の瞬間。
ライトの声が草原に響き渡る。
「勝者! レルス=フライマント!!」
沈黙。
そして、大歓声。
アレルとレルスはへたり込むように座る。
俺達は2人の方に走る。
フロルがアレルに『怪我回復』と『体力回復』をかける。
レルスにはダルネスが回復魔法をかけたようだ。
ライトもずいぶん傷ついている様子なので、俺が回復させる。
アレルは俺達を見ると。
「えへへ、負けちゃった」
と、なんだかとても満足げに笑った。
「武具の質など問わぬレベルの2人。だが、最後に勝負を決めたのは武器の質じゃったか。戦士とは面白いのう」
ダルネスはそう言って「ふぉふぉふぉ」と笑う。
「ミリス先生、ごめんなさい。剣、ダメになっちゃった」
アレルはそういってミリスに謝った。
「私の剣がここまでの戦いに使われたことを心から誇りに思う。いい戦いだったぞ、アレル」
ミリスのその言葉を聞くと、アレルは「えへへ」と笑って、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。
「アレル!?」
フロルが叫ぶが――
「眠ってしまったようじゃのう」
ダルネスがそう言った。
「まあ、今は寝かせておやり」
アレルの寝顔は、6歳の小さなかわいい男の子のそれだった。
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