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【番外編9】アレルくんの冒険 その3

公開日時: 2021年2月9日(火) 12:58
文字数:2,067

 アラバラン王都。

 エンパレの街よりもずっと大きな街。

 その街が、燃えていた。


 街の南にアレルとフロル、それにソフィネがやってきたとき、そこはすでに半ば廃墟のような状態になっていた。


「なんてこと」


 フロルが戦慄した声で言う。

 火傷や大怪我をした人々が沢山いる。

 母親らしき倒れた女性にすがってなく、アレルやフロルよりも小さな女の子。

 フロルがかけよってみるが、小さく首を横に振った。


「もう、亡くなっている」


 死んだ人間は蘇らない。

 フロルやショートの魔法でも。


 アレルにはどうしょうもなかった。


「ままぁぁぁ~」


 そう言って泣き続ける女の子に、アレルができることは何もなかった。


 と。


 反対方向の道から誰かが走ってきた。

 女の人と、その腕の中には赤ん坊。

 彼女たちを、ドラゴンの一匹が追いかけていた。

 まるで、いたぶるように。

 駆り立てて楽しむように。


 アレルはとっさに助けようとし――


 ――だが、その前にドラゴンの口から閃光が走った。


『俊足』を使う間もなかった。

 気づいたのが、あまりにも遅すぎた。


 アレルの目の前で、赤ん坊と母親が真っ黒な灰になった。

 目の前で行なわれるモンスターによる蹂躙。


「あ、あ、あぁぁ……」


 アレルは震えた。

 こんなの、無理だ。

 アレルだけでみんなを助けるなんて、無理だ。


 人々は右往左往し、とてもじゃないけど全員を救うことなんてできない。


 助けなきゃいけないのに。

 アレルは勇者なんだから。


 みんなを助けなくちゃいけない。

 その思いから、むしろ動けなくなって誰も助けられないアレル。


 その時だった。


 遠く街の東から、炎の弾が発射され、モンスター達を焼き尽くす。

 フロルが呟く。


「『爆炎連弾』……ショート様?」


 その魔法で、ドラゴン以外のモンスターはあらかた倒せたようだ。

 だが、ドラゴン達には大して効果がない様子だ。


 ドラゴンたちはさらに街を襲う。


 どうしたらいいのかわからない。


 奴隷のころは何も考えないでよかった。

 ゴボダラの命令さえ聞いていれば、それでよかった。


 勇者と呼ばれる前も、無邪気に笑っていられた。

 ショートの言葉さえ聞いていれば問題なかった。


 考えるのはフロルの役目で。

 唯一自分が考えて動いたセルアレニ騒動の時は、そのせいでむしろみんなを危険な目にあわせてしまった。


(どうしたらいいの? わかんないよ)


 この場には、ゴボダラもショートもいない。

 ミリスも、マーリャも、ライトも。


 アレルは震えていた。

 自分の力じゃ、助けられないと思って。


 そんなアレルにフロルが叫ぶ。


「アレル!」


 それでもアレルは反応できない。


「アレル!!」


 フロルはアレルの横に立ち、彼のほほをはたいた。


「フロル……?」

「なに立ち止まっているのよ!? みたでしょ! ショート様の『火炎連弾』でもドラゴンは倒せなかった。だったら、私の魔法やソフィネの弓でも多分無理」


 そうだろうなと思う。


「倒せるのは、あなたしかいない。みんなを助けられるのは、あなたしかいないの!」

「みんなを、たすける?」


 無理だよ。

 死んじゃったお母さん達や赤ちゃんを、どうやって助けるんだよ。


「そんなの、むりだよ」


 ドラゴンを倒すことはできるかもしれない。

 でも、みんなを助けるなんてアレルにはできない。


「無理でもやるの!」


 フロルはそう言って、未だに母親の死体にすがりついて泣く少女を指さした。


「あの子を助けられるのは、あなただけなのよ!」


 アレルはハッとなる。

 そうだ。

 何を悩んでいたんだ。

 らしくもなく、塞ぎ込んで。


「わかった、ドラゴンはやっつける」


 アレルは上空のドラゴンを睨む。

 フロルがそんなアレルに『金剛』と『力倍増』の魔法をかける。


 ソフィネが幼い女の子を抱きかかえる。


「これいじょうはやらせない」


 飛び上がって斬りつけてもダメだ。

『風の太刀』や『光の太刀』で――いや、もっと強力な『蛟竜の太刀』がいい。


 アレルの放った『蛟竜の太刀』は、ドラゴンたちを次々と撃墜していく。


(こんなに力があるのに)


『蛟竜の太刀』を何度も放ちながら、アレルは思う。


(勇者として、力をもって生まれたのに)


 次々とドラゴンを倒していく。


(みんなを助けるってなんて難しいんだろう)


 それでも。

 アレルは戦う。


 だけど。

 魔の空から巨大なドラゴンが舞い降りる。


『蛟竜の太刀』すら、巨大ドラゴンは振り払い、アレル目指して降下。

 そして、その背中には。


「人……人間?」


 ドラゴンを操っているのは人間だった。


「あれほどの巨大な力を、このような幼き子が操るとは。もしや、あたりか?」


 ドラゴンから降り立ったのは、戦士。

 緑色の肌と赤い髪と尖った耳。


「まさか、魔族……」


 フロルが呆然と呟く。


「え?」


 戸惑うアレルに向け、魔族の戦士は剣を抜いた。


「我が名はララルブレッド。魔王様の目覚めを待つ者」


 魔族の戦士――ララルブレッドは一方的にそう宣言した。


「貴様が勇者だというならば、全ての力に目覚める前に我が討つ」


 その言葉に、フロルが問う。

 半ば、自問自答するように。


「まさか、この襲撃って勇者を倒すために?」

「その通りだ。人族の子よ。そして幼き少年よ、貴様こそが勇者であろう」


 魔族の戦士の出現がアレルの心をさらに揺さぶることになる。


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