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(ライト/一人称)
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アラバラン王国最後の街、ギルラルデ。
この街は同時にブラネルド王国最初の街でもある。
なんのこっちゃと思うかもしれないが、南街がアラバラン王国領土であり、北街がブラネルド王国に属するのだ。
そして、その間には壁と関所。
「街が二つに割れているとか、不便じゃね?」
俺が首をひねると、フロルがちょっと考えてから言う。
「むしろ逆かもね。最初に国境があって、その国境を警備する人たちのために南北双方にだんだんと街ができていったってかんじじゃない?」
タリアがうなずいた。
「フロルさんの推察が当たっていますね。もともとは、200年以上前に国境警備用の壁や関所を建設するために人が集まったのが、ギルラルデの街の始まりです。
現在はアラバラン王国とブラネルド王国を行き来する人々の逗留場として、宿屋や各種店、ギルドなどが集まった商売っ気の強い街になっていますけど」
なるほど、街の中に国境があるんじゃなくて、国境がある場所に街ができたと。
国境を越えるためには、諸々の手続きもあって普通は2~3日足止めくらうらしいし、そりゃ宿は儲かるわな。
(200年以上前、か)
ゲームマスターとの邂逅を終えた俺にとって、その言葉はむなしくも感じるが……
そのことは考えないようにしよう。
「で、国境は越えられるのか?」
「当然です。アラバランの王都からも連絡が入っているでしょうしね」
そんなわけで、関所に行くとクラリエ王女はほぼ顔パス。
俺たちも護衛ということでほぼほぼノーチェック。
子どもばっかりなのは少々訝しがられたが、クラリエ王女が『文句あるの?』と一言すごむと、兵達は慌てて『とんでもございませんっ!』と敬礼してくれた。
「じゃあ、このままブラネルド王都へ向かうのね?」
クラリエ王女の言葉に、タリアが頷きつつも言う。
「はい、その通りですが、今日は宿に泊まりましょう」
「そうね、確かにもう夕方だし」
同じ名前を冠されているだけ会って、南北であまり街の様子は変わらない。
宿をとり、部屋の中で俺たちは今後の打ち合わせタイム。
まず、タリアが言った。
「ここからブラネルド王都までは、順調にいけば馬車で5日といったところです」
それはすでに聞いている情報だ。
あくまでも確認程度のこと。
クラリエ王女がすこしガッカリした顔で言う。
「この冒険も終わりか。ちょっと残念だけど、私たちにはやるべきことがあるからね」
クラリエ王女とランディは、前の街で冒険者登録を完了している。
それぞれ、戦士と魔法使いで登録したが、彼女たちがもう一度ダンジョンに立ち入ることはまずないだろう。
この登録は、将来的に冒険者ギルドの協力が必要になったときのための保険だ。
アレルがちょっと首をひねって言う。
「クラリエ様って王様と結婚するんだよね?」
アレル、お前、未だにちょっと理解していないだろ……
フロルが呆れた顔で言う。
「もうっ、アレル。何度も説明したでしょ。クラリエ様が結婚する相手は王子様」
「あ、そうか。王様じゃなくて王子様かぁ」
王様と王子様の区別すら危うそうだなぁ。
後でもう一度アレルには説明しといたほうがいいかもなぁなどと考えていると、ソフィネがタリアに言う。
「確かにこれまでブラネルドの王族について詳しい話を聞いていないわね。いいかげん知っておくべきかもしれないわ」
おう、そういえばそのあたり、ほとんど聞いてなかったな。
「確かに、仰る通りですね。ブラネルド王国の現在の王族は3人います」
3人?
俺は眉を寄せる。
「いくらなんでも少なくないか?」
「王族という言葉の定義問題になってきますが、ブラネルド王国において王族と呼ばれるのは、国王とその祖父母や親、子ども、孫のみです。
現在それに当てはまるのは3人。国王ヘドラー様、第一子のミリアス王女、第二子のサリナス王子です」
「国王の奥さんとか両親とかは……」
「共に10年以上前に亡くなっています」
「王族ではなく王家というならば、親戚筋の貴族も含まれるのですが」
なるほど。
アレルが首をひねる。
「えーっと、クラリエ様は誰と結婚するの?」
いや、だから、今の説明を聞いていれば分かるだろうが……
「クラリエ王女のご結婚相手はサリナス王子です。そして、ミリアス王女はすでにジンバルグ帝国の皇太子に嫁ぐため旅立たれているそうです」
ふむふむ。
納得する俺。
だが、アレルは頭を抱え込んでいる。
「えーっと、つまり……うーん」
ダメだこりゃ。
あとで絵か何かで書いて説明しないと理解しなさそう。
「こーたいしってなに?」
「皇太子とは皇帝のお子様のことですね」
「こーてい?」
「皇帝とは帝国の支配者ですね」
「てーこく?」
悩みまくっているアレル。
まあ、確かに『国王』と『皇帝』の違いなんて俺もよく分からんが。
「難しい話はともかくとして、帝国の王様が皇帝と思ってくだされば」
「ううぅ、王様がこーてーで、てーこくがこーたいしで……」
いや、思いっきりぐちゃぐちゃだろ、お前の頭の中。
完全に沸騰しまくっているアレルの頭。
フロルがため息交じりに言う。
「それ以上考えると熱が出るからやめておきなさい」
「うう、わかった」
いずれにしてもジンバルグ帝国は後だ。
いまはブラネルド王国のことを考えねば。
フロルがタリアに尋ねる。
「それで、ブラネルド王国の王族の特徴は?」
その質問に答えたのはタリアでなく、クラリエ王女。
「脳筋の武力バカ」
は?
脳筋?
武力バカ?
「筋肉と暴力と剣術が全てって思っているようなバカどもよ。汗臭くて私は好きになれないわね」
クラリエ王女はそう言って『ヤレヤレ』といった表情。
ソフィネが苦笑しながら付け足す。
「王族というよりも、ブラネルド王国全体が、どちらかといえば武力主義ね。王都には大きな闘技場もあるし」
新しい単語が登場して、アレルがさらに悩む。
「とーぎじょー?」
「剣術の試合とかをするところよ」
「ふーん、道場のこと?」
アレルの言葉に、ソフィネは少しだけ苦笑。
「ギルドの道場とはちょっと違うかな。国中の……それどころか、大陸中の強い戦士が集まって、誰が一番か決めるの。レルスさんも出場したことがあったはずよ」
いや、っていうかさ。
「なんで、ソフィネがそんな見てきたみたいに言うんだよ!?」
「なんでって……見たことあるし」
「え!?」
「だから、お父さんと旅していた頃に見たの」
あ、そういえばチビのころ確かにソフィネは父親と色々旅していたんだった。
まさか、外国まで行っていたとは初耳だが。
いや、聞いたことあるか? 小さな頃のことだから記憶が曖昧だ。
……その記憶もゲームマスター的には作られたモノってことらしいが……だから曖昧なのか、それとも俺の記憶力の問題か。
いずれにしても、戦士として闘技場とやらには少し興味があるな。
クラリエ王女がそんな俺とアレルを交互に見ながら言う。
「ま、考えるよりも脳筋の剣術バカって意味じゃ、アレルやライトとは気が合うんじゃない?」
いや、おい、ちょっと待て!!
そりゃ、俺やアレルが剣術バカなのは否定しないけどさっ!
ランディがぼそっと一言。
「むしろ、クラリエ様とこそ気が合うかとお……」
ランディは最後まで言えずにクラリエ王女の顔面パンチでノックアウト。
「私のどこが脳筋よ!?」
いや、そういうところだと思うんだけどな……
俺だけじゃなく、クラリエ王女自身以外の全員が同じ思いだったようで。
アレルが「はーい」と手を上げた。
「アレル知ってるっ! そういうのって『自分のことを棚に上げる』っていうんだよ」
ショートの元いた世界のことわざだったっけ。
「それ、どういう意味の言葉?」
ギロリとアレルを睨むクラリエ王女。
知らない世界のことわざでも、なんとなく意味を察したらしい。
「えーっとね……」
アレルがさらに何か言おうとするが、フロルが割って入る。
「ああ、もう、そんな話はどうでもいいわっ! それよりも、ブラネルドの王族に和平について話したらどうなるかってことでしょ」
そうそう。そっちだ。
タリアは難しい顔をする。
「それは……話してみて相手の反応次第でしょうが……」
言いよどむタリアの言葉を、クラリエ王女が引き継ぐ。
「あいつら戦いこそ至上の喜びみたいな連中だしね……単純バカだから逆に説得は難しいかもね」
うーん、なんとも前途多難っぽいかんじなのか。
「ま、自分たちよりも強い相手には素直に従うタイプでもあるわね。逆に自分たちよりも弱い相手の言うことは聞かないけど。わかりやすいっちゃあわかりやすい相手よ」
なるほど。
たしかに分かりやすい。
「ま、これはあくまでも、数回あっただけの私の印象でしかないから。実際のところは出たとこ勝負じゃない?」
確かにな。
先入観を持ちすぎるのはかえってよくないかもな。
あとは細かい物資補給計画やらどの街道をいくかやらの話だけして、その日の会議はお開きとなったのだった。
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