「どーゆーことだぁぁぁ!?」
アレルがクラリエ王女を誘拐した。
そんな意味不明の報告を聞いて、俺は1階の食堂へと駆け下り叫んだ。
俺の声に、フロルがビクッと震え、ミノルは「はははっ」と苦笑い。ランディはひたすら青い顔をしている。
アレル、ライト、クラリエ王女の3人はその場にいない。
最初に口を開いたのはフロルだった。
「申し訳ありません、ショート様」
「ほしいのは謝罪じゃなくて、事情説明!」
「はい、ことの起こりは……」
フロル、ミノル、それに後ろから追いかけてきたソフィネが口々に説明したところによると……
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俺がタリアを『解毒』するため2階に向かった後。
クラリエ王女の暴走はさらに続いた。
「さあ、ダンジョンに連れて行きなさい」
叫ぶクラリエ王女に、フロルが冷たい目。
「行きません」
「なんでよ!」
「必要が無いからです。あなた、本当に馬鹿なんですか? いいえ、馬鹿なんですね」
「この小娘ぇぇぇ!」
どうも、フロルとクラリエ王女は相性最悪っぽいな。
この場合、クラリエ王女も問題だが、フロルの毒舌も問題だろう。
アレルはなれているっぽいし、ライトやソフィネ、俺なんかは幼女だしと思えるのだが、クラリエ王女はそこまで達観して見れないのだろう。
年齢も、ソフィネよりも3歳ほど下だしね。
フロルに任せておくと、なおさら揉めそうと思ったのか、ライトが説得することになったらしい。
「クラリエ様、ダンジョンっていうのは冒険者じゃないと立ち入り許可でないんです。しかも、レベル2以上の」
これで黙るかと思ったのだが。
「なら、私をレベル2の冒険者にしなさい!」
言われ、ライトは一言。
「無理」
「なんでよ?」
「冒険者登録は誰でもできるけど、レベル1になるだけでも30日、レベル2となれば1年はかかるんですよ」
実際にはもっとである。
クラリエ王女は魔法もレンジャースキルも使えないので、登録するなら戦士系の職業になるが、戦士のレベル1にこれからなろうとしたら、それだけで1年以上はかかるだろう。
戦士のレベル1というのはそのくらい難しいのだ。
アレルとライトが異常だっただけである。
ライトにやり込められて、クラリエ王女はさらに不機嫌になったらしい。
「うるさい! なら、冒険者をやっつける実力があれば良いんでしょ!」
どんな理屈だという話だが、クラリエ王女は自らの剣を抜いた。
正直に言うけどさ。
こんな危ない王女様に剣を持たせるなよと思う。
ここまでの道中でも、俺はタリアやミノルにクラリエ王女の剣を取り上げろって言ったんだよね。ガチで危ないから。
が、タリア曰く、王族から剣を取り上げるような権限は自分にはないとのこと。真剣ではなく刃は潰してあるし、軽い剣だからともいっていた。
とはいえ、木刀ではなく鉄製だ。鉄でできた棒で殴れば普通に人なんて殺せる。
そんなわけで、剣を抜き放ったクラリエ王女に、ライト達も身構える。
ミノルがクラリエ王女に言う。
「クラリエ様、剣を抜くのはよしなさい。さすがにそれはジョークではすみませんよ」
ランディもうなずく。
「クラリエ様! お父上から剣を抜いてはならないと言われていますよね?」
突然少女が剣を抜き放ち、食堂の他の客や従業員も半ばパニックに。
冒険者も泊まる宿だから、ケンカは珍しくないだろうけど、剣を抜くのはケンカとは言わない。
なにより、それをしたのが10歳前後の女の子だったのだから、そりゃあ驚かれる。
「うるさい、うるさい!」
クラリエ王女は叫びながら、辺りをうかがう。
彼女とて、ライトやアレル、あるいはソフィネに勝てないことは分かっているだろう。
そして、ミノルやランディは冒険者資格を持っていない。
そのため、彼女が襲いかかったのは冒険者資格を持っていて、かつ自分の剣でも倒せそうな相手――フロルだった。
剣を振り下ろすクラリエ王女。
が、フロルの前にスルリと飛び出す者がいた。
アレルだ。
アレルはクラリエ王女の脇腹を蹴り飛ばした。
決して本気では無かったのだろう。
もしも本気でアレルが蹴飛ばせばそれだけで死にかねない。
クラリエ王女は床に転がる。
「言ったよね。フロルに手を出したら許さないって」
アレルはそう言って倒れたクラリエ王女を見下ろす。
のみならず、彼女の右手を踏みつけたらしい。
「私にこんなことして、許されると思っているの!?」
「フロルにあんなことをして、許すと思う?」
「私はっ! 冒険者になりたいの! 運命が決まっているっていうなら、せめてその前に好きなことがしたい!」
アレルはクラリエ王女の右手を踏んづけたまま、尋ねる。
「そんなに冒険者になりたいの?」
「ええ!」
アレルは少し考えるそぶりを見せたらしい。
そして。
「わかった」
「え?」
「そんなにいうなら、テストしてあげる」
「それはどういう……?」
アレルはクラリエ王女を抱きかかえた。
そして、ライト達に向き直って言う。
「ゴメンね、ちょっとだけ出かけてくる」
『俊足』を使ったのだろう。
そう言って、2人の姿がその場から消えた。
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「……と、いうわけなんです」
フロルは説明の最後をそう結んだ。
「なんなんだよ、それは……」
クラリエ王女も無茶苦茶なら、アレルも無茶苦茶だ。
フロルの毒舌っぷりにも問題があるけど。
「なんで止めなかったんだよ?」
叫ぶ俺に、ミノルが言う。
「我々では勇者様を止められませんよ」
確かに。
アレルの『俊足』をとめるのはミノルには無理だろう。
唯一止められるとしたら……
「ライトは?」
俺の問いにフロルが答えた。
「先にアレル達を追いました」
アレルを追えるとしたら『気配察知』と『俊足』を使えるライトしかいないだろう。
さて、俺たちはどうするか……
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