せっかくギルドにやってきて、そろそろ宿で休もうと思っていた矢先。
国王から再度の呼び出しを受けてしまった俺達。
さすがに『疲れたから』なんて理由で国王に逆らうわけにもいかず。
俺たち5人は近衛兵とともに王城へと向かうことになった。
ちなみに、国王からの呼び出しという事実にゴルのやつが『お前ら本当になんなんだよ』とビビっていた。
道すがら、フロルが言う。
「一体、王様は何の用事なんでしょうか?」
おそらく、近衛兵ではなく、俺に相談したつもりだろう。
だが、俺が答える前に近衛兵がフロルに言った。
「申し訳ありません。ことは重大にて、王城に着くまで一切申し上げることができません」
ふむぅ。
俺はフロルに言う。
「そういうことらしい。ここでウダウダ推測しても仕方がないだろ。城に行けばわかるんだから」
「それはそうですけど」
フロルは若干不満そう。
気持ちはわかる。
用事があるなら一度にしてほしい。
そもそも、国王だって俺たちと何度も面会しているほど暇じゃないだろう。
それに。
俺はチラリとアレルを見る。
彼は特に文句も言っていない。
黙々と歩いているだけだ。
HPは有り余っている子だし、戦闘後に『体力回復』を使ったから肉体的な疲れはないだろう。
それでも。
心の方は相当疲労していると思う。
むしろ、この子の性格だと、特にはしゃぎもせずに黙々と歩く方が珍しいのだ。
(アレルを休ませてあげたい)
その思いは、俺とフロルとで共通していた。
おそらく、ライトやソフィネもそう思っているだろう。
国王からのわざわざの呼び出し。
先の面会は、おそらく勇者の人となりを見極めることが目的だったと思われる。
ならば、今回は何なのか。
わずか半日足らずで再度呼び出されるとは、普通に考えてただ事ではない。
精神的に摩耗しているアレルを、その『ただ事ではない場所』に連れて行くのは、やはり少し抵抗がある。
俺は念のため、近衛兵に尋ねる。
「登城は俺だけって訳にはいかないんですよね? あるいは明日にしていただくとか。正直、子ども達も疲れていまして」
俺の問いに、しかし近衛兵は言う。
「申し訳ありません。国王陛下や私どもとしましても勇者様方への負担は極力避けたいのですが、今回ばかりはそうも言っていられない事情がございまして」
ふむ。
となると、これは本当に大きな事情がありそうだ。
「わかりました。そういうことならば」
俺はうなずくしかないのだった。
---------------
再びの王城。
通された客間にて数分だけ待機していると、部屋の中に立派な服を着た男が護衛とともに現れた。
「お初にお目にかかります。私、この国の国務大臣の1人、ザスラル・アラブラルと言う者」
国務大臣に恭しく挨拶され、俺たちも慌てて挨拶を返す。
「勇者様にお目通りがかないありがたく思います。同時に、無理にお呼び出ししたご無礼をお詫び申し上げます」
どうやら、勇者というのは国務大臣であっても尊重すべき相手らしい。
当然か。
国王ですら、勇者のことは尊重していた様子だもんな。
ともあれ、名乗られたからにはこちらも名乗り返すべきだろう。
「俺――いえ、私はショート・アカドリ。勇者の保護者でしょうか。この国の方には神の使徒などとも言われましたが、正直その呼ばれ方はなれません」
「私はフロルです。勇者の片割れ――らしいです」
「アレルはね、アレルだよ。勇者なんだって」
俺たち3人が名乗り。
「で、俺はライトで、こっちはソフィネ。勇者の仲間だ」
ライトがソフィネも含めて紹介する。
当然だが、ザスラルは俺たちの名前などとっくに知っていた様子。
「さて、前置き抜きで恐縮ですが、ことは緊急を要します。さっそく用件をお伝えいたします」
「はい」
「実は、先ほど勇者様方が王城より去られ、しばししたころある人物が国王陛下を訪ねて参りました」
どうにももってまわった言い方。
緊急を要するならもっとはっきり言えよなと思うが、貴族的にはこれでも急いで説明しているのかもしれない。
「ある人物?」
「魔族です」
『なっ!?』
その言葉に、俺たちは息をのむ。
「どういうことですか? また魔族が襲ってきたのですか?」
その割には、王城の中で戦闘が行われた様子はなかったが。
「いえ、誤解なきよう。魔族曰く、詫びと和平の申し出をしたいとのことでした」
詫びと和平。
「それはつまり、『王都を襲ってごめんなさい。これからは仲良くしましょう』という?」
俺がわざわざ言い直したのは、確認のためではない。
例によって難しい言葉についてこれていないアレルに理解してもらうためだ。
「はい。そして、彼の者は国王陛下へのお目通りを願っております。現在は別の部屋で待機させておりますが」
ふぅむ。
悩む俺を横目に、ソフィネがとがめるように言う。
「魔族を放置しているって言うの?」
「いえ、もちろんマララン大将以下数名を見張りにつけております」
マラランか。
彼もずいぶん便利に使われているな。
ライトと同じくらいの実力というアレルの見込みが正しいなら、おそらくこの国最強戦力の1人だろうから無理もないか。
「魔族は暴れたりしていないんですね?」
「はい」
自分で尋ねておいてなんだが愚問だったわな。
相手の意図がどこにあろうと、和平を願い出ておいて暴れるわけもない。
もちろん、国王と面会した瞬間に、目的が和平から国王の命に変わることはあるかもしれない。
「それで、あなた方は……いえ、国王陛下は私たちにどうしろと?」
「陛下は魔族とお会いになりたいと申しております。が、私どもとしましては、やはり陛下の御身が大切。マラランだけでは戦力に不安があり……」
なるほど、俺たちが呼び出された理由はそれか。
「要するに、私たち……いや、勇者に魔族と面会する国王陛下の警護を頼みたいと?」
「同時に、和平について勇者様方のご意見も伺うべきかと思っております」
国王やザスラルの意図はわかった。
上手いように使われているという気もするが、魔族から和平の使者がきたというならば、蚊帳の外に置かれる方が困る。
相手の意図に注意しながら、勇者側の対応を決めなければならない。
ならないのだが。
俺の脳裏によぎるのはアブランティアを前にしたアレルの暴走。
今の彼を魔族の前に連れて行っても大丈夫なのだろうか。
また暴走しだして、和平の機会を潰したりなんてことになったら……
迷う俺。
だが、俺が何か言う前に。
「わかったよ。魔族がけんかをやめようっていうなら、アレルもお話ししたいから」
勇者様がそう言ってしまったのだった。
「ありがとうございます。それではさっそく準備に取りかかります。しばしお待ちを」
こうして、俺たちは国王とともに、魔族から送り込まれてきた和平の使者と面会することになったのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!