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(クラリエ/一人称)
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さあ、いざ行かん、ダンジョンへ!
「ダンジョン、ダンジョン、冒険が私を待っている♪」
るんるんと歌う私に、勇者の片割れだというフロルが冷めた口調。
「なんですか、その歌……」
年下のくせに、相変わらず生意気な子よね。
「なによ? 悪い?」
「別に、クラリエ様が恥ずかしくないなら私はいいです。他人のフリしますので」
こ、このガキャァァァ!
やっぱりぶん殴ってやろうかしら。
でも、たぶんそれをやるとまたもう1人の勇者に反撃されるだろうしなぁ。
その、もう1人の勇者アレルはいつもの元気がない。
あのショートとかいう男のことが気になっているらしい。
双子の親みたいなものだというからわからなくはないけどね。
そんな私たちに、タリアが言う。
「はいはい、ダンジョンに行く前からケンカしないでください」
私は口をとがらせる。
「別に喧嘩なんてしていないわよ。フロルがつっかかってきただけで」
「クラリエ様がクソ恥ずかしい歌をうたっているからでしょ」
そんな私とフロルを見て、タリアとソフィネは『はぁ』っと小さくため息。
そりゃね。私だって6歳児とケンカなんて大人げないとは思うわよ。
でも、このフロルとかいうガキ、やたら頭が回る。
勇者の頭脳担当らしく、いわゆる天才児なのだという。
しかも、その頭の良さを毒舌を発するために使っている。
要するに、幼児とはいえアレルのようなかわいげがないのだ。
むしろ、ソフィネやライトはよく我慢しているもんだと思うわよ。
今、私たちが向かっているのはイラルネの街近くにある王家が管理するダンジョン。
目的は魔石を手に入れること。
ショートがいなくなって、お金とか魔石が足りなくなったらしい。
おかげでダンジョンに行けるんだから私は文句ないけどね。
ダンジョンに行くメンバーは、私の他に、勇者アレルとフロル、ランディ、タリア、ソフィネ。
ミノルはダンジョンなんて恐ろしい場所に行きたくないとワガママ言っていた。ライトはミノルの護衛だそうだけど、どっちかっていうと見張りかもしれないわね。
どうも、ミノルは勇者一行から信頼されていないっぽいし。
ランディがおずおずと言う。
「あの、本当にライトさんが一緒じゃなくて大丈夫なんでしょうか? モンスターと戦うんですよね?」
どうやら、ランディはダンジョンを恐れているらしい。
まったく、この子は昔っから弱虫なんだから。
フロルが言う。
「問題ありません。ダンジョンのレベルは4と聞いています。私とアレルとソフィネだけでも十分攻略できます」
事実なのかもしれないけど、なんかムカつくなぁ。
私はフロルに言い返す。
「私だって頑張るわよ」
「そうですね。足手まといにならないために、できるだけモンスターに近づかないように気をつけてください」
カッチーン!
誰が足手まといよ!
そりゃね。私だって分かっている。
勇者アレルの実力はトンデモナイ。
この間、魔の森の近くでそれは思い知らされたわよ。
でも、だからって『足手まとい』ってなによ!?
私がムカムカしていると、ランディがさらにブツブツ。
「それにしても、ダンジョンってまだつかないんですか?」
「なによ、ランディ? もうへばったの?」
目指すダンジョンは森の中にある。
魔の森のようにモンスターはいないが、獣道のようなところを通るため、馬車は立ち入れない。
ミノルとライトが街に残ったのは馬と荷車の見張りのためでもあるのだ。
王家の馬だからね。馬も荷車も普通よりも高級品。
万が一にも盗まれたりしたら大変だ。
タリアがランディに言う。
「いっておきますけど、ダンジョンに入ってからが本番ですよ。今の段階でクタクタではこまります」
今回、タリアはかなり緊張しているっぽい。
私やランディに万が一のことがあったら……と不安なのだ。
実際のところ、ダンジョン探索は父国王の許可を得ているし、私に何かあったとしても、タリア個人が責任を取らされることはないと思う。
父は部下に対してそういう理不尽はしないタイプの為政者だ。
「ミノルからもらった地図どおりなら、もうすぐね」
ソフィネが地図を見ながら言う。
王家のダンジョンの場所を、ミノルのスキルをつかって聞いたらしい。
聞いた話をもとにミノルが手書きした地図だからどこまで正確かは分からないけどね。
ソフィネが崖にぽっかり空いた洞窟を指さし言う。
「たぶん、そこの洞窟ね」
普通の洞窟だ。
ランディも同じ印象だったらしい。
「何の変哲もない洞窟に見えますけど、これがダンジョンなんですか?」
「違うわ。説明するより、実際に見てもらった方が早いでしょうね」
私たちは洞窟の中へと入る。
しばらく洞窟の中を歩くと、近衛兵の制服を着た兵士が数人いた。
「何者だ!? ここは王家管轄の場所であるぞ」
うん、お仕事ご苦労様。
私は近衛兵に言う。
「私の顔、知らない?」
「こ、これはクラリエ王女!? なぜここに!?」
タリアが近衛兵に事情を説明する。
「王女殿下がダンジョンに!? それは……」
渋る近衛兵。
彼らとしても、私の身に何かあったら困ると思っているらしい。
私は彼らに言った。
「これは父上――国王陛下のご命令よ。あなたたちは国王陛下に逆らうの?」
「いえ、とんでもございません。ただ、ダンジョンは大変危険な場所。王女殿下の御身にに万が一のことがあればと……」
「それなら大丈夫。なにしろ、勇者様がいっしょだから」
「え、勇者様!?」
そんな者がどこにいるんだという表情。
わかる。わかるわよ。
そこのチビガキたちが勇者だなんて、私だって未だに信じられないんだから。
フロルが胸を張って言う。
「私たちが勇者よ」
「は?」
はい、近衛兵の間抜けなポカン顔いただきました。
「アレル、あなたの冒険者カードみせてあげなさい」
「うん」
フロルがいうと、アレルは自分の冒険者カードを近衛兵達つきつけた。
「こ、これは……」
冒険者カードに『職業勇者』と書かれているわけではないらしい。
だが、アレルのステータスやスキルは常識外。
それだけでも、少なくとも徒人でないという証拠にはなる。
私は近衛兵に言う。
「わかった? 勇者様がいれば何も問題はないわ。道をあけなさい!」
「か、かしこまりました!」
近衛兵は私たちに道を空けた。
フロルがボソっと一言。
「なんで、クラリエ様がいばっているんだか」
ホントにこのガキは口が減らないわね!
と、ここで私は疑問に思う。
「ところでさ、王都では魔石が不足しているって聞いたけど?」
近衛兵がうなずく。
「はっ! 復興に伴ってそのような現状であると聞き及んでおります」
「だったらさ、なんであんた達はダンジョンに行かないの?」
魔石がたりないなら、彼らもこんなところで私たちのじゃまをしていないでダンジョンに行けばいいのに。
「もちろん、ダンジョン探索は常に行っております。現在もわれらの同僚が探索中であります。しかしながら、見張りも欠くことはできません。戦うすべを持たぬ民が謝ってダンジョンに入ってしまえば、それはすなわち死に直結いたします故」
「ふーん、そんなもんかしら」
こんな森の中の洞窟に一般民が来るとも思えないけど。
「また、王家のダンジョンに、許可の無い冒険者が立ち入ることを防ぐことも我らの使命です」
なるほど。
どっちかっていうと、そっちの方が主な理由なのかもね。
これ以上、とくに近衛兵と話すこともなさそうだ。
私たちはさらに洞窟の奥へと進んだ。
すると……
「なに、これ……」
空中に青く光る球体が浮かんでいる。
きれい……
「これが、魔石?」
問う私に、タリアが微笑。
「いいえ、クラリエ王女。これはダンジョンの入り口たるオーブです」
「入り口? これが?」
「はい」
それから、タリアとソフィネがダンジョンについて説明を始めたのだった。
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