「ねぇ、ライト、あなた肝心なことを話していないわよね?」
フロルのその指摘に俺はドキリとする。
世界の成り立ちのことは隠し通したつもりだったが、この天才児は見破ったのか?
そう思ったが、フロルの疑問は別だった。
「ゲームマスターを封印できたのはいいわ。ミノルのことは……元の世界に戻れたというなら文句の言い様もない。
だけどさ、ショート様はどうなったの? ショート様も『ニホン』に戻ったの?」
ああ、そっちか。
そうだよな。
特にフロルとアレルにとってはそれが一番重要なことだよな。
俺は一瞬迷う。
『そうだよ、だからこれからは俺たちだけで頑張ろう』
そうに言えば、きっとこの幼い勇者達が迷うことはなくなるだろう。
嘘も方便ではある。
実際、世界の成り立ちについては俺もそうした。
それでも。
俺はやっぱり仲間に隠し事するのはできるかぎり避けたい。
だから、俺はこう答えた。
「ショートは、ゲームマスターと一緒に封印されたらしい」
「そんなっ」
フロルが息をのむ。
アレルもびっくりした顔で言う。
「じゃあ、ご主人様を助けないと!」
「そうだな。その通りだ。だが……」
俺は口ごもる。
ソフィネが俺の言葉の後を続けた。
「方法がわからないのね」
「ああ、それに仮に封印を解除できたとしても、ゲームマスターも一緒に解放されちまうかもしれない」
「確かにね」
俺たちはシーンとなる。
ショートのことはもちろん助けたい。
だが、方法が分からない。
まして、ショートだけ助けてゲームマスターは封印したままにするなど……それこそ神様にだってできるのかどうか。
迷う、俺とフロル、ソフィネ、アレル。
そんな俺達に向け、クラリエ王女が言う。
「状況は分かったわ。なら、これからやるべきことは決まっている」
なんだ?
以前に比べてずいぶんと芯があるように感じる。
ダンジョンでなにかあったのだろうか。
「今一度、勇者とその仲間達に王女として命じるわ。
私をブラネルド王国まで連れて行きなさい。そして、世界に平和をもたらしなさい」
え、いや、ええ?
俺はソフィネに小声で尋ねる。
「なあ、クラリエ王女、何か悪いもんでも食ったのか?」
ソフィネが答える前に、クラリエ王女が俺に言う。
「そこっ!! 聞こえているわよ!」
よくわからないが、クラリエ王女は彼女なりに色々と覚悟を決めたらしい。
「わかりました。俺もクラリエ王女に協力させてもらいます」
俺はそう言った。
今のクラリエ王女の覚悟は本物だと感じられたから。
俺だけじゃなく、フロルやソフィネ、もちろんタリアやランディも従うつもりらしい。
だが、アレルは……
「でも、ご主人様は……」
やっぱそうなるよな。
フロルがアレルに言う。
「はっきりいって、今の私たちにはどうにもできないわ」
「そんなっ!!」
「でも、方法はあるかもしれない。ブラネルド王国やジンパルグ帝国、ダグルハンド共和国の誰かが知っているかもしれない。あるいはエルフやドワーフ、魔族なら何かわかるかもしれない。私たちが勇者としてさらに成長すれば助ける力を得られるかもしれない」
「『かもしれない』ばっかりじゃないかっ」
「その通りよ。でも、ショート様のためにも、私たちは世界を巡り平和のために仲間を増やすべき時なのよ。魔族と本格的な戦いになったら、ショート様を助けるどころじゃないでしょう?」
そうだな。
その通りだ。
フロルだって、完全に割り切っているわけじゃないだろう。
色々我慢して、そう結論づけたのだ。
だが。
そこでソフィネが言った。
「ま、その通りなんだけどさ。魔族っていうならリラレルンスとの連絡はどうするの?」
あ。
間抜けなことに、ソフィネに言われて初めて、俺はその問題に気がついたのだった。
「確かに、国王陛下やリラレルンスと連絡を取らないわけにはいかないな」
タリアが言う。
「国王陛下との連絡はご心配なく。私が陛下と――厳密にはザスラル大臣と連絡をとるための魔道具を持っていますから」
その言葉に一番ビックリしたらしいのはランディ。
「父上と!? そうだったのか!?」
「ええ、これまでも道中で何度かご報告しています」
あれ、国王との通信はミノルが担当していたはずじゃ?
いぶかしがる俺達に、タリアは言う。
「ミノル様は国王陛下の直属、対して私たちメイドの采配は最終的にザスラル大臣の仕事。微妙に所属が違います。それに単純に連絡方法は複数確保しておいた方が何かと安心でしょう。現にこういうことになったわけですしね」
なるほどね。
でも、ミノルも含め俺たちに黙っていたのは……
……あるいは、ザスラル大臣がミノルを信用していなかったのかもしれないな。
一方で、タリアのこともミノルに監視せていた可能性もあるが……
「なら、そっちは問題ないとしてだ。リラレルンスとの連絡はどうする?」
南大陸とは魔道具をつかっても連絡できないと言っていた。
そうなると、本当に方法がない。
フロルが言う。
「はっきりいって、それもショート様のことと同じよ」
「方法がない以上、俺たちにできることをするしかないか」
「ええ。たとえこれから南大陸に向かったとしても、南大陸のどこで彼と会えるかも分からないわ」
「そうだな。お互いを信じて和平に向けて動くしかないか」
リラレルンスはそこまで信頼できるのか。
所詮、ヤツも魔族だという思いもある。
不安はあるが、どうにもならない。
タリアは俺たちに言った。
「そのあたりについては勇者様達のご判断を尊重します。ただ、クラリエ様をこのままブラネルド王国にお連れするべきかどうかは、ザスラス大臣や国王陛下のご判断を仰ぐ必要があるでしょう」
確かにな。
ショートとミノルがいなくなって、残ったのはアレルとフロル、それに俺とソフィネ。
ランディとクラリエ王女自身も含めて、タリアや国王達からみれば子どもにしか見えないだろう。
とてもではないが、王女の輿入れを任せられるパーティではないかもしれない。
「ああ、国王陛下への連絡は頼む。何をどこまで話すかは、タリアさんに任せるよ」
「私はメイドです。知り得たことを大臣や国王陛下に隠し立てはできません」
全部正直に話すってことか。
むしろその方がいいだろうな。
フロルもうなずいた。
「じゃあ、お願いするわ。できれば、これ以上無駄な時間はかけたくないから、このまま行きたいけど」
アレルが言う。
「王様に伝えてよ。クラリエ様はアレルが絶対護るって」
アレルの言葉にタリアはうなずく。
「はい。かしこまりました」
すると、クラリエ王女が口を挟んだ。
「タリア、その魔道具はあなた以外にも使えるの?」
「機能的には可能です」
「機能以外に使えない理由があると?」
「この魔道具はザスラス大臣からお借りしたもの。大臣の許可がない人間に使わせることは、私の権限では許されません」
なるほどね。
確かにそうかもしれない。
「なら、王女として私があなたに命令する。私と勇者にも父上と話させなさい」
「え、それは……」
「私が、直接父上を……陛下を説得するわ。一刻も早く、ブラネルド王国に行って、婚姻の見返りに和平への協力を約束させないと」
おいおい。
クラリエ王女、本当に変わったな。
何があったんだよ?
元々行動力はある人だから、それがいい方向に働けばこっちとしても助かるけど。
「アレル、フロル、あなたたちも陛下を説得するのを手伝いなさい」
クラリエ王女の言葉に、双子もうなずいた。
そこにランディも口を挟む。
「クラリエ様。私にも父上と話させてください。私では力不足やもしれませんが、父を説得する一助になりたいです」
なんか、ランディも少し変わった?
「いいわ。ついでだし、ライトとソフィネも同席しなさい」
俺とソフィネがうなずく。
「わかった」
「了解よ」
タリアが「ふぅ」と息を吐く。
「皆様ご成長されて頼もしいことです。王女殿下のご命令とあれば、私に否は言えませんね」
こうして、俺たちはザスラス大臣や国王陛下と通信することになったのだった。
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