「ドラゴ……ニュートだと?」
何で、ドラゴニュートがグレイさんと一緒にいるの?
「あの、コレットさん……?」
何で、ドラゴニュートがリリクスの街にいるの?
「……」
何で、ドラゴニュートが何でマリーの名を語っているの?
「……何で? ……何で! ……何で!?」
なにがどうなっているの!?
わけがわからない!
「ちょっコレットさん!? 落ち着いてください!」
こんな状況で落ち着けるわけがない!
ああ、足が震えて来た。
「落ち着けって、こんな街中にドラゴニュートなんているわけがないだろう」
それがいるんです!
しかも、私の目の前に!
「その娘です! その娘はマリーじゃなくて、ドラゴニュートなんです!」
「「はあ……?」」
グレイさんとキャシーさんが怪訝な顔つきをして私を見ている。
私の言う事を信じられないって感じだわ。
確かに私も、こんな場所でそんな事を言われても信じられなかったかもだけど……う~どうしたら伝わ――。
「なっ何を言っておるのじゃ? わしはマリーじゃ。どうやら姉は疲れている様じゃから、わしは一度出直すとするのじゃ」
「なっ!?」
ちょっと! なにマリーになりすましたまま、逃げよううとしているのよ!
というか姿が違う、そのしゃべり方もおかしい、全然マリーに成り済ます気がないじゃない!
ああもう! こんな奴がマリーと偽っている事に段々と腹が立って来た!
「待った! どうして私の可愛い妹と偽っているかは知らないけど、マリーは【わし】とか【のじゃ】とか言いません! 髪だってカサカサの白髪じゃなくサラサラの金髪! 身長はもっと高いの、貴女みたいなちんちくりんじゃありません!」
「なっ!? この、大人しくしておれば好き放題言いよってからに……よおおし、いいじゃろ!! その喧嘩、買ってやる――」
――ビリッ!!
「――の……じゃ」
「「「あっ……」」」
背中から、翼と尻尾がマントを突き破って飛び出してきた。
マントが破れてあらわになった姿は、白髪の長い髪、紅い眼、ビキニ様な緑色の鱗、背中に翼、お尻から尻尾が生えた小さな女の子……間違いなく、遺跡で出会ったドラゴニュートだ。
「しまったのじゃ……興奮してつい羽と尻尾を出してしまったのじゃ」
ふっこんな安い挑発に乗るなんて、所詮はモンスターね。
あの姿を晒しちゃったら、もう言い逃れは不可能……って、よくよく考えたらこんな場所でドラゴニュートの正体を現したら――。
「マジかよ……おい、キャシー! 今すぐギルドに報告して援軍を!!」
「っはい! わかりました!!」
「ドラゴニュートだって……!?」
「……うわああああ! 助けてくれえええええ!!」
「逃げろ! 逃げろ!!」
「きゃあああああああああ!!」
デスヨネー、やっぱりパニックが起きちゃった。
これは……やらかしちゃったかな? 後で問題にならなきゃいいけど。
「はあ~バレてしまっては仕方がないのじゃ……じゃったら、さっさと目的を果たすの――じゃ!」
っ! ドラゴニュートが私に向かって――。
「きゃっ! ……あいたたた」
いきなり低空飛行で突っ込んでこないでよ!
かすっただけで済んだけど、その拍子で転んじゃってお尻を打っちゃった。
しかも、昨日と同じところをだし……。
「――おい! 大丈夫か?」
「……あ、はい。大丈夫で……あれ? あれ?」
うそ、無い!
「どうした?」
「……無いんです! 皮の鎧が!」
「皮の鎧? ああ、拾った奴か……」
辺りを見渡しても落ちていない!
一体何処に……。
「探し物はなら、ここなのじゃ」
「へ? ……あっ!」
宙を飛んでいるドラゴニュートが皮の鎧を持っている!
さっきの突っ込んで来たのは、皮の鎧を取る為だったのね。
でも、どうして皮の鎧なんかを。
《――!》
ん? ドラゴニュートの傍に誰か駆け寄って来た、あの鎧姿は……えっ!? 泥棒じゃない!
どうして、泥棒は取り押さえられているはずじゃ……ちょっと! 取り押さえてた人達が逃げちゃってるじゃない!
「ああ、後こいつも返してもらうのじゃ」
返してもらうって、あの泥棒はドラゴニュートの仲間だったの?
そうか、だからドラゴニュートが皮の鎧を取って行ったのか。
「ん~いちいち降りるのも面倒じゃし……よし、ポチ! こいつを回収して撤収するのじゃ!」
ポチ?
犬の名前のような……まさか、あの時のダイアウルフを呼んだんじゃ――。
「は~い!」
って、現れたのはボロマント羽織った黒髪の女性だわ。
なんで人がポチと呼ばれて、モンスターの言う事を聞いているのよ。
「よいしょ。こら、あばれるな! ポチだっていやなんだから。――よっ! ほっ! っと!」
「――っ!?」
違う、あの人もモンスターだ!
泥棒を肩に担ぎながら、壁を蹴って建物の屋根に登るなんて人間業じゃない。
「じゃあね~」
ポチと呼ばれたモンスターが、屋根伝いに走って逃げて行っちゃった。
「おい、お前らの目的はなんだ! どうしてリリクスの街に来た!?」
「ん、目的じゃと? この皮の鎧を返してもらう為じゃ」
返してもらうって……え、あの皮の鎧ってドラゴニュートの物だったの?
……だとしたら私、とんでもない物を持ち帰ってしまっているし!
「そうかい、だったら目標は達成したんだ。とっととこの街から出て行ってくれないか」
この騒動、全部私のせいじゃない……。
「……嫌われたもんじゃな。言われなくても出て行くのじゃ、さらばなのじゃ!」
ポチの逃げた方向にドラゴニュートも飛んで行った。
私達、助かった……の?
「ああ……よかった……」
安堵したからか、腰が抜けちゃった。
これはしばらく立てそうにない。
「ぷはーさすがに今回ばかりは駄目かと思ったぜ……」
「……すみません……私……とんでもない事を……」
「いや、あんな皮の鎧をドラゴニュートが取り返しに来るなんて誰も考えねぇよ。ただ……」
「ただ?」
何だろう。
「もっと早くマリーちゃんじゃなく、ドラゴニュートだと知っていれば串焼きを奢らずに済んだのに! ……ハッ! じゃあ果物屋で3万ゴールドもする最高級の果物セットも、マリーちゃんじゃなくドラゴニュートに食われたって事かよ! ちくしょうがああああああああああああ!」
「……」
ドラゴニュートに騙されて食べ物を奢らされる四つ星級冒険者。
というか、人の妹になに餌づけみたいな事をしているのよ。
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