「むり」
『……へ?』
ポチが戻って来たが、その第一声が意味不明だ。
無理? 無いじゃなくて?
……もしかして、俺の聞き間違いか?
『すまん、もう一回言ってくれ』
「だから、むりだった」
聞き間違いじゃない、やっぱり無理と言っているな。
どういう事だ?
「――よっと、戻ったのじゃ。おっポチ、戻っていたのか」
良かった、ちょうどナシャータが戻って来た。
ナシャータなら意味が分かるだろう。
「ごしゅじんさま、おかえりなさい! ……? そのかかえているたからばこはなんですか? なかから、がさごそとおとがするんですけど……」
あの宝箱に捕ったものを入れて来たようだな。
それ以外は何も持っていないから、どうやら大物は捕れなかったらしい。
「これはポチが待ち望んでいたものが入っているのじゃ。残念ながら小物ばかりになってしまったじゃがな……」
「え!? ほんとうですか! おおきさなんてかんけいないです! すごくうれしいです!! いますぐたべていいですか!?」
ポチの尻尾がピンと上がって、ものすごい早さで左右に振ってる。
果たして中身を見たらどんな反応するんだろうか……。
「そう慌てるな、落ち着くのじゃ。これはケビンに調理をしてもらって……ってなんじゃ、まだ宝箱に入ったままなんじゃな」
入ったままで悪いか。
俺だって早く宝箱の外に出たいよ。
『仕方がないだろう、またバラバラにされたんだから……それよりもポチが戻って来て、意味不明な事を言っているんだ』
「意味不明な事じゃと? それはどういう事じゃ、胸当てはどうなってたのじゃ」
「あ~むりでした」
「ふむ……ん? 無理じゃと? 無かったじゃなく?」
「はい」
「???」
いや、首をひねってこっちを見られても……。
ナシャータにもわからんだか。
「ゆかがくずれおちていたんです。そのしたにおりたんですけど、どうやらむねあてはがれきのしたじきになってしまったみたいで、ポチがほりだすのはむりでした」
あーそういう意味で無理って言っていたのか。
というか、最初からそうやって状況を言えっての! そうすれば謝を悩ます事も……って、瓦礫の下敷きだと!?
「なるほど、そうかじゃったのか。なら仕方がないのじゃ」
『いや! 仕方がないの一言で終わらすなよ!』
「そうは言ってもじゃ、ケビン。絶対にへしゃげておる物を掘り起こしてどうする気じゃ? さすがにそんな物を小娘に渡すのはどうかと思うのじゃが……」
『うぐっ』
確かにそうだ。
あーあ……コレットへのプレゼントが潰れてしまうなんてショックだ。
「あ、そうだ。――そこで、これをひろいました」
ポチが1枚の紙を取り出した。
あの位置に落ちていたって事は、コレット達が落とした奴かな?
だとしたら見取り図か……あっもしかして俺への手紙とか!?
「ふむ、これは紙じゃな。――お? これは……」
『どうした? その紙に何が書かれているんだ!?』
くそっこの位置だとよく見えん!
すごく気になる!
「あの小娘の絵が描いてあるのじゃが……ほぉ~この絵はすごいのじゃ、かなり精密に小娘が描かれておるのじゃ」
コレットの絵だと!?
『それを見せてくれ!』
動きたいのに動けない、このもどかしさ!
「そうわめくな、紙じゃから逃げはしないのじゃ――ほれ」
『――おおっ!!』
本当だ、紙に描かれているのは紛れもなくコレットだ!
それにナシャータの言う通り、かなり精密に描かれていて本物が目の前にいるみたいだ。
『かわいい……』
絵とはいえ、こんな近くでコレットをまじまじと見ていなかったからな。
ああ……見れば見るほど愛おしい……。
「しかし、何故そんなところに小娘の絵が落ちていたのじゃろうか」
「なんでですかね」
ふっ、この二人にはわからんか。
『……簡単な話だ』
そう答えなんて一つしかないんだからな。
「どういう事じゃ?」
『これはコレットが、俺がさみしくない様に置いて行ってくれたんだよ!』
「「へっ?」」
それしか考えられん。
いいや、それ以外ありえないと言った方がいいか。
『でなれば、こんな精密な絵をこんな所に置いていくわけがない! ああ、コレット! 君は何て優しい娘なんだ!』
「わしは普通に落としていった可能性もあると……駄目じゃな、まったく聞いておらんのじゃ」
「ごしゅじんさま、もうこのにくをたべてもいいですか?」
「あ~そうじゃな……あの調子じゃと体が治ったところで、当分は自分の世界から戻ってきそうにもなさそうじゃし……仕方ないのじゃ、食べてもいいのじゃ」
「やったあああああ! それじゃあけますね! ――っ!?」
ポチの雄たけびが聞こえた気がしたが……それが喜びだったのか、恐怖だったのか、どっちだったんだろう……まぁそんな事はどうでもいいか。
『ウフ、ウフフフフフ……』
今はコレットの事だけを考えていたい……。
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