◇◆アース歴200年 6月21日・夕◇◆
……ん……眩しい……。
……何だ……この光は……。
『……う……』
「ん? すこし、うごいた?」
目の前にいるのは、ポチ……?
『……ここは……?』
目の前には虹色に輝く大きな木、あれは|【母】《マザー》……?
「お、しゃべった。――ごしゅじんさま、エサがめをさましたみたいです」
「む、そうか」
という事は、ここは|【母】《マザー》が生えている地下か。
はて、どうして俺はこんなところで寝転がっているんだろう……?
『……ん?』
意識ははっきりしてきたが、体が思うように動かない。
何がどうなったんだ? えーと、確か魔晶石の光で金の体を見せようとして、天井が吹き飛んで、雨が入り込んで来て、雷が鳴って……あれ? その後どうなったんだっけ?
うーん、その辺りの記憶が吹っ飛んでいて思い出せん。
「ポチ、すまんがそっちに連れて行ってくれないか」
「は~い」
ナシャータがポチに引っ張られながらこっちに来た……が、何でナシャータの奴は両目に葉っぱらしき物を指で押さえつけながら歩いているんだろう。
「とうちゃく~ごしゅじんさま。エサのまえにつきました」
「そうか。どうじゃケビン、具合の方は?」
『……』
うん、やっぱりどう見ても葉っぱを押さえている。
あんな事をしたら、前が見えなくて当たり前だろう。
「……? どうしたのじゃ、起きているのじゃろ?」
どうしたはこっちの台詞だっての。
『……起きてるよ。意識はあるが体の方は動かんがな』
「ふむ、そうか。やはり、まだ時間がかかるようじゃな」
やはり? まだ時間がかかる?
ナシャータの言っている事と、|【母】《マザー》の前で寝ている事を考えると俺は今、治療中の様だ。
一体どういう経緯で、こうなったのも気になるが……。
『お前の方こそ、両目の葉っぱは何なんだよ?』
ナシャータの、この意味不明な行為が気になって仕方ない。
「これか? これは|【母】《マザー》の葉っぱじゃ」
いや、普通の葉っぱだろうが|【母】《マザー》の葉っぱだろうがどうでもいいだが。
『俺が聞きたいのは葉っぱの種類じゃなくて、何でそんな物を目に押さえているのかって事だ』
ドラゴニュートの習慣ではないよな、今までこんな行動なんてした事が無いし。
「ああ、その事か。これはあの光のせいで目がずっとチカチカしてしまっておるから、|【母】《マザー》の葉っぱを押さえつけてさっさと治そうとしておるのじゃ」
あの光ってなんだ?
『……あっ、ジゴロ爺さんの持っていたフクシャキって奴の放った光の事か』
閃光弾並みの光だったものな。
「まったく、まさかあんな目に合うとは思いもよらんだのじゃ。しかも目に暗視魔法をかけていたから余計ひどい事になったのじゃ、さすがのわしでも悶絶しのたうち回ってしまったのじゃ」
ナシャータがあんな叫び声をあげるほどだし、よほどきつかったんだろう。
……その、のたうち回る姿を見てみたかったな。
『で、そのせいで魔晶石に流す魔力が狂って爆発したわけか』
「……そうじゃ」
やはり、予想通りだった。
「じゃが、あればかりはどうしようもないのじゃ! 突然の光なんて避けようにも防ぎようもないのじゃからな!」
まぁ確かにそうだよな、今回に関したらナシャータに非は無い。
むしろ、この姿を見たら被害者に近いか……。
なんせ治癒力が高いのに、|【母】《マザー》の葉っぱを押さえつけるくらいだし。
『ああ、わかっている。その事で責める気なんてない』
「……意外じゃ、口うるさく言って来るかと思っていたのに」
うるさいよ。
さすがにそこまで鬼じゃない。
『それよりも、俺はどうなったんだ? 一部の記憶が吹っ飛んでいて思い出せないんだ。雨のせいで金が流れ落ちてコレットに恥ずかしい姿を見られた辺りまではうっすらと覚えているんだが、その後の事が全く……』
何か、強い衝撃を食らったような気もするんだよな。
「すまんが、その時のわしは現状をまったく見ておらぬのじゃ」
あ、そうか。
のたうち回っていたんだから、その時の状況を見られるわけないか。
んー現状を把握したかったんだがなー。
「一応、ポチから一部始終の話は聞いているのじゃ」
ポチの話だって?
それは果たして信用できるのだろうか。
「おい、いまポチのほうをみていたが、ポチのはなしをしんようしていないな?」
『……………………いや、別に』
「その、ながいまはなんだ!?」
とは言っても、それ以外に情報源がないし。
仕方ない、その話を聞いてみよう。
『じゃあ、それを話してくれるか?』
「む~! ごしゅじんさま、こんなエサにはなさなくても――」
「ケビンが意識を失ったのは、雷がケビンに落ちたかららしいのじゃ」
『……はあ!?』
俺に雷が落ちただと!?
「ああ、はなすんですね……」
「お前は黒焦げになっていたそうじゃ。腰ミノを着けていても雷のダメージは相当大きかったようじゃな、記憶があいまいなのもそのせいじゃろ」
黒焦げって……あっ本当だ! さっきはちゃんと見ていなくて気が付かなかったがよく見ると、まだ体には焦げた部分がたくさん残っている。
体にダメージが残っているせいでまだまともに動かせなかったのわけか。
「聞けばケビンの意識が無いと言うし、わしの目もさっさと治したかったから|【母】《マザー》の所までポチに運ばせたという訳じゃ」
なるほど、そんな事になっていたのか。
……待てよ、俺がこんな状態になっているという事は――。
『コレットは! コレットどうなった!?』
雷の巻き添えをくっているかもしれんじゃないか!
「あ~そういえばどうなったのじゃ?」
「……どうこもうも、エサがまるこげになったあと、かえっちゃいましたよ」
『そうか……』
良かった、どうやら無事だったみたいだな。
それを聞いて安心した。
「わしの目も、ケビンの体ももうじき治るのじゃ。それまで大人しくしているのじゃ」
動こうにも動けないっての。
ただ、こうしている間の時間がもったいないからコレットへのアプローチを考えるとするか。
結局、今日も失敗してしまったしな……得たものがあるとすれば、俺はますます雷が嫌いになったという事のみ。
次こそ成功させないとさすがにまずい。万が一コレットの心が離れてしまって、あの四つ星親父なんかにでもなびいたら……。
『そんな事を認められるかあああ!』
「大人しくしていろに対して、なぜ認める認めないの話が出てくるんじゃ!? 意味が分からんのじゃ!」
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