アカツキを胸の前で抱きかかえながら扉を潜ると、そこは石造りの街でした……! なんだと、和装目立つじゃないですか!
とりあえず初期にプレイヤーが出てくるらしい扉の前からどいて、辺りを見回す。ぞろぞろとプレイヤー……いや、共存者らしき人がいる。みんな体のどこかに太陽を簡略化したようなマークがあるし、多分あれがプロモで言っていた『共存者の印』ってやつだろう。私の場合は左手の甲だ。
「くうー」
もはやニワトリとは思えないような甘えた声で私のお腹にぐりぐりと頭を押し付けるアカツキに、自然と口角が上がっていってしまう。可愛いがすぎる。
しかし、これからはあんまりだらしないところを見せるわけにはいかないな。オンラインだし、なるべく敬語キャラを通して真面目な印象で行きたいものだ。
「行きますよ、アカツキ」
おっと。足袋を履いているとはいえ、下駄でブーツやらヒールやらの連中の中に突っ込むのは怖い。電車の中でサンダルだったとき、ヒールにぶち抜かれて死ぬほど痛い目に遭った去年の夏が思い起こされる……あーやだやだ。人通りの少ないほうに行こう。そして宿屋に泊まれるくらいのお金を余らせながら買い物しよう。
大丈夫! 初期ゴールドはなんと1000もあるのだ!
回復アイテムやらこの子のエサやらを買ってちょうどいいくらいでしょう!
【ゲーム内時間 一時間後】
【悲報】全財産溶かした。
「やっちゃいましたぁぁぁぁぁぁ!」
アカツキを抱きしめながら噴水の縁に腰掛ける。
ぎゅむぎゅむと抱きしめられたアカツキは苦しそうだが、幸せそうでもある。聖獣にとって接触は信頼度を上げる行為らしい。
あー、アカツキは可愛いなあー。
よし、現実逃避はやめよう。
全財産溶かした。見事に。一文無しだ。宿屋に泊まるゴールドも残ってはいない。なんでこうなったか? そんなの……そんなの一つしかない!
「はーい、アカツキくん。ブラッシングしましょうねぇー」
「クックッー!」
アカツキの黒豆みたいな目がキラキラと輝く。ああ、これがあるから動物ってたまらない……もっともふもふにしてあげるからね!
そうして取り出したるは『高級ブラシ(鳥系聖獣用)』に『質の高い水で満たされた高級霧吹き』である。
鳥類は自身の尻尾から分泌される物や水辺で羽繕いをするわけだが、そこはゲーム内。なんと鳥系聖獣の羽繕いをできるブラシが売られていたのだ!
犬猫系の聖獣とは違い、少々特殊な加工が必要らしくてどれもこれも高級品ばかりでね……あはっ、そうです。これが原因です。これで全財産溶かしました。
でもね? アカツキの「もしかして、羽繕いしてくれるの?」と言わんばかりの視線を受けて、「ごめんなさい、今は我慢してくださいね」と言えるほど私は冷静ではいられませんでした!
悩みに悩んで……いえ、嘘です。即決で買いました。買ってから値段と消費したゴールドに気がつき、盛大な悲鳴をあげました。人気のない裏路地でよかった……。
表の露店に戻ると、高級じゃない普通のブラシなんかも売っていたけれど、高級ブラシを発見しちゃったんならしょうがないよねぇ。そこはこだわりたい人間。それがわたくし、『ケイカ』ちゃんなのです。
ということで。
「アカツキ……えへへ、もっともっともーっと、ふわもこにして差し上げますからねぇ?」
顔つきが危ない? 変態? 宿屋に泊まる金もないくせに?
ふっふっふっ、可愛さの前にはそんな些細なことどうでも良いのです。
私は美しいものが好きなのだ! こんな逸材磨かずにいられようか!
さあさあさあ、いざぁ!
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