さわさわと耳をくすぐる風の音。ピチチチとどこかで鳥かなにかが爽やかな鳴き声をあげる音がして、意識がはっきりしてくる。
風が気持ちいい。春風みたいな柔らかくて、暖かい風。
体が仰向けに倒れているのが分かるのだけれど、ずっとこのままでいたいような、そんな気分。気分良く目を瞑ったままでいると、ほっぺたをふわもこのなにかが触れた。そして首筋に冷たいなにかがぺしんと当たり、なんだなんだと目を開く。
「……あ、まぶしい」
頭上に広がる青空。太陽の光輪が空高くに見えて、少し目が眩む。一部だけ影が差しているように見えるが、これはいったいなに?
手を伸ばせば、もふりと指先からなにかふわもこの感触の中に沈み込んだ。
「んん?」
光に目が慣れてきて、ようやく仰向けになった私を覗き込んでいるらしいものの正体が分かった。
「コッ、コッ」
真っ白な体に流線型の体。頭の上にある炎のような冠。デフォルメされた黄色い足に、まん丸なお尻。風に流れていくようなふわふわの真紅の尻尾。そして黒豆みたいなつぶらな瞳がこちらを見つめている。
その真っ白でふわもこな胸の中に私の指先が埋もれていた。
要するに、そこにいたのは鶏だった。
「ニワトリ……? なんで……?」
寝起きなので頭が回らないのはご愛敬。
体を起こし、自分を見つめる黒豆のようなおめめを見つめる。どこか愛嬌があるうえに、理知的だ。私を真っ直ぐと見つめてきて、ひょこっと首を傾げた。あれ、ニワトリって首を傾げるとかできたかな?
……だんだんと目が覚めてきて、気がついた。そうだ、私ゲームしてたんだっけ。ここは神獣郷オンラインの中。つまり? 目の前のニワトリは……!
「もしかして、キミが私のパートナー?」
「コッ、コッー!」
翼を広げて鳴く目の前のニワトリ。
その羽毛の中に埋もれた指をさわさわと動かす。相手がニワトリなので全く問題ない行為だけれど、現実に人間にやっていたら完全な変態ムーブである。
「か、可愛い!」
ガバッと持ち上げてくるくるとその場で回る。ニワトリは私からの全力の抱擁に目を丸くしながらも喜びの声をあげる。
くるくる回るたびにふわふわの尻尾が風になびく。尻尾が鳳凰さんみたいに長いタイプのニワトリだ。すべすべした|鶏冠《けいかん》も大きくて立派である。多分さっき私の首筋をぺしぺしと刺激していたのはこの鶏冠かな?
周りは草原っぽい感じ。ゲームを始めたばかりなのに始まりの街っぽさが皆無だ。キョロキョロと辺りを見回せば草原の端にぽつんと扉がある。むしろそれしかない。
「んん? ここどこだろう」
ええと、ステータス表示はどうするんだっけ。あ、視界の端にボタンがあった。これを押せばいいのかな? えーっと、タップしてスクロール。
出た出た。
場所の名前はっと――『出会いの間』?
なるほど、まだ街には出ていないということかな。下のほうに『聖獣と仲良くなろう!』という初期ミッションらしきものが表示されている。
自分のステータスの下にパートナーの項目があったのでタップ。
自分のステータスより先に見るのかという思いが一瞬過ぎったけど、まあいいよね! だってこの子が可愛いからしょうがないんだよ!
「ステータス、オープン!」
格好つけてボタンを押すだけの簡単なお仕事です。
こちらミニマムケイカちゃん。
こんな自キャラのアクリルキーホルダー欲しいですよねぇ。
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