ぴょんこ、ぴょんこ。
ぴょんこ、ぴょんこ。
可愛らしいピンク色のウサギさんに連れられて裏口に回った私は、ウサギさんがペットドアになっている下の部分から店のバックヤードに入っていく様子を見守る。
「シズク、ピット器官発動」
「しゅるる」
「『感覚共有』……」
シズクがスキルを使って扉をじっと見つめる。
私もそれにならって感覚共有のスキルを発動させると、視界がサーモグラフィーのように切り替わる。実際のピット器官の見えかたとは違うだろうが、確かにこのほうが分かりやすいかも。
扉の向こう側に体温の高い、ウサギ型の暖色が見える。
ウサギさんはぴょんっと跳ねて扉の取手の部分だろうか? それとも鍵の部分? そのあたりを大きな後ろ足で蹴っ飛ばそうとしている。
そして数十秒ほどで、扉の向こう側からカチリと鍵の開く音が響いた。
賢いなこの子……と実感しながら扉をそっと開ける。
すぐそばにはウサギさんの反応だけ。ずうっと奥のほうに店に続いているだろう扉っぽい縁取りがある。店のほうは暖かいらしく、奥の扉を縁取るように温度の変化があるのだ。
「お邪魔しまーす……」
こうしてウサギさんが案内してくれるということは、聖獣自身もパートナーが悪に手を染めているということが分かっているからなのだろう。友達が間違った道に行っていたら、連れ戻すのもこの子達の役目なんだろうね。
暗い中、そっと慎重に進み辺りを見回す。
ちょっと広めの部屋で、オボロもアカツキも足音をなるべく消すように歩いている。ときおりカサリと音が鳴って飛び上がるように驚くが、書類みたいなものが下に落ちているから……みたいだね。
目の前がサーモグラフィーのままだとさすがに見えづらいので、感覚共有を解いてテーブルらしきものに近寄る。
書類っぽいものに、学校で見たことがあるような実験器具。ビーカーに、テーブルの上に置いてあるツノのようなものと、すり鉢。それから大量の細長い和紙に……あの滝の上で見た、水差しとそっくりなデザインの、普通サイズの水差し。近くにはデザイン画と思われるイラストも転がっている。
それから手探りに細長い和紙の山の中を探してみると、あのとき見た『獣退散』の文字が書かれたものも発見した!
アイテムボックスから、回収していたお札を取り出して見比べる……同じものだね。筆跡も多分一緒。
証拠はバッチリだ。運営からのミッションだからか、こっそり忍び込むだけでいろいろ分かって助かるね。
そういえば、あのウサギはどこに?
見れば、ピンクのウサギさんがじっと部屋の隅でこちらを観察している。店にいるときは観察眼で見ることができなかったが、よく考えれば今なら見放題だよね?
よし。
「ウサギさんの種類はなんでしょねーっと」
━━━━━━
【魔獣ピンク・ムーン・ラビット】
━━━━━━
「え……?」
そんなはずは。
もう一度観察眼でウサギさんを確認しようとしたとき、奥からギイッと、扉の開く音がした。
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