神々之黄昏

R指定のラグナロク
やほ
やほ

第41話 幻冬

公開日時: 2020年9月9日(水) 08:40
文字数:2,605

大陸が消失し、代わりにマグマの大海が広がるその中心地点、その上で二つの高エネルギー体が対峙していた


一方はマグマの大海に立つ青白い巨大な魔狼で、透けたその身の内に1人の白銀の美丈夫を宿している、その男はマグマの上にあっても涼しげな表情で上空の敵へと青銀の冷たい視線を向けている


そしてもう一方、視線を受けるその金色の眼で、白狼を睨み返すのは角の折れた赤く巨大なドラゴン、全長100mに迫るその巨体の隅々まで魔力を漲らせ、煌々と赤く燃えるオーラを身に纏っている。そのドラゴンが大砲声を上げる


「ゴオオオオオオオォォォォォッッッッーーー!」


轟音により大気が震え幾重にも衝撃の波動が広がり、周囲の分子を崩壊させる。魔力の乗った威圧の咆哮だ、破壊の旋律は白銀の魔狼へも容赦なく降り注ぐ


「2人とも此処は私に任せて拠点に戻っていなさい」


しかしその凶悪な波動を一切気にする事無く保護した家族へと意識を向ける


「兄様」

「ヴォルフリード様」


ドラゴンに敗北し満身創痍でボロボロになったヴァニラとライカの体も既に治癒を施され傷は全快している


「もう魔力が残っていないようだね、私が転送してあげよう」


ヴォルフリードがゲートを広げ2人を範囲内へ入れる


「ちょ、待っ…!」

「私達裸ッ…!」


全裸の2人はそのまま拠点へと転送されて行った





「さて」


ヴォルフリードは再びドラゴンへと視線を向ける、ドラゴンは威圧を無視され侮られたと感じたのだろう、鋭い歯を剥き出しにし唸り声を響かせていた


「此処は少々暑いな、涼しくしてやろう」


ヴォルフリードのオーラである白銀の魔狼が前脚でマグマの海を叩く、すると灼熱の大海は突如大吹雪が荒れ狂い一瞬で氷の大陸へと変貌した、一瞬で吹雪が止み輝く静寂の世界が訪れた


膨大な魔力を込めた氷の魔法によりマグマの海に氷の蓋をしたのだ、それはドラゴンが吸い上げ続けていたサラマンダーの魔力を遮断する事になった


ドラゴンが更に怒りブレスを連射する


「ォオオォォッ!」

ドオォンッ!ドンッドンッ!ドドドドドドドドドドドドドッ!!!!


流星の様に降り注ぐブレス攻撃、その1発1発が50Mt級の核爆弾と同程度の威力がある、純竜である火竜の能力には魔力吸収と放出魔力増幅というパッシブ効果があるのだ。


殺したサラマンダーから吸収した魔力を火球として放出する、放出された火球は体内より吐き出された瞬間に増大し威力を増幅させる。


そんな1発で40km以上のクレーターを生む能力を持った火球を、魔狼は美しい流麗の尾を連続して振るい弾き返す!


ヴパパパパパパパパパパッ!!シュシシシシシシュゥーーーーーーン………


四方に弾かれた火球が収束しその効果を発揮する事なくダイヤモンドダストとなって消滅する、それは魔狼の攻撃によるパッシブ効果でブレスの魔力を打ち消した為だ

ルシエルはまだ鑑定で詳細を見抜け無いが、ヴォルフリードの称号[幻冬之魔狼]の能力に[絶対零度]というものがある、端的に言うと運動エネルギー停止、それは熱エネルギーだけではなく、分子運動、魔素運動へも影響を及ぼす、その為覚醒体である魔狼のオーラを顕現させた時に能力を発動し、始めに極寒の結界世界を作り上げた時、ドラゴンの魔力吸収を妨害しただけでなく己の権能の効果範囲を広げたのだ。


その効果範囲である結界内ではヴォルフリード以外の時間の進みは緩やかになり、自然影響・物理・魔法等の攻撃はほぼ無力化されてしまうのだ


しかし敵も規格外のモンスター、ドラゴンである、ヴォルフリードの結界空間にあって己の魔力を爆発させ強引に支配下から抜け出した



「グゴオオオォォォォォォーーーーーーーーッッッ!!!!」

ドドォーーーーーンンッーーー!!


ドラゴンが新たにブレスを吐こうと魔力を凝縮し今度は先程迄とは違い口腔内に魔力を限界迄圧縮する


高密度の魔力圧縮に常人ならばその影響から魔法攻撃を受けたかの様に肉体を蒸発させるだろう、直視すると視神経が焼き付く程に眩く口腔が発光し、ジェットエンジンの機動音の様な高い音が響き、魔力の集束具合を聴覚を通しても感じ取れる程に五感を刺激する


そして限界を超えて圧縮された魔力が魔法効果を通して射出された


「バシュッー!キヒイィィィイイイイイイイィィーーーーーーーーーーーーーッ」


超圧縮された細い閃光が光の速度に迫る勢いで魔狼を襲う!


魔狼はその光線をすんでのところで回避する!追い迫るブレスを氷の大陸を疾走して避け続ける、当たった端から氷の大地が爆発しマグマを噴き出す!ドラゴンの背鰭から魔力が迸り更に出力を増し光線が大地を切り裂く!

魔狼は彗星が尾を引く様に空中へと超速で駆け上がりドラゴンへと接近する

対するドラゴンはブレスを吐きながら四肢と尾に迄魔力集中をし物理攻撃へと移行する、その凝縮された魔力はブレスに込めた魔力を超えている、一振りで大陸を割る尾のなぎ払いから先程見せた竜の舞踏を開始したのだ


両者が超速で衝突する、魔狼はその顎へと魔力を集中し己の能力を一点に絞りドラゴンの舞を貫いた!ドラゴンは一撃で尾を消滅させられ、見た目以上の魔力ダメージをその身に刻まれた、魔狼は尚も攻撃の手を緩めない!魔力超高密度の連続突きをドラゴンの身に叩き込む、核攻撃でも容易く耐えるドラゴンの外皮は容易く貫通され身体中に空間をくり抜いたかの様な穴が空く!次の瞬間には全身の穴から大量の血を噴き出し悶え苦しむ


「キシャアアアアァァァァァーーーーーーーッ!!」


金切り声を上げ攻撃から逃れようとするが魔狼がそれを許す筈も無く、次には背中の羽を切断された


魔力操作によって浮遊は出来るが高速で飛翔するには翼の能力が必要だ、よってドラゴンは魔狼の攻撃を最早避ける事も出来ず受け続ける、それでも常に強者であったドラゴンは己の敵に対し爪撃を放つ!しかし魔狼は先を制しドラゴンの爪撃が効果を発揮する前にその腕を斬り飛ばす!


一方的であった


先の戦闘とは逆転する力関係


覚醒戦士との格差が明確に示された一戦


魔狼は最後の一撃によりドラゴンの胸を貫いた、金色の眼から光を失い氷の大地へと落下する亡骸


「私と同等の戦いをするならばネームドモンスターを連れてこい」

ヴォルフリードはドラゴンの魔石を手に持ち静かに呟きヴァニラ達の元へと消えて行った




戦いの場となった名も知らない星の大陸は噴き出したマグマ迄凍り付き残留魔力によって永久凍土と化してその星に傷跡を残した

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