時は1年程遡る、ここはクトゥルフ界の何処か、そこに存在するのはその世界の絶対的支配者、しかしその者は時の流れを感じる事もなく何かに意識を向けることも無くただ虚空に漂っていた、時の流れもない空間、ずっと誰も訪れる事のない場所だ。
虚空の主はそこに何者かが干渉し転移して来ようと試みているのを感じとった、何度も転移を試みるがいつまでも成功しない、恐らくはあまりにも力に差がある為、意識せずとも弾かれてしまうのだろう。それは鍵もかけていない扉を赤子が開けようとしてもただその扉の重さを押せないようなもので、明確に格の違いがあった
何度も失敗し続ける訪問者に虚空の主は興味を持ち自ら転移を助力しその者を引き入れてみた
「ああ、やっと転移出来たよ、お、やあ君がここの主だね?俺はロキ、君と話をしたくて尋ねて来たんだ、宜しくね」
物語はこの時の出会いを起点に回ってゆく事となった
そして時は戻りエメラダの部屋、そこで神々の戦いを観戦する者達がいる
「断じて情婦などでは無いわ!それに油断するな、まだお主を見ている者がおるぞ」
エメラダが大声で否定する、雷神トールの戦いは僕も想像を超えていて唖然とした、愛夜実と一ノ瀬さんを見ると意外と落ち着いて観戦している
「凄い迫力ね、とっても良く出来た映画だわ」
「そだねーアタシもパンチで星を割ったり出来るかなぁ、シュッシュッ!あははっ」
違った、現実を理解出来ていないだけだった
「2人ともしっかり、此れは現実の戦いだよ」
「なわけー、もぅルゥったらたまに変な冗談言うんだもんなー、!?キャアァーーーーーーーッ!!!??」
「なんだ!?どうした!?」
「ちん、ちん!ちん、ちん!…」
観戦中にギンギンに勃起した僕の肉棒を見て愛夜実が混乱したのだ
「あれ?そういや愛夜実と一ノ瀬さんは知らなかったっけ?ボクこう見えて男なんだ」
「男とか女とか関係ないってーーー!何で勃ってんのよーー!?」
喚く愛夜実が騒がしいが処女なんてこんなもんか、だが一ノ瀬さんは冷静だ
「素晴らしい造形美だわ、アンドロイドでも同じように同性具有体をしている人はいるけどここまで美しいなんて…」
また違った反応だ
「なんか他人の戦いを観てると勃っちゃうんだよね、それより向こうの戦いを観なきゃだよ!」
「色々追いつけない…千冬は何で普通にしてるわけ…」
「美しいモノは美しいのよ、それより私は映画じゃなくてちゃんとした戦いを観たいわ」
画面では先程より激しい戦いが繰り広げられている、僕も現実とは思えない、だって昨日までゴブリンに殺されそうになってたんだよ?
「拙いのじゃ!ええぃ何故援軍が来ぬ!?緊急事態じゃ!ワシはトールの所に行く!」
突如としてエメラダが焦燥を見せ転移しようとする、こんなに焦りを見せるエメラダは初めて見た
「ダメじゃ!結界が張られた!」
どうしたんだろう?画面の向こうではトールが敵をハンマーで砕いたところだ
「オーディンは!?、フレイは!?何故じゃ誰の反応も消えている!」
「どうしたのさエメラダ?」
「やられたかもしれん、ワシが時間を稼ぐ、無駄かもしれんがのぅ。…お主が最後の希望になるであろう、頼んだのじゃ!」
「え?何が?」
「あ!観て!あれヤバくない!?」
愛夜実の声に画面を観るとトールが背後から刺されてた、犯人は見たことのある神だ
「あれ?アレってロキじゃないか?あれ?アイツって大人になってない?何でトールを刺してるの?」
「ロキ!!アヤツだったのか!?くっルシエルよ、最早多くの生命を救うことは叶わぬ、誰にも知られておらぬ場所はお主の世界のみじゃ、この星に居る生身の者達と受け継ぐべき文化と最低限の物資を其方に託す!逃げ隠れ、少しでもお主の世界を守るのじゃ」
「え?どうしたのさ?」
「説明している暇は無い、録画を送るから後で再生するがいい、これからワシが転送するからその世界でSEXでもしながら生きるのじゃ、さらばじゃ」
「え?ちょ!」
「「エメラダちゃん!?」」
そう言ってエメラダは僕等を転送した、僕は状況変化に全く追い付けず何も理解出来ないままだ、僕の世界って何?何処?最後の希望?どゆことーーーー?
エメラダは1人、私室のモニタールームに残り事の成り行きを観察する
「さて、これでルシエル達は安全じゃろう、こうしてる間にワシも生き残る方法はないか手を尽くしてみようかの……残念ながらオーディンの悪い予感が当たってしまったようじゃ」
結界に固定され通信を切って逃げる事も出来なくなった画面の向こうではとうとうトールがロキに殺されたところだ、敵である筈の魔神二グラスと共に在り、親友でもあった筈のトールを殺した、エメラダは真相に近い推測を立てていた
「ロキじゃったか…黒幕は」
そしてトールの力を吸収したロキがエメラダの気配に気付く
『やあエッダ、取って置きの場面を観ていたんだねぇ』
ロキはニンマリと笑い己の所業を最早慌てて隠す事もなくこれから殺す者へと意識を向ける
「偶然にもな、それで?此方へ来るのじゃろう?聞きたい事もある、参るがよいのじゃ」
ヴゥン
言い終わるが先か、ロキはエメラダの部屋へと転移して来た、手には二グラスの頭を掴んで持っている
「わお、とんだ覗き魔じゃ無いか、ははっこれには俺もビックリだよ、ホントお前って器用だよねー」
「それでもこれ迄の隠蔽工作に気が付かなんだわ、無意味な事じゃよ、して、オーディンや他のユグドラシルの神々はどうした?」
エメラダはお茶を出しながらソファーへ座った、ロキを話に誘う為に
「あ、気付いた?みーんな食べちゃった♡」
ロキもソファーに座り疑う事もなく出されたお茶を飲む
「多くの神がお主よりも格上だった筈じゃが、興味深いのう、特にオーディン等は簡単に行かない筈じゃが?」
「なぁに、みんな戦争好きだからねー、バカみたいに消耗し切ったところを狙えばどうって事無かったよ、まぁオーディンは確かにしんどかったなー、だってアイツいつでも取り巻き居んじゃん?危なかったなー、もうちょっとで返り討ちに合うとこでさ、面白かったー」
「クトゥルフ界の神々に協力してもらったか?この戦争、ヤツ等を唆したのもお主じゃな?」
「ま、そだねー、新しいお友達、って言ってよ、なぁ二グラス?」
テーブルに置いた二グラスの頭へと声を掛けるロキ
「ええ、ロキちゃんはワタシ達のお友達よ、ふふふっ、ああロキちゃんのお陰で多くの神々を食べ放題出来て本当に最高だったわぁ」
「二グラス達は俺と違って神の力を奪うのに本当に喰って吸収するんだもんなー、あれは無ぇわーははっ」
「気持ち良いんだもの、ワタシの魔石がそうしろってずっと言い続けているのよ、特にあのフレイって男は最高に良かったわぁ、他の誰にも譲らないで正解だったわ」
「あ、気になる?ほら観なよ、いやー楽しかったなー」
ロキは透明なオーブを出現させテーブルの上に転がす、ロキの中ではエメラダを前にしても既に終わった事として認識しているのだ、エメラダもそれを理解している、己の絶対の死を、ロキは全ての謀が上手くいき誰かに自慢したいだけなのだ、その為だけ、その間だけ、エメラダは生かされている
オーブに映像が浮かぶ、それはユグドラシルの神々が、人々がどう殺されたかを記録したもので、軍師としての役割を担っていたエメラダにとって最大の屈辱であった
ロキは先ず魔神二グラスを始めとしたクトゥルフ界の魔神達、更にはその眷属である魔人達を戦場である宙域に引き入れ叛旗を翻した、そして軍勢はそれだけでは無かった、ミドガルズオルムの蛇共までその軍勢に加わっていたのだ、クトゥルフ界の神々も全員が情報を共有しているわけではない、両陣営が激しく戦い消耗しているところにある筈のない第三の勢力が現れたのだ、最初に狙われたのはフレイ達と同程度の力量の者達だった、健全な状態であればロキには勝ち目は無かっただろう、しかし消耗している時を狙われ、不意を突かれれば格上の神とはいえ敗北は必至である。だがロキはそれでも自らは手を下さない、周りの自分と同程度の神々を弱っている順に殺してその力を奪った、格上のフレイ等には二グラスを当てたのだ、慎重に慎重を期し、その時が来ても保険をかける、その戦いで奪った神性力を蓄えた事でロキはフレイを超えた、それでもリスクを避ける
フレイは味方の援護あってのものであったが同格の相手二グラスに対し消耗しながらもよく耐えた、フレイ側の主だった神は12人、その中で上位の神はロキを入れて4人だった、フレイとフレイヤそしてローゼルという結界術に長けた男神だ、その内の1人が初めから裏切っており、フレイ達を孤軍にしていたのだから状況は絶望的に思える、しかし実はこの中でフレイヤだけは他の神とも一線を画す程に格の違いがあった
フレイヤがもし己の権能を最大に発揮しこの場から逃げて援軍を求めたならばロキは初めから策略を潰されていただろう、しかしフレイヤがそうしない事をロキは知っている、誰よりもプライドの高い美神が、自分で決めた戦略を絶対に曲げない事を
フレイヤの権能で戦に使える能力は大きく2つ、1つ、それはただ魅了するだけではなく強制的に相手を心酔させ崇拝させるデバフを掛ける事が出来る、2つ、それは対象の超絶強化、味方にバフを掛け限界以上に能力を向上させ戦術を有利に進める事が出来る、そしてフレイヤ自身は戦闘能力という点に置いては生身の人間と変わらない、今の戦闘では味方の強化を行っている、それ故に現在もローゼルの張った強力な結界内に在り後方支援で味方の強化を行っているわけだ
フレイヤは行動を起こす時自分の望む結果のみを考えて動き始める、どうやって?や失敗したら?とは考えない、欲しい者が現れればその能力で魅了し平伏させ自身の興味を引いた罪を贖わさせ、邪魔する者が現れれば味方という名の奴隷を使い罰を与える
これまでどうあっても己の望んだ結果のみを叶え続けて生きてきた
そのためフレイヤは己の権能が劣るという事を絶対に受け容れない、何が何でも自分の思い通りにする事で自らを肯定し続けてきた、なので戦略を曲げる事を絶対にしないのである
その性質を知っているロキは手始めにフレイヤを結界で守るローゼルを不意を突いて一撃で殺した、ローゼルの傍らに立ち、限界まで凝縮したエーテル波を敵に撃つ振りをして溜めて至近距離からローゼルの神核に向け撃ち放ったのだ、ロキの攻撃に意識を向けていなかったローゼルは驚く間すらなくその存在を砕かれた
その結界に守られていたフレイヤは驚愕した、この時フレイヤが少しでも己を曲げ味方への強化を解きロキへ向け強制魅了を掛けていればフレイヤだけは生き残り未来を繋ぐ事が出来ただろう、しかしフレイヤは味方の生死からではなく、己のプライドから戦略を変えなかった、そして結果全滅する事になったのだ
ローゼルの施した結界がその術者の死によって解け、フレイヤは無防備になる、護衛の眷属達すらロキの外側に位置していた
ロキはフレイヤが手を考える間を与えぬ即撃によってその神核を貫く!フレイヤの胸を貫き神核のある心臓を引き千切った、フレイヤの胴体から離れロキの腕を通しその背の向こうで未だ鼓動を続ける己の心核を感じるフレイヤ
「ゴフッ…己…ロキ…許さ…ない…」
「ははっ勇ましいね、お前の力、俺が貰うぜ、もう死んじゃって良いよ、バイバイ♡」
フレイヤの神核を握り潰しその力を吸収するロキ、神体が急成長し体付きが逞しくなる、ロキの腕を通しエーテルが抜けていく
「…お前…だけ…は…」
ロキの頰に手を添えフレイヤは光の粒となって消えていった
「あははは!凄い!力が溢れる!最高だよフレイヤ!ははははははははははははっ!」
フレイヤの護衛として近くにいた眷属であるエルフ達がロキに襲い掛かる、勝てる見込みは皆無だが主人の仇だ10人以上の覚醒戦士だ、皆言葉は交わさずとも『一矢報いる』それだけを目的として行動がシンクロした
ロキが心地良さそうに目を閉じて顔を上に向ける、緩やかに見える動きで両腕を広げた、10人以上の戦士がシンクロしまるで1人の個であるかのような完璧な攻撃がロキを捉えた、しかしロキへと触れる直前、全員が一瞬にして光の粒子となり霧散した
ロキはゆっくりと目を開き意識を戦闘に向ける
フレイヤのバフ効果を失ったフレイ達は急速に押されていく、フレイヤが殺られた事を確信するが気を向ける余裕すら無い、激流に耐えていた川の堤防が崩壊する様に仲間が喰われ殺されていく、そしてフレイの前に立ちはだかったのは不死族のティフォンだ
「シャハハハハハッ待ったぜ、この時をよ!」
蛇が威嚇音を発する様な笑い声を鳴らしティフォンが己の持てる全ての魔力を籠めた最大の攻撃をフレイに行使する、一点集中魔眼の超高密度光波だ
フレイは指先より発した更に高密度のエーテル波でもってティフォンを蒸発させた、一瞬の事で周りの敵も思わず固まる
「馬鹿が、糞蛇なんぞに俺が殺られるわきゃねーだろ!」
「あははは堪らないねぇ、なんて好い男だ、誰も手を出すな、コレはワタシがいただくからぁ」
そこに淫靡な笑みを浮かべて二グラスが割り込んできた
「…痴女が、…貴様等、皆殺しにしてやる!」
フレイは己の逸物を把みズルりと引き抜いた、肉棒を引き千切ったかと思われたが、珍妙にも其れを掲げると宝石を散りばめた豪華な宝剣へと姿を変えたのである
オーラを集束した宝剣がキィイイイィィィィーーーッと硬質な音を発して振われる、その余波の光刃により取り囲んでいた数人の魔神や魔人達が巻き添えで斬り殺されていく、フレイの宝剣が狙うは二グラスの神核である魔石である、当たれば確実に一撃で勝負を決める事が出来る絶対の威力を持つ
二グラスは近接戦闘を得意とする、フレイの一撃必死の斬撃を妖艶に舞う様に躱し、繰り返す刹那の危機に快楽を感じ続けていた
「ああ、良い、良いわぁ、最高よ、ゾクゾクする、もっと、もっと頂戴っ!」
「望みどおりにしてやる!喰らえっ!」
フレイは剣のオーラを爆発的に増幅させ斬撃の壁を二グラスへと振るった、神速の斬撃をそれ以上の速度で躱しフレイの背後を取ると二グラスは背後からフレイの頰に手を添えソッと優しく抱きしめ、そして耳に吐息を吹き掛け問いかける
「コレで終わりなの?もう死ぬ?」
「うおおおおおおぉぉぉっ!」
一気に毛が逆立つ、恐怖を振り払うように我武者羅に剣を振り回し二グラスを振り切ろうとするが触れてもいないのにピッタリとフレイの背後に付いて離れない
「だあっ!!!!」
何も無い宇宙空間に突如として浄化の焔を燃やす半径数十km程の翠色の恒星が現れた、エーテルフルバーストというフレイの決死の最終秘技である
堪らずフレイは残存エーテルを爆発させそのオーラの内側にいる者を全て浄化させたのだ
ロキは離れて観察していたがその効果範囲内に捕まる距離迄フレイの焔が迫る!
「危ねえ!やはり我慢出来ずに使いやがったな、もうフレイヤも居ないのに、馬鹿な兄妹だ、ふははって!?うをおおぉ!!」
危うくその焔に焼かれるところであったロキは全速で離脱したが、安心したところに最期の爆発に呑まれしまったのであった
フレイとフレイヤの能力は2人が揃った時最大の効果を発揮する、フレイヤの強力なバフはフレイ限定で小型の無限エーテルバーストを発生させる事が出来た、小型といっても半径5kmの球体で火力はフル出力と変わらない、そんな浄化の太陽が彗星の如く宙を何処までも翔び回り対象を消し去るのである
しかし既にフレイヤの居ない状態だ、合わせ技は使えない、やれても1発、後は無い、それでもフレイは最後の大技を繰り出した、背後に纏わりつく死と恐怖がフレイを追い詰めた、そして既に周りの味方は全滅していた事も最後の手段を取らせる一押しとなった、不死族や魔神等の攻撃に押されながらもギリギリ耐えていた神々も二グラスの産んだ分体共にとうとう喰われ殺されたのだった、だがそれも浄化の焔により全ての者が焼き殺された
全ての死力を尽くしたフレイはエーテルが枯渇し強制スリープする様に封眠状態に陥ってしまう、そこへ焼け焦げたロキが現れる
「危なかったぜぇ、やっぱ流石はフレイ、みんな消去されちまったな、なあ二グラス、聴こえてるだろ?出て来いよ」
ロキとフレイ以外の者が居ない筈の空間で二グラスを呼ぶ、最も至近距離にいた二グラスは一瞬で蒸発した筈だ
「ふふっ待ちなさいよ、今たっぷりとこの男くぉ味わってる処なんだもの」
するとフレイの体内から声がした、次にフレイの穴という穴より二グラスの触手がズルリと這い出る、フレイは急速に木乃伊化しボロボロに枯れきった状態になり、蠢く触手に内より砕かれた。フレイはサラサラと光粒となり中から二グラスが現れる
「ああぁ、こんなに気持ち良かったのは初めてよ、感謝するわ、ロキ」
「ふっ次は更に良い男を紹介してやるよ、寧ろ俺にとっちゃ次が本命だからよ」
「期待するわ、ワタシとしてはアンタともヤリたくなっちゃうけど我慢我慢♡」
「ははっ俺よりもっと良い相手だから楽しみにな、さあ、直ぐに勘付かれちまう、急ぐぜ、近くの手駒を使い切っちまったがまあ良い、次の戦いには全駒投入だ」
全駒投入、その言葉に決戦を期待し二グラスが悶える
「ううん、ああぁ疼く、ワタシの中が熱くジンジンしてるわぁ、早く行きましょう」
これ以上は我慢出来ずにロキに手を出してしまいそうになる二グラスがロキを急かす
「ああ行くぜ!待ってろオーディン、くはははははははっ!」
高笑いを響かせ2人の神は別の宙域へと転移していった
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