神々之黄昏

R指定のラグナロク
やほ
やほ

第43話 名刀

公開日時: 2020年9月12日(土) 16:00
文字数:6,521

此処は神造迷宮アースの第2層、僕は1人で森に囲まれた道を進んでいる


昨日エメラダにみんなの戦闘を観せてもらいヤル気に燃えた僕は興奮冷めやらぬ中ダンジョンへと入ったのだ


因みに昨日迄の煩わしい設定は一切排除してログアウトもタッチパネルを開いてワンクリックだ、これで快適にレベル上げを出来るぞ


昨日は一ノ瀬さんに刀の持ち方と振り方も習ったのでしっかり敵を倒せる筈だ…と後になって思う、僕はこの時気が大きくなり自分の身の程ってものを忘れてたんだと




早速スライムを発見!僕は刀を抜いて駆け寄りスライムを斬り捨てる


なんの抵抗もなくスンと刃を通し煙となって消えたスライム


「おお!今のはちゃんと斬るって事が出来たんじゃないか?」


昨日までは刀の性能に頼った突き刺しで敵を倒していたのだが、今のは斬撃と呼べるのではないかと思う


少し自信の付いた僕は大股でズンズンと先へ進んで行った

、気が大きくなり何となく近くの木を横薙ぎに斬ってみた、またもやスカっと切断出来、木がザザッと枝を揺らし倒れる


「…たっ、楽しい〜」


夢中になりガンガン辺りの木を切り倒す、まるで魔王にでもなったかの様な気分だ


「はははははははは!あははははははははははっ!」


無双だ無双!俺TUEEEEEEEEE!ヒャッハー!


「お、出たなスライム!この魔王ルシエル様が成敗してくれる!えいっ!」


スライム何て一撃だぜぇ!


「お、出たなウサ公!この魔王ルシエル様が成敗してくれる!ごえぇっ⁉︎」


ドンッ!っと


アルミラージに斬りかかったら反撃の突撃を喰らってしまった

まるで100km以上で走る大型トラックに跳ねられたのかってくらい盛大に吹っ飛んだ

錐揉みして何十mも空中で舞い、木の枝に引っ掛かり地面に落下した


ドシャッ!

「ぐえっ」

潰された蛙みたいな声が自然と出た、目の前がグルグル回って記憶が飛び状況が把握出来ない、動こうとしても体の自由が利かない、全身の骨が折れまくってるのだ、痛みも感じない程に衝撃による麻痺で感覚がない


(あれ?僕は今何を?アリアと朝まで楽しんで…あれ?目の前がグルグルだあ〜)


徐々に痛覚が目覚めて来た


「…こほっ」


声が出せない


(痛だだだだだっ!え⁉︎あ、ダンジョン!そうだアルミラージと戦って……)

ここで漸く何をしていたか思い出した


(くっ、死んじゃう、丸薬を飲まなきゃ)


アイテムボックスから丸薬を出し激痛で震える腕を何とか動かして口に入れる、飲み込むのも一苦労だ。丸薬を飲み込んだ途端、体が修復され一瞬で全快した


「た助かった…」


(僕は何て愚かで間抜けなんだ、何一つ自分の力ではないのに調子に乗って気を大きくしもう少しで死ぬところだった、いやいっそいっぺん死んだ方が良い、何が神だバカだ、アホだ、早漏だ、全く反省がないじゃないか、以前にも慎重に行くべきだと痛感したにもかかわらずこれだ。攻撃力は刀のお陰、その刀を振るうステータスは装備品のお陰、防御力もそう、もし素ッ裸になれば階段を上がる事すら困難な虚弱野郎だ、それにたった1時間程度素振りをしただけで気分は魔王?はっ呆れて笑っちゃうぜ、勘違いするな、お前は唯の早漏虚弱野郎だ!……一旦落ち着こう)


「ふぅ、もう二度と勘違いしないぞ…僕は弱い、慎重に強くなるんだ」



僕を跳ね飛ばしたアルミラージの所まで戻るとやはりと言うべきか深々と木に刺さり脚をバタバタさせていた、僕はアッサリと斬り捨てる


コイツらは何でこんな木の密集した森で隙のデカ過ぎる突撃をするんだ?と疑問に思ったところで気が付いた


地形もモンスターの配置も全てエメラダ設計だ、難易度を徐々に上げていく仕様と言っていたのでもしかするとワザと地形環境に合わないモンスターを配置しているのかもしれない、アルミラージは特技から考えても障害物の無い草原なんかで草間から突如突撃を喰らわして来たら今より何倍も難易度が高くなる筈だ、そんな気がしてきたぞ


なら今は対策が取れる内に戦い方を工夫すべきかな?


僕は先へ進みながらアルミラージが出たら鉄球を投げて牽制した、マーガレットのお陰で投擲だけは得意になったから相手が動かなければ30m程度の距離なら余程外さない。よく見てると奴等は突撃前に深く溜めを作って一気に跳躍するのだ、突撃を見てから回避は無理なので溜めの間に伏せたり、木を盾にし、溜めに入ったら別の木の陰に隠れたりして回避する、割と狙いが粗いので逆にそこが怖い、避けた筈の木に向かって突撃が来て死ぬかと思った



そんなこんなで暫く討伐を続け、単体なら落ち着いて対処すれば何とか倒せる様になった



そして慣れて来た頃を狙ったかのように第三層へと降りる階段が見えてきた





今回も地獄の呻き声ですか?って音が聞こえる階段を降りて第三層へと到達した


そこは見渡す限りの草原だ、膝下くらいの高さの草がずっと向こうまで続いている


「…ここでアルミラージに襲われたら終わりじゃね?」


おもわず上に戻ろうかなと思ってしまう、きっとアルミラージが出ると思うんだよねー

隠れる場所が無い所でもし四方を囲まれでもしたらホント詰みだもの


(…結構探索したし、今日は帰ろうかな…)


かれこれ8時間は探索をしている、剣術修行もあるし今日は切り上げてミッドガルドへ向かおうかと思う、決して怖気付いたからではない!


自分を肯定し僕はその場からログアウトした






ログイン部屋こと転移魔法陣のある部屋へと戻り其処から更に別の魔法陣に乗りミッドガルドへと飛んだ

因みに昨日エメラダに頼み、ログイン部屋にミッドガルドとヴァニラの家に直接転移出来る魔法陣型ゲートを創ってもらったのだ


ミッドガルドへ転移すると木造の小屋の中だった、外に出ると僕に気付いた人間が大慌てで責任者を呼びに行く。なんだか悪い気がしちゃうんだよね。

走って来たオジさんが息を切らして僕の対応をした


「ぜぇ、ぜぇ、ようこそいらっしゃいましたルシエル様、エメラダ様はお先にお見えになり奥の部屋でお寛ぎになられております」


「え?エメラダ来てるの?」


そういやちょくちょく地球人に用があるとか言ってたっけ?僕はエメラダの居る部屋まで案内してもらい中に入った、そこでは地球人達に脚や肩をマッサージされ優雅にお茶を啜るエメラダがソファーで寛いでいた


「何をやってるんだエメラダ…」


「おおルシエル、お主も来たか、いやー地球人の持て成しとはかくも素晴らしいものじゃのう、それに働いた後の一杯は格別じゃわぃ」


「ん?何かしてたの?」


「交流じゃよ、ユグドラシル界と御主等デウス界の住人のな」


エメラダが言いながら窓の外を指差す、僕は窓から外を見てみた。そこには街を開拓する人々が忙しなく何かを作ったり運んだりしている姿が目に入る、昨日迄と違うのはそこに獣人や巨人等のユグドラシル界の住人達が多く居るって事だ


「主に技術交流じゃな、地球人はゲーム等の虚構を想像する事が上手いと思うが此方の世界に技術的に遅れておる、それは1つに原料の乏しさがあったのでな、此方の世界の技術者にミスリルやオリハルコンといった地球には無かった素材の使い方を示教しておるのじゃ」


「ふーん、あれ?見た事ある人達が居る気が…」


アリア達まで居るじゃないか、何か炊き出しの場所で真剣な顔をしているぞ


「うむ、今回の戦争に参戦出来ず暇しておった者共じゃ、フェンリスの使用人達も居るのじゃ、地球人から料理を学ばそうと思ってのぅ」


「あぁ…成る程、みんな頑張ってステーキしか作れないからね…あれ?ハティ?ハティじゃないか」


地球人の子供達に混じって遊んでいるハティが居る


「ヴォルフィ坊に頼まれてのぅ、ワシが面倒を見る事になったのでな、ついでに他にも預かった子供達もおるので一緒に連れて来たのじゃ」


そうだったのか、というか子供達の面倒を見るのが面倒臭くて地球人に押し付けたんじゃなかろうか、まあ楽しそうだし良いんだろうけどね





「ボクは今日も剣術を習いに来たからさ、一ノ瀬さんに会いたいんだけどどうしてるかな?」


元婦警の一ノ瀬千冬さん、今日は素振りの他に立ち回りなんかも習いたいと思う


「はい!直ぐに連れて来ます!」


「あいやいや、ボクが行くよ、何処かな?」


畏まられ過ぎて面倒臭いな、愛夜実くらい軽いやりとりが楽なんだけどな


「はっ、此方で御座います」


外に出て案内された先は大きな蒲鉾型の建物だった、体育館かな?


入り口は大きく開かれ掛け声や呼び掛けがよく聞こえる、中に入ると多くの人が運動をして汗をかいていた


(バスケットボールか、一ノ瀬さんは…居た)


一ノ瀬さんが丁度ダンクを決めた所を発見した


ピピーーーィ!


審判が笛を鳴らす


「丁度終わったところだったようですな」


「あ、ルシエルちゃん」

「こんにちは一ノ瀬さん」


僕に気付き声を掛けて来た一ノ瀬さんに挨拶を返す


「今日も、やる?」


そう言って棒を握る仕草でウインクしてくれたのだが、勿論剣術の事だとは分かっている、しかしスポーティな爽やか美人がバスケットボールの格好で汗を流しながら棒をニギニギする仕草で「やる?」と誘ってくると、別の想像をしてしまうじゃないか、是非ヤリたい


「はい、お願いします」

「じゃあ道場の方に行こっか」


残念ながら真面目に剣術修行だ、というか道場?そんなのあったの?たった1日で色々変わり過ぎじゃない?


一ノ瀬さんに着いて行き道場へ来た、外観からしてバカでかい、武道館じゃん


「デカぁ…1日でこんなの作れるの?」

「いえ、これもさっきの体育館も、朝エメラダちゃんが来て数秒で建てちゃったのよ」

「ああ、成る程」


そりゃそうか、設備も揃ってないのに普通人間にここまでの事が出来るわけない、てかエメラダよ、ちゃん付けで呼ばせてるのか…


道場に入ると中では多種多様な設備があり多くの人が体を鍛えたりしている


「あ!ルゥーーーーーーーーッ!ヤッホーーーーー!」


愛夜実だ、なんだアイツボクサーみたいな格好してサンドバッグを滅多打ちにしていたぞ


「やほ♡アタシさぁキックボクシングの才能あるみたいよ!昨日剣道より良いの無いかなぁ?って思ってー、色々やってみたのー!そしたらキックボクシングの先生にチョー褒められたのー!しかもチョー楽しいのー♡」


「アヤミ、コレはムエタイよ」


愛夜実の背後の壁が喋ったと思ったら人だった、デカいな、無差別級ムエタイチャンピオンだろうか、ゴブリンなんかよりもよっぽど強そうだ


「ホラアヤミ!ワンツー!ワンツー!ローね!ローね!」

「は!や!やっ!」


シュシュッと風を切る音を立てて愛夜実がムエタイの先生にスパーリングしてもらう、鞭の様なローキックだ、確かに才能を感じる動きだ、ただそれをマトモにくらい気持ち良さそうにしている先生がかなり気持ち悪い


「アヤミ!ロー!ロー!ロー!ロー!」


しつこくローキックを要求する先生、いやちょっと待て愛夜実、気付け!そいつお前に蹴られて勃起してんぞ!


「やっ!やっ!やっ!やっ!やっ!やっ!」

「イイよ!最高ヨ!アヤミ天才ネ!」

「えへへ〜、えいっ!」

パァン!

「おっふ♡」


(…楽しそうだし良いかな)




僕は僕でするべき事もあるしな


「一ノ瀬さん、ボクは今モンスターと戦う為に立ち回りも習いたいのですが教えてもらえませんか?」


「え?立ち回り?ルシエルちゃん達神様なら魔法でポンッとやつけれるんじゃないの?」


エメラダよ、神である事も言ってるのか、まあこの星に来てからの行動を見れば誰だって僕等が普通じゃないって分かるもんな


「…ボクは、まだまだ弱いので、その、魔法も全力でこのくらいなんです、はあああああぁぁ!」


僕は全力で魔力を集中し炎を出す、すると人差し指の先にマッチ一本分くらいの火が灯った


「…え?」


ふざけてるのかと思われてる気がする、しかしコレが今の僕の全力なのだ。射精の時にはもっと魔力が溢れて来るんだけどな…


「エメラダとは力の差があるのでボクとは比較にならないんです」


「そ、そうなの、ごめんなさい!立ち回りね!分かったわお姉さんに任せなさい!」


なんだか気不味くさせちゃった


「宜しくお願いします」


「じゃあぁ〜、ちょっと刀を貸してみて、私が複数の敵に囲まれた時の立ち回りを想定して動いてみるから」


「はい、どうぞ」

僕の刀を一ノ瀬さんに渡す


「え?何これ?え?え?」


「どうしましたか?」


刀を持った途端、一ノ瀬さんの様子がおかしくなった


「…何も持ってないみたいに、軽い…え?本物?」


「あ、そっか地球にはミスリルが無いもんね、その刀はミスリル製なんですよ」


「ゴクリッ…ちょっとだけ試し斬りしても良いかなぁ?」


一ノ瀬さん、目が怖いです


「よく斬れるので気を付けて下さいね…」


僕等は建物を出て近くの森までやってきた






「行くわよ」


刀を構えて一ノ瀬さんが木の枝に刀を振り下ろす


音もなく枝が木から離れ、地面に落ちる


「…………」


「一ノ瀬さん?」


「はっ、え?今の、え?嘘でしょっ⁉︎なんの抵抗も無かったわよっ⁉︎」


「そうですね」


「ちょ、もう一度…」


今度は枝じゃなく木の幹に連続して刀を振るう、木は乱切りにされバラバラに崩れ落ちた


「す…ごおぉい!何この刀ー有り得ないんですけどー!何斬っても抵抗を感じないわ、ルシエルちゃん…」


「何でしょう?」

目が爛々と輝き血走ってる、一ノ瀬さん、その刀は妖刀ではありませんよ


「この刀、名前は?これだけの刀だもの、聞いておきたいわ」


名前なんか考えても無かったな、でもそうだな、この刀はマーガレットに貰った物で今となっては言わば形見でもある、名前があっても良いかもね


(マーガレット・ロックベアーに因んで〜…)


「岩熊菊って言います」

「…いわくまきく…名刀岩熊菊…岩の様に大きな熊すら美しい菊の華を思わせる斬撃で斬って落とす…納得です」


何か全く考えてなかった事まで色々と想像されてしまったがまあ構わないだろう



こうしてマーガレットより貰い受けたミスリル刀に名称が付いた


それから一ノ瀬さんが岩熊菊の斬れ味を存分に体感し落ち着くまでに随分と森の木がバラバラにされてしまった、最初は恐々と一ノ瀬さんを見ていたのだが、その太刀筋などを観察しているとそれだけでも勉強になった、僕とはまるで足の運びが違い、次の動作へと移る立ち回りがスムーズなのだ


その後僕も敵に囲まれた事を想定して立ち回りの練習をしたら一ノ瀬さんに褒められた、良いお手本を見る事で自分で考える事もスムーズになり成長が早くなるのを感じた出来事であった





「わぁルゥめちゃくちゃ綺麗〜」


愛夜実の声に気付き周りを見ると、いつの間にか人の輪が出来ていた、立ち回りの練習に夢中になって刀を振るっていて気が付かなかった


「いやはや見事な剣舞ですなぁ」


知らないお爺さんに褒められたぞ、剣舞と言われたがそうか、意識して無かったけど剣舞や空手の型なんてモノはそもそもが敵を想定しての演舞だし、武と舞は共通するものだ、踊っていたと思われても不思議はない


と言うか多くの知らない人に見られているって事に気付いた途端緊張でギクシャクする


「あ」


とさっ


「ルゥ⁉︎」

「ひっ!」

「げぇっ!」

「きゃあーーっ!」


やってしまった、自分で自分の腕を斬り落としちゃったぞ、ギャラリーから悲鳴が上がる、みんなが慌てて心配してる、フォローしなきゃ!僕は落ちた腕を取ってグリグリと傷口に押し付けた


(よし、くっ付いたな)

「な、なんちゃってー、斬れてなーい」


安心させようと腕をバッと上げ動かして見せる、だが全員が静まり返り引いている、どうやら僕はやらかしたようだ


「さ、流石神様じゃ、体を張って笑いを取ってくれたぞ」

「そういう事か!ビックリしたー」

「いやーはははっ傑作だなぁ」


誰1人として目が笑ってなく乾いた笑いを頂戴してしまった


(くぅ、恥ずかしい!めちゃくちゃ気を使われちゃった!フォローしたつもりが逆にフォローされちゃったよ!)


「ルシエルちゃんの体凄いわね、粘土で出来てるの?」


「あぅ…、そんな感じですぅ」


一ノ瀬さんに言われてしまった、全く違うがもう何でも良いから消えたかった、今なら転移も上手く出来そうだ


「今日はこの辺で終わろうと思います、一ノ瀬さん、皆さん、ありがとう御座いました」

ペコリとお辞儀をして急いで解散した





ボケてスベるのって凄く恥ずかしいな!

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