神々之黄昏

R指定のラグナロク
やほ
やほ

第32話 迷宮

公開日時: 2020年9月2日(水) 23:11
文字数:5,192

エメラダの創り上げたダンジョン入口がある上部広場に降り立ち辺りの形状を見まわす、遠距離から見ると三角錐だったがその巨大さから天辺の鋭角部分も近くで見ると半径500mはありそうなくらい広い舞台になっていた、その中心部分に30m弱の間を空けて二本の重厚な四角柱が立っている、二本の柱は上部が鎖で繋がっており高さは50m程でその間の床には両開きの扉が水平に設置されている、光を反射しない薄く白い灰を吹いた様な煤色の扉はその表面でタール様な黒い塗料を流動させていた。


「いやデザインセンス」


煤色の門は大きさ一辺10m程度の正方形だがその形状は立体的に盛り上がり…目を閉じた人の顔をしている、黒い塗料がその顔の両眼部分から流れて循環しているので見た目は黒い血の涙を流す人だ。


「うむ、素晴らしい仕上がりじゃろう、これから戦いに挑もうと奮い立つデザイン性じゃろう」


(いや逆だよ、こんな血涙流すバカでかい顔面近付きたくねえわ)

「地獄の門って感じだな…めちゃくちゃ重そうだけどどうやって開けるのさ?」


「なんでも良い、呼びかけてみぃ、尋ねよさらば道は開かれん」


「…御免ください、開けて貰えますか?」


「…なんとも締まらん呼びかけじゃの」


「………。」

だってどうして良いか分からないし…


すると門は両眼部分をカッ!と見開き、扉がパカッと開くかと思ったら口部分がゆっくり広がり、大口を開けた処で今度は門の中心からゆっくり裂けて扉は開かないが扉の開くような音が鳴り響き、扉の縁からズオオッと真っ黒なオーラを放出したのでそれがまるで黒い髪の毛の様に見える


あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛


(なんかヤダなぁ…入ったら絶対に死んじゃう呪いの家みたいだ)


両開きの扉は結局開くのでは無く中心に赤い裂け目を走らせ入口部分は口だった、この奈落の様な真っ黒な口腔へ入って行かねばならないのか


「どうした、早う入らぬか」


「…先行ってくんない?」


「なんじゃ情けないのう、これからワクワクする様な冒険を用意してあるというに入る前から怖気付いておるのか、共にダンジョン攻略を楽しみながらレベルUPしようぞ!」


(そう思うならもっと真面な入口にして欲しいもんだ)


仕方なく僕は大きな口の中へ入って行った、一歩目を踏み入れると舌の様な赤い階段が蠢き僕の脚を絡めとった


「うえええええっ⁉︎⁉︎」


そのままズルリと引き込まれる


「ぎゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー』


そうして第一階層へと強制的に送り込まれたのだった





第一階層へ引き摺り込まれた僕はベッドの上に落とされた


ボスンッ

「う゛ぅ⁉︎」


見渡すと薄暗い小さな部屋で何処かの小屋なのか木造りの家の様だ


暫く待ってもエメラダが続いて来ないので、取り敢えず外に出ようとその部屋の片開きの質素な扉を慎重に開く、いきなりゴブリンとかに襲われたらイヤだからな、僕は少しの音にも敏感に反応しようと緊張して扉を開いた、しかし扉の先は古い生活感のある居間でテーブルには木の皿やコップ、木のスプーン等が転がっていた


(古い家だなー、何か中世のヨーロッパって感じだ)


外に出れそうな玄関の扉をこれまた慎重に開ける、すると家の外はダンジョン内だというのに柔らかい太陽の光に照らされ眩いばかりに明るかった、如何やらここは小さな集落だったようだ


「遅いぞ、早うこんか」


なんとエメラダは自分で創った入口を使わず短距離転移で僕の前に現れやがったぞ




「さあ、ここから冒険が始まるのじゃ」

「何でスタート地点が古民家のベッドなのさ」


「それはお主、RPGでは主人公の少年が自室で目覚め、冒険の旅に出るのが定番じゃろう」


「…その為にこの演出を選んだのか」


なおさら入口のデザインセンスが理解出来ん




「それにしても凄いなー、これ全部エメラダの魔法で創ったのかー」


歩きながら集落や先の道を囲む森を見渡し感心して言うと


「いや、全部地球の地形をそのまま使っておるぞ、例えばこのスタート地点は、小さな集落・木造の家・森の中、と言った様にカテゴライズした項目をキーワード検索してパズルの様に組み合わせてあるのじゃ」


「おお、マジか、じゃあその内見た事ある地形なんかも出てきそうだな、ちょっと面白いぞ」


「うむ、野生動物や資源等も割とそのまま残っておったから自給自足も出来るのじゃ、ワクワクするじゃろ、あ、ルシエルよ、早速モンスターじゃ!」


「え⁉︎どこどこどこ⁉︎あわわわわわわわわ!」


「ほれ、スライムじゃ」


「…え?スライム?これモンスターなの?」


草むらの中に手の平サイズのプルプルの水色ゼリーがフルフルと移動しているのを発見した


「そうじゃ、初エンカウントじゃの、行け行け、倒すのじゃっ!」


楽しそうだなー、僕はマーガレットに貰ったミスリル製の打刀を抜きそれをプスリとスライムに刺してみた


ポンッと煙を出して消えるスライム、その後には米粒よりも小さな魔石が残った


「おおー初討伐なのじゃぁー」パチパチ

「おおっ?煙になって消えた!スライムってそうなの?」


「いや、これもゲームっぽいかなと思ってワシが設定したのじゃ、モンスターを倒すと煙になって消えてアイテムをドロップする、RPGみたいで楽しいじゃろ?因みにワシは一切手を貸さぬから攻略を自力で頑張るのじゃぞ。うふふっ」


何でもありだな…僕はスライムの魔石もしっかり回収して先を進む、それからも続々と出てくるスライムを倒しながら歩いていると最初の集落よりも、少ーし大きい村が見えて来た


「ジャジャーン!最初の隣村に到着なのじゃー」パチパチ


もう既にエメラダに突っ込む事は考えていない、兎に角楽しそうだ


「これまでスライムしか出て来なかったな」


「当たり前じゃ、冒険の始まりは1番弱いモンスターを倒して進むのじゃ、それに意思を持って動くモンスターに出会したら今のお主等ひとたまりもないぞ」


「確かに、至れり尽せりだね」


「そんな事よりほれ!最初の村を探索じゃ、何か使えるアイテムが見つかるかも知れんぞ!」ニコニコ


「…わかった」

コイツ、絶対この村に何かアイテムを置いたな、スルーして行ったら拗ねそうだ

僕は家を順に探索していった、家の中は未だ生活感が残っており食べ掛けの食事や、脱ぎ散らかされた洋服等がそのままになっている


(モンスターにいきなり襲われ混乱のまま逃げたんだろうな)


全部の家を探索したが結局大した物が無かった、食品棚に未開封のペットボトルの水とナッツの詰め合わせ袋があったのでそれだけ有り難く回収した、ちょっと騙された気分だがエメラダもそんなに凝ってはいないか、と考え村を出ようとした


「ちょっと待てぇい、どうしてアイテムを回収しないのじゃ?」


「は?特に何も無かったじゃないか」


「な⁉︎何じゃと⁉︎最後に入った家にお鍋の蓋とヒノキの棒があったではないか⁉︎初期装備を次々アップグレードして整えんでどうするのじゃ!愚か者め!」


「愚か者はオマエだよ!何で初期装備より弱いガラクタを拾わなきゃなんないんだよ!」


「はっ⁉︎……チートじゃ…チートなのじゃー!渡せ…今すぐその刀を渡すのじゃ、反則じゃぞ!」


「ええい落ち着けー!これは現実だ!ゲームとは違うんだぞ、しっかりしろ!」


「折角頑張って創ったのに…ぶつぶつ…」


「もしかして次々こんな装備が用意してあるのか?」


「うむ」


「なら僕のこの刀より強い武器はどのくらい進めば出て来る?」


「ふっ、その刀はミスリル製じゃぞ?地球にその刀より強力な武器は無い」


「なら探索は全部スルーだ」


「ちょちょちょっいやでも武器には用途があるではないか、遠距離武器等必要じゃぞ」


「それもそうだが…」

(アイテムボックスの銃火器類もエメラダがアイテムボックスを拡張したときにまっさらに消えちゃったんだよなー、この感じじゃ今直ぐ銃をくれと言ってもくれなそうだ)


「わかったよ、役に立ちそうな物は回収する」


「約束じゃぞ⁉︎探索するとワシに誓え」


「誓う誓う、探索するする」

取り敢えずテキトーにスルーしようと口約束をした、すると一瞬パァッと僕の体が発光し光が収まった


「え?今のなに?」


「お主の承諾の下ちゃんと探索しないと発動する呪いを掛けたのじゃ」


「は?」

(そこまでするか⁉︎くっ、アルとは違ってテキトーに言い包められんな)


「どんな呪いをかけたんだ⁉︎まさか死んだりしないよな⁉︎」


「そんな事はせん、ただどうしても自ら進んで探索をしたくなるという程度じゃよ」


「なんだそりゃ、そんな微妙な事してまでボクに探索させいのかよー」

(どうしてもボクを使ってRPG設定を楽しみたい様だな、その力がある事が厄介だ)


「折角楽しめる様に色々と用意したのじゃ、楽しくレベルUPしようぞ」


(楽しめるようにってのはお前だけじゃんか、まったくぅ)


「まあレベルは上げなきゃな」




また暫く道を進んで行くが出て来るのはスライムばかり、結構な数を倒しているが作業感が出て来る程弱い、プスっとさして煙になるスライム、最初のヤツより大きさもかなり大きくなっていて中型犬くらいのサイズになっている


「スライムもちょっとずつ強くなってるけど1発で倒せちゃうし魔石もめちゃくちゃ小さいからオイシクないなー」


「なら森の中に入ってみるかの?第一層はスライムだけじゃが、ルートを少し外れると敵がちょっと強くなる仕様も楽しめるのじゃ」


「凝ってるなー、スライムだけなら行ってみようかな」


そうして僕とエメラダは森へと入った





鳥の囀りや虫の声が多く聞こえる、いなくなったのは人間だけでまだまだ無事な自然は多くあったのかもしれない


気持ちの良い空気の中を進むとガサガサと草むらで音がした


「お、スライムか」


ぴょん


野兎だった


「おお、兎だー、野生動物も結構残ってるのかな?」


ダダッッと兎が駆けて行く、不思議と僕の来た方向へ走っていった、普通人間を見て反対方向へ逃げないか?と思ったら


ガサガサ


黒い巨体がのそりと現れた


「く、熊だーーーーー!!」

「熊じゃのう」


「ヴオオオオオオオオオオ」

熊が僕の大声に反応し直立になり両手を広げた


「でデカい!どどどどどうしようあわわわわヤババババババ」


再び四足歩行になりドドドドと突進してくる熊


思わずエメラダの後ろに回りエメラダを盾にした


「何をするか、全く、これくらい自力で切り抜けんか、よく見ておれ見本じゃ、ほれ」


エメラダが僕の刀を取り振る

刃も立てず横を向いた刀を姿勢も何もあったものではなく棒切れを降る様にゆっくりと


しかし刃から発せられた波動が縦に時空を裂いて熊ごと一帯を呑み込んだ


ズオオオオゥゥゥゥゥーーー………


時空の裂け目が閉じ地面にポッカリ穴が空く


「ムリ、元の道に戻ろう」

「何じゃつまらん、まだ敵にもあっておらぬのに」

「いやいやいや今スライムよりよっぽど危険な敵出てたじゃん⁉︎熊だよ熊⁉︎勝てるわけないじゃん!」

「むぅ、早よレベルを上げぃ」


メキメキメキメキ!


僕とエメラダが言い争ってると木が倒れる音がしたのでまた熊かと思い身構える

すると家よりもデカい赤色のスライムが現れた


「デカァ!でもこれだけ出掛けりゃ経験値もオイシイんじゃない?」


僕はラッキーと思いエメラダから刀を取りスライムに切り掛かった


「あ、ソイツは」


「熱っ⁉︎」

トサッ

なんの音かと思い足元を見ると刀を掴んだままの僕の両腕が落ちていた

「ぎゃあああああああああーーーーイダイイダイイダイあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ!」


「ソイツは殺気に反応して防衛のために強酸の体液を水圧カッターの様に高圧で飛ばしてくるタイプじゃ、今のお主では勝てぬぞ」


(はああぁっ⁉︎何言ってんの⁉︎レベルに合わせて余裕で倒せるスライムを配置したって言ってたじゃん⁉︎正規ルートを外れたらチョット敵が強くなるって、強くなり過ぎでしょ⁉︎てか痛過ぎて動けないいいいいい)


「仕方ないのう、さっきからワシの手を借りてばかりではないか」

パチン

エメラダが指を鳴らすとスライムが凍りついた


「どれ、貸してみよ」

エメラダは僕の片腕を拾いグリグリと断面を押し付けた

「イアダダダダダ⁉︎」

「くっ付いたぞ、もう片方は自分でやってみい」


「え?ええ⁉︎治ってる⁉︎治療魔法⁉︎」

「違うわい、神の体じゃ、そのくらい普通にくっつくのじゃ」


初知りなんですけどー、僕は残った方の腕を拾い断面を合わせてみた、するとスウゥゥと断面がくっつき傷跡もキレイさっぱり治ってしまった


「おお、神凄げぇな!」

「あまり調子に乗るでないぞ、今のでお主の残りHPは1に、MPは残り0になってしまったのじゃ」


「瀕死じゃんっ⁉︎」


「うむ、転んだだけでも死ぬやもしれぬでな、気をつけるのじゃ」

「ちょ…」


僕はダンジョンに挑んだ事を後悔しながら慎重に元の道へ戻った


それから僕は大人しく小型のスライムをコツコツと刺し殺して進んでいった





胸踊る冒険?安全第一ですよ

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