ゲートを抜けるとまた別の星だった、夜だし、月が3つも有る
「アルマティはこの先の突き当たりにあるんだ、美味いぞー!」
「そー凄いのよ、何て言っても肉以外の食材も出るのよ!」
「ええ、悔しいですが私共では真似出来ない技術ですわ」
(ん?何だと?肉以外が出る事が凄い?)
「そう言えばウチでは肉以外の食事って出ないけど、あれって肉以外が食べれないとかって理由があるわけではないの?」
「大変申し訳ございません、これまで調理をする、という事が我々獣人は無く、獲物が生きたまま生肉を食べるという事を至上としていた為他の食材の知識なども無いのでございます、それでも最近ではステーキという物を知りより美味しく食べる技術を勉強中ですのでご容赦くださいませ」
「ルーシー、マーガレットをいじめちゃダメだ、いつも私達の為に頑張ってくれてるんだ」
「そうよルシエルちゃん!最近はお肉を焼く事も出来る様になって凄いんだからねー」
「ごめんなさい…」
(あれ?何の話をしていたか忘れちゃったな、記憶力強化のスキルもあるのに、何で僕は謝ったんだろうか)
生きたままのボボを貪り食うヴァニラ達を思い浮かべて引いてしまった、肉を焼く事すら最近覚えたとな?今まで外食なんかしてて疑問は持たなかったのか、まあ常識が違ったんだろう
少し歩くとアルマティと書かれた看板が掛けられた店が見えて来た、幅広い木造の二階建てで緑の三角屋根の店だ、店内から暖かい黄色の光が外を照らしている、なんというか思ったより庶民的な店に見える、今日の買い物のスケールや豪快さから何処かの超高級店に行くものだとばかり思って構えていたが安心して気が抜けたな、寧ろ僕としても安心感のあるコッチの店が良いや、更に近づくといい香りが漂って来た
「うわっ⁉︎何て良い匂いなんだ!これって料理の匂いだよね⁉︎」
鼻が爆発したかと思った、僕が食べた事あるのってボボ肉のステーキだけだから比較対象が無かったが、この香りは凄い!香りに鼻を擽られ、胃がグルルと動きだし、自然と足が向いてしまう
(麻薬だ!コレはいけない香りだ!きっと口にすれば戻って来れなくなるぞ!絶対入っちゃだめだ!堕落してしまう!)
「いらっしゃいませー、四名様でいらっしゃいますかー?」
「は⁉︎」
「ふふっ、ああ、四人だ、席は何処でもいいぞ」
「ルシエルちゃんたら先陣を切ってお店に飛び込むなんて、よっぽどこの店が気に入ったのねー」
「もう直ぐ召し上がれますよルシエル御嬢様」
気付けば僕は真っ先に店へ入っていた、僕は欲望に抗う術を身に付けなければ危険だ、このままでは麻薬などを摂取する機会が来たらそのまま堕落してしまうだろう
店はかなり混み合っていて順番待ちも見られた為結構待つ事になるかと思ったが、運良く団体客が退店する処だった、全員幸せそうな表情をしているのは気のせいじゃないだろう、厨房から運ばれて行く皿の数々を目で追うとどれも暖かな湯気を上げキラキラと「ワタシヲタベテー」と訴えてくる、瞬きが出来ません
「おい、ルーシー、折角の美形が台無しになってるぞ…口を閉じて自分で涎を拭け」
言われて気付いた、ずっとマーガレットが僕の涎をハンカチで拭いてくれている
「じゅるる、ご、ごめんマーガレット!もう大丈夫だから」
「申し訳ございません、私がいつもこのレベルの食事を用意出来ていればルシエル御嬢様に料理への耐性を付けて恥をかかせる事もなかったのに!」
「そ、そんな事無いよマーガレット!いけないのは全部ボクなんだ!君は十分過ぎる程やってくれている!」
そう、それこそ下の世話から戦闘術まで幅広く僕の世話を焼いてくれている、これ以上他所の料理に涎を垂らしているのはマーガレットに失礼だ!
「とか言いながら涎がボタボタ落ちてるわよルシエルちゃん」
「あれぇ⁉︎変だなぁ!ボクの体おかしくなっちゃったあ?」
「もう、今日1日、すれ違う人全てがルシエルちゃの美貌に釘付けになっていたのに此処へ来て残念発揮しちゃったわねー」
「お次のお客様ー大変長らくお待たせしましたー、お席の準備が出来ましたので此方へどうぞー」
可愛いエプロン姿の店員さんが元気に案内してくれる、助かった
まだ細かい作業のできない僕の為にマーガレットが食事の補助をする為横に座ってくれる
(そろそろナイフとフォークくらい使えないとな…)
メニューを渡そうとした店員さんに対してヴァニラが
「メニューは要らない、店で作れる料理全種類大皿で頼む、こっちで取り分けるから早く出せるものからじゃんじゃん持ってきてくれ」
と此処でも豪快さを発揮していた、でも僕にとってはありがたい、もう我慢の限界だもの
先ず店員さん2人がかりでカートを押して料理と皿を運んで来た、其々大きなボウルに入ったサラダとパンとスープだった
僕の分はマーガレットが取り分けてくれた、僕が順番に直ぐ食べられるようにスープ、サラダパンを順に並べてくれる
スープは何かをトロトロになるまで煮込んだものが出てきた、ポタージュってやつかな?湯気の香りが食欲を誘う
「ズズッ」
僕は目を閉じて涙を流した
「…なんて優しさだ」
自然と言葉が出た、複雑な香りの種類と暖かで滑らかな舌触りのポタージュが口内に満ちて香りが鼻から抜ける時至福の優しさに包まれた
次にサラダ、ザクッとフォークで葉野菜を突き刺し口に入れて咀嚼した
「ザクッ、ザクッ、ザクッ」
歯応えが何とも気持ち良く楽しくなってくる、噛めば噛む程味が出て来て薄くかけられたドレッシングが更に野菜の味を引き出す、なんてワクワクする料理なんだろう
表面カリカリのパンを掴んで口にハムッと入れるとサクッと噛め、中はふわふわと柔らかく噛む程に唾液が溢れ穀物の香りを感じられる、なんとも素朴な味わいだ、そこでスープをまた口にすると相乗効果を発揮し僕の口内でスケールの広がりを爆発させた、パンは何か別の料理と合わせて食べるとシナジー効果を発揮するのか?
その間にも米料理や肉料理やらが数え切れない程テーブルに並べられ、みんなが高速で平らげて行く
米料理をスプーンで掬い口にする
(美味んまっ⁉︎)
もちもちっとして噛む程中に混ざった食材が咀嚼により味をプチプチと弾けさせ、その味が下に纏わり濃く深く浸透するが後味がサッパリとしていて次々食べられスプーンが止まらない、あっという間に一皿を綺麗に空にした
次にジュージューと煙を上げ油を飛び散らせるステーキをマーガレットが切り分けて
木の皿に取り分けてくれた
熱々のステーキ肉から香ばしい香りが立ち上る、表面は薄く焦げ目がついているが中はギリギリ火が通る程度に焼かれたのか赤い筋肉が見える、マーガレットに「あーん」してもらいステーキを食べるとジュワッと肉汁が溢れる、火加減の効果だろうか、いつも食べてるステーキとは肉の種類だけじゃ無く柔らかさが層によって変わり舌を楽しませてくれる、それに何種類もあるソースがまた違った味わいを引き出し、いくらでも食べられるのだ
ヴァニラなんか1人で店の食材全部食べ尽くすんじゃないかという程の勢いで料理をかきこんでいる
その後も、魚料理やキノコや最早なんなのか分からない食材料理を食べたがどれも泣く程美味しかった、もう食材が無いからと最後に出されたデザートも訳がわからん程美味かったよ、うん、味ってそれだけでも楽しめるが自分の中で比較対象や、他の知識を豊富に持っていると表現の幅が広がりより楽しむ事が出来そうだ
「こんな幸福な気持ちにさせてくれるなんて、食事って凄いね、最高の1日だったよ」
「ああっ⁉︎もう店を閉めるだぁ⁉︎こっちは腹空かして来てやったんだ、なんか出せ!」
入口の方から品の無い声で品の無い言葉が聞こえて来た
ガタッとヴァニラが立ち上がる
「…イオルム」
「隊長っ!」
「御主人様!」
「え?え?」
何か嫌な雰囲気だ、折角の幸せな時間が音を立てて崩れ去る、そんな不安が僕の胸で渦巻いた
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