「な、なんで二人がここに⁉」
「ここは私のお気に入りのお店なのです」
葵の問いに万城目が笑顔で答える。
「ここからの 眺めで浮かぶ 良き発想」
一超が外を眺めながら呟く。
「藍袋座一超……全ての会話を五・七・五のリズムでこなすという変人カ……」
「今のイザベラさんも十分変人ですけどね……」
爽が全身黒ずくめのイザベラに冷ややかな視線を送る。イザベラが反発する。
「ナッ……私のどこが変人だというのダ?」
「変わっていないとは言い張るのは無理がありますよ……」
「いやあ、イザベラさん、仕事熱心ですね」
万城目がイザベラの恰好を見て感心する。イザベラが満足気に頷く。
「さすが生徒会長……違いの分かる男だナ」
「なんの違いなんだか……」
爽が呆れ気味に首を傾げる。万城目が葵に問う。
「それで秘密の会合では何を?」
「い、いや、秘密じゃなくて、一超君と会ったのはたまたまですよ」
「本当に?」
「本当ですよ、嘘をついてどうするんですか」
「それならば、すごい偶然ですね。この海水浴場には多くの海の家が立ち並ぶというのに……どうしてまたここに?」
「ピン!と来たからです」
「そ、そうですか……」
葵の独特な答えに万城目は戸惑う。一超は何故か納得したように頷く。
「直感に 従うさまは 潔し」
「いやあ~、そんな、照れるな~」
「⁉ ショーグン、この男の言うことが分かるのカ?」
イザベラが驚く。葵が首を傾げる。
「え? 分からないの?」
「イ、イヤ……」
「葵様は藍袋座さんの通訳のようなものですから……」
「そ、そうなのカ……」
「まあ、わたくしにも今のは分かりました。藍袋座さん、葵様のことをなんでもかんでも全肯定されては困ります……」
「それはまた 申し訳ない 気を付ける」
「お願いいたしますよ……」
「ふ、普通に話した方が早いのではないのカ?」
イザベラがもっともなことを言う。そこにエプロンを付けた女の子が話しかけてくる。その女の子は顔が半分隠れるほどの長い前髪をしている。
「あの……」
「ああ、ごめんなさい。注文ですよね? 一超君は何を食べているの?」
葵が一超に尋ねる。
「海の家 定番メニュー 焼きそばを」
「では、彼と同じものを三人分……」
「なんでちょっと気取った注文をするのですか……」
妙なポーズを取る葵に対し爽は呆れる。
「……かしこまりました」
「ここの焼きそばは絶品ですよ。私からもお勧めです」
「生徒会長がそう言うのなら……」
しばらく間を置いて、女の子が焼きそばを運んでくる。
「お、お待たせしました。焼きそば三人分です……」
「いただきま~す♪ ……こ、これは⁉ な、なんて美味しさ! 麺のコシが絶品!」
「アア、それにこのソースダ! 濃すぎず、かといって薄すぎずという絶妙なバランスで麺と絡み合っていル!」
「具材も青のりとキャベツのみというシンプルな組み合わせですが、それがどうしてなかなか複雑かつ繊細な味のハーモニーを奏でています!」
葵たちが口々に焼きそばを称賛する。一超が困惑の表情を浮かべる。
「そこまでの 称賛逆に 嘘くさい」
「ま、まあ、皆さんは普段食べないかもしれませんから、新鮮な感動があるのかも……」
万城目がフォローする。葵が女の子に告げる。
「ごちそうさまでした! とっても美味しかったです!」
「あ、ありがとうございます……」
「でも不思議……こんなに美味しい焼きそばがあるのに、お店ガラガラですね」
葵が空席だらけの店内を見回して率直過ぎる感想を述べてしまう。爽たちが慌てる。
「あ、葵様⁉」
「も、もう少しオブラートに包メ!」
「ご、ごめんなさい!」
「……上様、お願いがあります!」
女の子が大声を上げる。
「ええ? 上様って……」
「実は私は大江戸城学園の一年生なんです……」
「ああ、そうなんだ……」
「この店は曾祖父の祖父の代から続いてきたこの海水浴場きっての老舗海の家なのです」
「へえ、歴史があるんだね……」
「しかし、近年はオシャレでスタイリッシュな近隣のお店たちの勢いに押され、お客様をすっかり奪われてしまって……」
「ああ……」
「このままではお店を畳まなければいけなくなります! 上様は将愉会という生徒の悩み相談に乗ってくれる集まりを主宰されていますよね? どうかお知恵とお力をお貸し頂けないでしょうか⁉」
「う~ん……」
葵の代わりに爽が答える。
「さ、さすがにお店の経営の立て直しというのは、学生が出来ることの範疇を超えています……申し訳ありませんが……」
「いいよ!」
「ええっ⁉」
「なんとかしてみよう!」
「ほ、本当ですか⁉ ありがとうございます!」
「あ、葵様! そんな安請け合いをしては……!」
「困っている生徒を放ってはおけないよ!」
「! ふっ、仕方がありませんね……」
葵のあまりにも真っすぐな眼差しを見て、爽が思わず笑ってしまう。
「っていうことは、サワっちも協力してくれるってことかな?」
「言い出したら聞かないではないですか。なんとか考えてみましょう……」
「ありがとう! 三人はどうかな?」
「クライアントの意向に沿うのが仕事ダ……」
イザベラがボソッと呟く。
「生徒の悩みには出来る限り寄り添うのが生徒会長というものですよ」
万城目がそう言ってウィンクする。
「馴染みある 店を助けに 尽力す」
一超が彼にしては珍しく力強く呟く。葵が礼を言う。
「ありがとう! まさしく千人力だよ!」
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