「秀吾郎?」
そこには秀吾郎が腕を組んで立っている。秀吾郎は改めて口を開く。
「謎多き女性にこれ以上は任せられない……」
「黒駆秀吾郎……1年と組の生徒を装い、御庭番を務めているニンジャ……」
「う、うわあああ⁉」
いきなりイザベラが核心に迫り始めた為、秀吾郎は慌てて大声を上げる。
「貴様のことは既に調べはついていル……」
「だ、第三者の前で軽々と話すな……!」
秀吾郎は距離を詰め、イザベラに対し小声で抗議する。イザベラは首を傾げる。
「第三者……?」
「上様はともかく、伊達仁殿の前で……!」
イザベラはそれとなく爽に向けて視線を向ける。爽は苦笑気味で首を左右に振る。
「その辺りの心配は不要なようだガ……」
「なんだと?」
「いいや、なんでもなイ……」
イザベラはふっと笑って秀吾郎と距離を取る。葵が尋ねる。
「秀吾郎、どういうつもりなの?」
「上様、そのビーチバレー大会、自分と参加致しましょう!」
「え?」
「学校関係者ならば、誰とペアを組んでも問題ないです。当然男女ペアでも!」
「確かにそのようなことが書いてあるけど……」
「自分の運動能力ならば、必ずや優勝に貢献出来るはずです!」
秀吾郎が力強く断言する。
「う~ん……」
「ちょっと待テ。いきなり出てきてなんだお前ハ……?」
イザベラがやや不満気な表情を見せる。
「繰り返しになるが、謎多き女性に上様のことは任せられない!」
「……」
「少し失礼な物言いになっているのは謝る。だが、同じコート内ならば自分の方が上様のことを上手に守ることが出来る!」
「ホウ、言ってくれるナ……私には謎がすっかりバレている分際デ……」
「ぐっ⁉」
「ニンジャが聞いて呆れるナ……それともこの国のニンジャは皆この程度カ?」
「な、何を⁉」
イザベラの言葉に対し、秀吾郎が色めき立つ。イザベラが笑う。
「フフッ……その程度で冷静さを失って、本当にガードが務まるのカ?」
「……言ってくれるじゃないか」
「事実を述べているまでダ……」
「多少諜報能力が優れているくらいで調子に乗ってもらっては困るな」
「なにヲ?」
秀吾郎の発言に今度はイザベラの眉が若干動く。秀吾郎が続ける。
「こういった職務をこなすには『心技体』がバランス良く備わっていなければならない……」
「シンギタイ……」
「分かるか? つまりメンタルと……」
「皆まで言うナ、それくらいは知っていル……」
イザベラは片手を上げて、秀吾郎の言葉を制する。
「む……」
「どちらが優れているカ……決めるとするカ?」
「ふん、面白い……」
「あ、あの二人とも……⁉」
葵が声をかけようとしたところ、その場に風が巻き起こり、秀吾郎とイザベラの姿が一瞬その場から消える。爽が目を見張る。
「消えた……⁉」
「!」
次の瞬間、ほぼ同時に二人がその場に戻ってくる。秀吾郎が片手を上げて呟く。
「砂浜の小石を拾ってきた」
「私は貝殻を拾ってきタ……」
「な、なんとこの一瞬で海岸まで⁉」
爽が驚く。
「体、フィジカルは互角か……」
「その様だナ……」
「ならば……!」
「!」
「えっ⁉」
葵が驚く。廊下の壁に手裏剣が突き立てられている。その刃先には蚊が力尽きている。
「あの蚊には反応出来なかっただろう?」
「よく見てみロ……」
「何?」
秀吾郎が壁に向かって目を凝らすと、蚊の体に銃弾が撃ち込まれている。
「シュリケンよりも足がつかなイ……私の方が優れているかナ?」
「ちっ……だがタイミングはほぼ同時だったはずだ」
秀吾郎がやや悔しそうに呟く。イザベラが苦笑する。
「負けず嫌いだナ。まあイイ……ギ、テクニックもほぼ互角。最後はシン、メンタルだガ……これは競うまでもなさそうだナ……」
「なんだと……どういうことだ?」
「ビーチバレー、真夏の砂浜……」
「?」
「白い雲、青い空、真っ赤な太陽……」
「なんの話をしている?」
「ショーグンのビキニ……」
「⁉」
「うら若き乙女の肢体がすぐ近くで躍動すル……」
「ぐっ⁉」
「貴様はこの誘惑に耐えきれまイ……」
「む、むう……」
「い、いや、普通にTシャツとハーフパンツで出るから!」
葵が声を上げる。
「そ、そうなのですか?」
「秀吾郎、なんかちょっとがっかりしている?」
「い、いえ、そのようなことは!」
秀吾郎が首を左右に激しく振る。その傍らでイザベラが微笑を浮かべる。
「いずれにせよ、どちらがショーグンのペアにふさわしいのか、決まったようだナ……」
「! まだだ! どちらが先に大会会場につくかで決めよう!」
「! まあイイ!」
秀吾郎とイザベラが再びその場から姿を消す。爽が葵に尋ねる。
「如何なさいますか?」
「い、いや、私は純粋にビーチバレー大会を楽しみたいんだけど……」
「ふむ、それならば……」
爽は端末を操作する。それからやや間があり、大会会場に葵が初老の男性を連れて現れる。
「あ、秀吾郎、ザベちゃん、私、この人とペアを組んで出るから」
「「⁉」」
葵の申し出に秀吾郎とイザベラは揃って驚く。
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