人々は鳥兜のケダモノに飲みこまれ、まるで旅籠屋内の道に迷う御伽噺の股旅者のようだった。
ファベーラは水辺近くの最大貧困街だ。
私はジョアナ、7歳。
元々ブラジリアで高級住宅街に住んでいた。ママは民族学者でパパは不動産屋経営をしていた。
2人は同じ大学出会い、結婚。不動産屋はこの時は安定していて、景気がよかった。それゆえこんなよくある家賃の高い物件に住み、私もそれなりの暮らし、学校に通っていた。だけどある日、パパの不動産屋の経営が厳しくなった。それはお客さんの部屋探しがぱたりと来なくなった。高級住宅街ばかり扱っていたので、収入が低い人は中々手が出せない。それにこの国は裕福な人はホンのひと握りだ。パパはブラジリアンマフィアに手を出した。どうやらマフィアからお金を借りたようだ。経営はあまり上手くいかず、お金は返せない。次第にマフィア達が不動産屋に来たり、しまいには家にまで来ることもあった。おっかない人達が来てた時、私は、小さな収納スペースに入って、丸まって怯えていた。マフィア達はパパに大声で罵倒していた。
パパは、罵り、何も言えない。言えるのは待ってくれの一点張り。そんな日常が続き1年後、マフィアのボスは堪忍袋の緒が切れる。その日、ママは姿を消した。行方は知らない、マフィアに連れていかれたのか、ただ単に恐れて私を置いて逃げたのか、それはパパしか知らない。私は、いつものようにあの狭い押し入れのような場所で丸まっていた。すると、急に扉が開いた。隙間から部屋の電気の光が見え、次第に私の全てが見えるまで扉は開いた。顔をあげパパと言おうとした瞬間、パパじゃなかった。そこにいたのは知らない男たちだった。
おっと? ここにいたのかお嬢ちゃん。
おじさん誰? パパは?
パパは大丈夫だよ、ほらおいで。あとお兄さんな。
大丈夫なの? どこにいるの?
すぐに会えるさ。
そのおじさんは、笑いながら話した。でも怖かった。笑ってるけど目は笑ってなかった。その人は見た目は長髪で、髭が濃くて目が細い。悪役みたいな顔をしている。その男は手を差し伸べた。でも怖くて、体が動かなくて手と手をギュッと握っていた。
すると、少し時間経つと痺れを切らしたのか男は急に顔色を変え私の頬を引っ張叩いた。
きゃあぁぁ! いたい!!
てめえ! 調子乗んなよ! クソガキが! こっちが下手にでりゃああよ!!ナメてんのか!?あぁ! さっさとこいよ!
右頬がジンジンして紅くなっている。泣きそうになり、そのまま立ち上がれなかった。そこに別の男がやってきた。その男は他の人や目の前の男よりも身なりがしっかりしていた。恐らく、上の人だ。
震える私をみて、上の人は先程私を叩いた男を思いっきり殴った。右拳は男の顔面をぶち破った。男は顔をおさえ、悶え苦しんでいる。そこにこう言った。
おいてめえ!泣かせてんじゃねえよ、この娘は丁重に扱え、殺すぞ。済まないなお嬢ちゃん、怖かったか? もう大丈夫だ、こいつは後で始末しておく、おいで。
そう言い、私を見てニコッとさせていた。なんとなく私はこの人はいい人だと思ったのがその人の所へ向かった。だが、この男は仮面を被ったピエロのような男だった。それはまだ知らない。
パパは?
パパはいま旅行に行ってもらってる。いつか会えるよ、きっとな。
わかった……。
私はこの男に連れられ、彼らが乗ってきた車に乗った。車は黒色の長い車で見たこない大きな車で、車に乗っている運転手がなにやらスイッチを押すと車のドアが勝手に開いた。
なにこれ? 勝手に開いたよ。
自動ドアだ、スイッチを押すと勝手に開くよ。
すごい、見たことない。
君富豪だったのにかい?
こんな車はみたことないよ。
そうか、じゃあ行こうか、乗りたまえ。
私は言われるがままに車に乗った。1時間ほど走らせると海がみえた。ここまでの時間、運転手含め3人は、話さない。唯一、カーザに向かえの一言だけだった。私は海をみるのは初めてだった。パパもママも海は苦手だった。海を見るなりガラス越しに笑顔を見せていた。
うみだ〜! キレイ、初めてみた。
海は初めてなのか? 旅行かなんかで行かないのか?
だって、パパもママも海嫌ってたからいつも山なの。
全くあの男は……。
なにか言いたげだったが、言うのをやめた。私は海に夢中だった。窓は開けてくれなかったけど、それでもこの海は私にとってキラキラしていて宝石を見てるような気分だった。
眺めていると、男が声を掛けた。
おいもう降りるぞ来い。
そう、もう車は止まっていた。大きな家の目の前だった。でもどこか、物騒なところだ。周りは壊れかけたレンガの家に草かなんかで出来た家みたいなものに、周りは港町で海がある。それにこの辺の海はなんかちょっと汚くみえる。さっきまでの綺麗な海ではなくなった。
私は急に身震いした。腕をみると寒気ボロがでてきている。
ん? どうした?降りてこい。
はい……。
降りると、その家の中に入った。中は普通のレンガの部屋だった。特別、シャンデリアがあったり高そうな銅像が置いてあったりはしてない。さらに奥の部屋に入ると、大きなテーブルとイスがある。
ここだ。どこでもいい、座れ。
私は目の前のイスに座った。すると、男2人連れて戻ってくる。
さっきまで一緒にいた男だけ私挟んでイスに座る。
ここが何処かわかるか?
分からない。
ここはアカラの本拠地だ。
アカラ? なんですか? それ?
私たちの事知らないのは無理ないか。お嬢ちゃんのパパは私に借金があるんだ。
しゃっきん?
そうだ。私はこの街を仕切ってるアカラのボス、デジレ・クリストフだ。君はジョアナだな?
うん、私ジョアナ。
お嬢ちゃんは、ここで働いてもらう。
なんで?
ジョアナ、君はパパのせいでこうなったんだ。君はここで働く以外に方法はない。死んでもパパの借金が増えるだけだ。
しゃっきんってなあに?
借金は、お金を借りてることだよ。
パパお金借りてるの? なんで?
それは知らなくていいんだよ、でもねそのお金を返せなくなった。だから君はパパとママと離ればなれになった。君はパパに売られてしまったんだよ。
まだ7歳だった、言葉や状況が理解できない私はなにも言えなかった。ただ思ったのは、もうパパとママには会えないということだった。意味が分からないまま、私は別の部屋に通された。仕事は明日かららしい。その部屋は狭くてなにもない空間だった。あるのはイスと1つの布団だけだった。今日だけの部屋。着てた服は取られて白いワンピースのような服をくれて、それを着た。明日からはどうなるのかわからない。なにをされるのかもわからない。外の満月を観ながら、不安にかられ私は泣きそうになっていた。イスに座りながら、眺めていた。
これはクリスマス日での出来事だった。私は1年で1番クリスマスが大好きだった。いい日にこんな不運なことになるなんて、考えてもなかった。
次の日になると、朝早くから刺青入れた男に起こされた。部屋は内側から鍵を閉めることはできない。私から鍵を閉めることが出来ないのだ。
男は私を無理やり起こした。
おら! さっさと起きろ! 仕事だぞ
きゃあ!
こっちの感情なんて無視だ。起こされて、昨日いた部屋に向かうと、昨日の男がいた。
やあお嬢ちゃん、寝れたかな?
あんまり……。
そうかまあ今日から仕事だ、楽しんでこい。大丈夫だ、君はまだ子供だ、無茶はさせないよ。
うん。
とりあえず中に入れ。
3人は、昨日いた大きなテーブルのある部屋にはいった。
デジレは部屋に入ると、衣装を用意した。その衣装は可愛く、なにならドレスのような衣装だった。ピンクで無駄なデザインがなくて万人受けしそうなドレスだった。
かわいい、これ着るの?
そうだよこのドレスは私が特注で作らせたものだ、君にピッタリだな。着てみろ。
私はすぐさま、今来てるワンピースを脱いでその衣装を身につけて見せた。
綺麗ださて仕事をしよう。今日の仕事はこの部屋の隣にあるベッドがある部屋だ。すぐ行くぞ。
わかった。
そう言うと、私とデジレさんはその部屋に向かい中に入ると、カメラを持った3人の男がいた。
大丈夫今日は写真を撮る。あそこの白い壁の所へ行きなさい。
うん。
私は言われた通り白い壁の所で立った。左右には大きめなライトが2つある。私がそこに立つとそのライトはパッと光を点した。
少し眩しい中、男はカメラのシャッターを切った。何回か写真を撮った。なんで撮るのかはわからなかった。
するとデジレが話した。
やはり君は綺麗だ。よし、次の工程に進もう。
と、言うとパチンッと指を鳴らした。すると、工場でみるようなマスクを付けた男が入ってきた。手には工具を持っている。なにかの印が付いた、熱した物だ。やけどしないように厚めの手袋をしている。
よし、お嬢ちゃんを拘束しろ。
男2人は私をうつ伏せにさせ、動けないようにした。そして腰まで服をさげる。
なにするの!?
デジレは私に近寄った。
大丈夫、すぐ終わるからね。ちょっと熱いけど我慢してね。始めろ。
そう言うと男はその熱々の棒をお尻の近い腰に当てた。やめてと言う間もなかった。これにはめちゃめちゃ痛くて私は泣きながら叫んでた。後で聞いた話でこの組織、アカラは「火の玉」と言う意味で、こう言った私みたいな子に自分の物として、刻印を押していた。その名のとおり、私のお尻辺は火の玉のような模様の印がついた。
7歳で我慢は無理だ。大人でも痛いし苦痛だろう。
刻印され泣いてる私にデジレは言った。
明日からが本番だ、覚悟しろ。今日はもう寝ろ。
優しい言葉はなかった。私は動けなかった。デジレは、私を抱っこして部屋に連れて行った。
その日は痛くて寝れなかった。
朝早く起きると、まだジンジンしていて痛かった。
そこにデジレがやってきた。
起きてるな、早いな早速仕事するぞ。来い。
今日からが本番だった。私が連れていかれたのは、
宿だった。そこでは売春という名の行為が行われていた。私はこういうのは初めてだし、怖かった。私のような子が好きなお客さんがやって来る。それを接客する。それが仕事だった。やり方はその宿の責任者から教わった。
こうして仕事が始まったが、まさに味わったことのない地獄の日々だった。私のクリスマスはここで終わった。サンタなんて可愛いことを考える日はなくなった。何年も何年も私は男性の相手をした。
ある日17の時、体の至る所に湿疹ができた。理由は色々あるだろう。仕事だとは言いきれない、この地はインフラが整ってないし、様々な理由がある。
日に日に、私の体は湿疹が多くなって行った。病院には行けない。お金は全て取られる。宿の無料で貰える食べ物しか食べてない。自由もなかった。
湿疹が増えてから、あのデジレに呼ばれた。宿からデジレの家までは遠くないので向かった。
ベルを鳴らし、出たのはデジレの側近。中に入ると私が初めて来た時にいたあの部屋に通された。部屋にはデカいテーブルに1人で食事をするデジレがいた。
やあ来たんだね、久しぶりだな。あれから数回会う程度だ。順調か? 湿疹が出たと聞いたが? どうなんだ?
デジレはどうやら私のことを心配しているのだろうか、色々最近の状況を聞いてきた。
私はその事について、鮮明に話をする。すると、思いもよらない事をデジレは言い出した。
君は仕事を変える。ジョアナ、私の使いとメイド役をやれ。
え、私がですか?
その湿疹が無くなったら、また今の仕事に戻す。君は特別なんだ。病院にも行かせてやる。
本当ですか!?
なぜかこの人を初めて良い人に思える。でも、治ったらまたあの仕事をやることになる。そこを考えると嫌だな。
ああ本当だとも今日からそうしてやる。
ありがとうございます!
君は大人になったねあの頃はまだこんなてんとう虫みたいに小さかったジョアナが懐かしい。
そんな小さくありません。
などと2人で笑っていた。久しぶりに笑うという行為をしたかもしれない。ここに来てから嫌なことばかりだった。毎日逃げ出したい、いっそ死んでもいいなどと考えていた。今日笑ってそんなことは消えていた。
それで今日からデジレの使いやメイドのような仕事をするようになった。宿で知り合った人は羨ましがっていた。普通は棄てられるか、この世から消されるかどっちかだと言っていた。
当然だけど仕事してる時は、シスターみたいな格好をしている。他の女性はメイド服を着ている。私は湿疹を隠すためにベールを被り黒いシスターみたいな服を着ている。そして、病院にも通うために外の仕事が多くなった。買い物やデジレのお手伝いなど。
ある寒い日だった病院の帰りに男性に出会った。日本からジンという人だ。ポルトガル語教室に通ってるそうで留学生だ。ガタイもよく、元気でおおらかな人。出会い方は、帰りに付けていたベールが風に飛ばされたところを助けてくれた。なにか思ったのかよく話しかけてきた。私のあのおぞましい顔みても眉ひとつ変わらせず接してくれた。
私は楽しくなって病院の帰りや買い物のついでなどでその男性に会うようになった。
歩いていると、そのジンに後ろから声をかけられた。
ジョアナ! メリークリスマス!
きゃあ! びっくりした!
びっくりした? 元気そうだね。
なに? こんな所見られたら怒られる。
すると、ジンは私の手を引いて裏路地まで走った。
着くと急にキスをされた。仕事上キスやその他の行為には慣れているがこのキスはなんだが温かくて微かにローズヒップのような香りがして落ち着いた。
ちょっとなにするの? なんでキスなんか
ジョアナ、君が好きだ。
ストレートに好きと言ってきた。
え? だって私こんな格好だし、病気もあるしそれに……。
そんなこと気にしない! 今の仕事辞めればいいじゃないか。
それができるならあそこにいないわ。元はパパのせいであの忌々しい所にいるの。
逃げればいいじゃないか。
だめよ!そんなことできない!
ジョアナ、前進しようこれでは前には進めないよ、今日港で待ってるだからそこに来てくれ俺と住もう必ず来てくれずーと待ってるから。
そう言うと彼はその場から走り去って行った。
私はデジレの家に帰ってもその言葉が離れなかった。本当は今すぐにでもこんなところから逃げたい、そう思っていた。でもそんなこと私に出来るわけない。考えていると、デジレに話しかけられた。
ジョアナ様子はどうだ?
え!? あ、はい! 大丈夫です。
そうか最近様子がおかしいのだが。
だ、大丈夫です。
そうか、なら早く仕事しなさい。
わかりました。
その日の夜、私は部屋を抜け出そうとしていた。彼の言う通りだ。これでは前には進めない。
夜になると監視してる人は居なくなる。その時をまって出ようとした。扉を開けようとすると、後ろから呼ばれた。
ジョアナ。
は、はい! デジレ様。
やはりそうなったか。
知ってたんですか?
薄々な、それで見張りを付けた。男と度々会っていたな。今日、行くのか? ここまで親切に育てたのに。
それは感謝してます。でも……。
はあ、行け。
え? 今なんと?
行けと言っている。俺の気が変わらんうちにさっさと行ってしまえ。そのかわり二度と顔を見せるな。
あ! ありがとうございます! お世話になりました!
そう言うと走って港に向かった。
デジレの方はというとこう話していた。男が現れて会話を始めた。
デジレ様いいんですか?
いいんだあの子は特別なんだ、ジョアナメリークリスマス、なんてな。
私はそんなことも知らず、港に急いで走った。
寒い中、走った。さっきまでの服と違って白い服にあまり防寒服を身につけずに来てしまった。
でも走ってるので気にもしなかった。白い息をはいて、ひたすら走った。港に着くと、彼を探した。辺りを探したけど居なかった。私は涙が出そうになった頃、後ろからギュッと抱きしめられた。この温もり恐らくあの男の子だろう。私は初めて誰かを好きになった。
後ろを振り向くと彼がいた。
よく来てくれたね。
うん、でももう帰ったのかと思った。
ずーと待ってるって言ったでしょ。
ねえ本当に私でいいの? こんな汚い身体だし、君より歳も下だし、可愛くないし。
そんなことないよ綺麗だよ。君と出会ってすぐ恋に落ちたんだ。一目惚れだ。汚くないよ、もっといい病院だってこの先行ける、徐々に治していけばいい。
ありがとう。
するとこの瞬間雪がチラついていた。この国は暖かい気候で、雪なんて降らないはずなのに。この日のクリスマスはなぜか、雪が少し降っていた。私は雪を生まれて初めてみた。そして男に恋をするのも、自由になるのも。初めて見る雪は蝶々のように自由に舞っていた。
この時から止まっていた私の大好きなクリスマスはまた動き出した。こんな幸せを感じるのはあの日以来だ。ううんあの時よりも愛と幸せを身にしみて感じているよ。まさかこんな私を愛してくれるなんて愛おしい。私はいままでにない笑顔を魅せた。
ホワイトクリスマスだね!
2人は手を繋いだまま、そのまま街中へと消えて行った。
もしかしたら待ちに待ったサンタさんから飛びきりのプレゼントなのかもしれない。
これはとあるクリスマスに起こった奇蹟とでも言っておこう。
良い一日を。
end.
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