地上までの道のりは、困難なものではなかった。
遺跡で最高の防御力を持つアイアンゴーレムを一撃で仕留める破壊力を持つマナ・ブラスター。
軽く10数体を同時に捕捉し正確に射貫くマナ・ボルト。
ジャイアントスパイダーの一撃を受け止める対物理フィールド。
暗がりや横合いからの不意打ちを迎撃し斬り伏せるレティ。
ただでさえカーチスによって激減していた魔物たちに、対抗する力は残っていなかった。
「エリー、左からゴブリン、およそ7」
「わかりましたっ、サーチ……ロック」
魔力を手のひらに溜めながらレティの指示に従いそちらに目を向けると、言葉通りにゴブリンが7体。
それらを目で追い意識すると…視界に生じた白い円がゴブリンを捉えていく。
「マナ・ボルト、シュート!!」
全てのゴブリンを捉えたところで、魔力を解き放つ。
白い光を放つ光弾が上下左右ランダムに7発飛び出すと、弧を描いてゴブリンたち目掛け襲い掛かり……胸を、頭を貫いていく。
重装甲の騎士ですら一撃で射貫くそれに耐えられるものはおらず、全員が地に倒れ伏した。
「……これで終わり、かな」
「みたいですね、少なくとも出口まではクリアかと」
静けさを取り戻した遺跡の通路、二人に近づいてくる足音はなく。
遠くに、まだ生き残っている魔物が息を潜めているような気配があるくらいだ。
「じゃあ、行こうか」
「はい、行きましょう!」
そうして、二人は外への扉を潜った。
扉から出ると、既に日が傾きかけていた。
「ん~……久々の夕日……私の感覚だと、七日ぶりなんですが……。
……やっぱり、この辺りも変わっちゃってますねぇ……。
前はここ、前線基地があったんですよ。
で、戦闘中にマスターが怪我をして、私も損傷して。
ここでメンテナンスを受けて、怪我したマスターの代わりの人と前線に戻るはずだったんですけど……」
戻るべき前線も、守るべき基地も最早ない。
自分たちが出てきた洞窟を、そしてそれが埋もれていた小山を見上げた。
1500年の間に木々に覆われたそれは、自然に還ろうとしているかのようでもあって。
では自分も還るべきなのだろうか。
そう思ったところで、肩に手を置かれた。
「……そして、代わりのマスターが来た、と。
1500年も待たせちゃったけど……」
「あはっ、そうですね、とっても良いマスターが」
何もなければ、いつかは自分も還っていたのだろう。
しかし、今はこうして自分の隣にマスターがいる。
それは、寄る辺のない心細さを拭い去ってくれた。
「それで、これからどうすればいいんですか?」
「そう、だね……連絡員のテッドと落ち合って、別件の依頼や指示が来てないかの確認。
問題なければ報告のために帰還、かな…あなたのことも報告しないといけないし……」
そう応えるレティに、エリーは不思議そうな顔を浮かべた。
「別件の依頼とか指示って、そんなことあるんですか?」
「もし、この近くでの依頼があれば、王都に戻るよりそのまま向かう方が早いからね……。
多分何もないとは思う、けれど……ああ、テッドは驚くかも知れない。
あの規模の遺跡なら、普通は踏破に一週間はかかるものなんだけど……彼、二日で踏破しちゃったから……。
予定の三分の一以下の期間で終わっちゃったし」
「いやほんと、人間なんですか、あの人。
ていうか、そんな人を殺れちゃうレティさんって一体何者なんですか」
困ったように眉を寄せると、呆れた顔でエリーが問いかけてきた。
しばらく考えた後、肩を竦めて見せ。
「彼は……『勇者』に一番近かった男。
私は……また今度、見せてあげる、ね……」
あの奥の手は、ものがものだけに、教えるのに躊躇いがある。
彼女ならば大丈夫、とも思うが。
今までグレッグ以外には秘密にしていたのだ、覚悟めいたものが必要で。
少しだけ、時間が欲しいと思ってしまう。
「さて、山小屋に向かいたいところだけど……もう日も落ちるし……今夜はここで野営かな」
「はぁい、わかりました。
……あ。どうしよう、私野営道具持ってないです……」
従軍時代に幾度も経験していたのだろう、野営そのものに抵抗感は全くなかったが。
さすがに、道具なしでの野営は辛いものがある。
「ああ、火をおこしたり設営は私の道具を使って……。
寝る時は交代で見張って、毛布も交代で使えばいいんじゃないかな」
「いいんですか……? つ、使っちゃってもいいんですか?
包まっちゃいますよ、呼吸しちゃいますよ?」
何気ない提案に、エリーは食いつく。
ずずい、とレティに迫り、しがみつかんばかりだ。
「……なんでそんなに反応するの……。
別に構わないけど。……あ、それとごめん、睡眠は必要?」
「あ、そうですね……必要、かそうでないか、で言えば必要ではないです。
ただ、索敵、照準などで情報処理回路をそれなりに使いますので、休眠を取ることは推奨されてます。
一日に合計4時間から6時間程取れたら理想的ですね」
「なるほど……なら、さっき言った通り、交代で寝るようにしよう」
「わかりましたっ
……別に私は、いっしょでもいいんですけど……」
小さく呟いた声は、レティには届かなかったようだ。
翌朝。
特に問題なく朝を迎え、野営跡を片付けると、落ち合う予定の山小屋へと向かう。
あまり使わないので少し迷ったが、程なくして到着した。
……だが、小屋に近づいたところでレティが足を止め、エリーに手ぶりで止まるよう伝える。
「……エリー、いつでも撃てるようにしておいて」
そういうと、自身も小剣に手をかけた。
直後、扉が開き小屋から、男が三人出てきた。
「おっ、なんだ?こんなところにこんな別嬪さんがよぉ」
「ありゃ、あっちの黒髪のは例の女じゃねぇか?」
「ほんじゃ、もう一人はなんだ?まあいいか、お楽しみが増えるだけだ」
下卑た笑いを浮かべる顔、だらしなく着崩された衣服。
いかにもどこぞの賊と思われる格好で、その手には手入れの悪い長剣が握られている。
……その刃は、真新しい血の汚れで曇っていた。
こぼれた水は掬えない。
こぼしてきたそれを掬おうとして、初めて気づく。
そして自分にできることとは。
次回:別れの挨拶
せめて、心穏やかに。
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