女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

55.ボスゴブリンの軍勢

公開日時: 2020年10月9日(金) 23:05
文字数:1,869

 最前列にいた騎士とゴブリンが衝突する。騎士がレイピアでゴブリンに突き攻撃を食らわそうとする。しかし、ゴブリンは森の木陰にすぐさま隠れて攻撃をやり過ごした。


 なるほど。このゴブリン達は森での戦いに慣れている。地形を利用した戦いは向こうの方が上手か。


 続いてゴブリンが反撃をする。持っている棍棒で騎士を殴ろうとする。騎士は後方に攻撃を避けて躱した。棍棒の攻撃が地面に衝突する。その衝撃で地面がかなり抉れた。かなりのパワーを持っているのであろう。それこそ、ボスゴブリンクラスのパワーはあった。


 このゴブリン一人一人がボスゴブリンクラスのパワーを持っていると考えていいだろう。ボスゴブリンは前回私が辛うじて倒した相手だ。それが複数いるなんて悪夢以外の何物でもない。


「皆! 後方に下がれ! 逃げながら戦うんだ!」


 私は騎士達に指示を出した。追いながら戦っていては勝てない。相手にこちらを追わせて隙をついて反撃をする作戦をとろう。


 特にこの森は奴らの格好の狩場だ。まともに正面衝突しても勝ち目がない。


 騎士達は私の指示に従い、ゴブリンから逃げるような動きを取る。森の出口まで走っていく。


「逃がさないわ! 追いなさい!」


 後方から何者かがゴブリンに指示を出した。この声は人間の女の声だ。ゴブリンも個体によっては喋るがそれはかなり片言で聞き取り辛い声。こんなにハッキリとした発音が出来るのは人間以外ない。


 そしてこの声にも聞き覚えがあった。湿原地帯の洞窟で遭遇したミネルヴァという女。私の……否、王国の憎き敵だ。


 やはりこのゴブリン達が強化された一因にミネルヴァがいる。しかし、奴の姿はこちらからは視認出来ない。恐らく森の木陰に隠れているのであろう。


 王国の敵がいる。今すぐ倒すべきなのだろうが、奴がボスゴブリンに守られている状態ではそれが出来ないであろう。今はジャンが考えた作戦通りに動くしかない。


 私達は森を走り抜けてボスゴブリン達から逃げようとする。先頭を走っているのは衛生兵のキャロル。足が一番遅い彼女をペースメーカーとして置くことで隊全体の体力を温存しようということだ。


 そして、殿しんがりを務めるのは私だ。一番危険なポジション。ボスゴブリンに追いつかれた時に戦闘する立ち位置だ。もし追いつかれた時は私がボスゴブリンの軍勢と戦い、皆が逃げる時間を稼ぐ。


「ハア……ハア……ロザリー団長……辛いです」


 キャロルが根を上げ始めた。ペースも少し落ちている。慣れていない森の中を移動するのは体力が少ない彼女には酷であっただろうか。


「キャロル。焦らなくていい。自分のペースで走るんだ! 皆もキャロルのペースに合わせるんだ」


「は、はい! がんばります!」


 ゴブリン達がこちらに追いついてくる。このままでは接触してしまう。なら、私が取れる選択肢は一つだ。


「ゴブリンが追い付いてきている! 私が残って奴らを食い止める! 皆は先へ進め!」


 私の指示に従い皆が走る。ただ一人、アルノーを除いて。彼は逆走し、私の傍まで来た。


「アルノー! 私の命令が聞けなかったのか?」


「いくらロザリー団長でも一人であのゴブリン達と戦うのは無茶です。俺も一緒に戦います!」


「ふふ、随分と生意気言うじゃないか。よし、一緒に時間稼ぎするぞ!」


 時間稼ぎ程度なら継戦能力に優れている私一人でも十分だったが、アルノーがいてくれると確かに心強い。彼も立派な騎士になったものだ。


 ゴブリン達が私に襲い掛かろうとする。どうやらリーダーである私狙いのようだ。


 私はレイピアを構えて回避活動に専念する。ゴブリンの棍棒による一撃を躱す。続けて私の避けた方向にまたゴブリンが待ち構えていて棍棒を振り下ろす。私はレイピアでゴブリンの右手を突き刺す。攻撃されたゴブリンはたまらず棍棒を落とし、攻撃が失敗する。


 私はその隙に後方に思いきり跳躍してゴブリン達と距離を取った。


「あれは……ロザリー団長。俺から離れてください」


 アルノーは何かを発見したようだ。そして前方の上方向に向けて突き攻撃を繰り出した。アルノーの突きは風の刃となり木の枝を切り裂く。


 切り裂かれた木の枝はそのまま落下してゴブリンの頭上に落ちた。木の枝の先には蜂の巣が作られていて、衝撃に驚いた蜂が一斉に飛び出てきた。


 蜂はゴブリンが自分達を攻撃してきたと勘違いしてゴブリン達に一斉に襲い掛かった。ゴブリンは蜂に刺されて慌ただしく逃げ回る。その姿がかなり滑稽で笑えて来る。


「ロザリー団長。これでかなり時間を稼げました。皆の所に戻りましょう」


「ああ。良くやったアルノー」


 私達は森の出口に向かっている皆の所に走っていった。

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