女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

61.エミールとピエール

公開日時: 2020年10月12日(月) 19:05
文字数:2,086

 僕とロザリーとアルノーの三人は、蒼天銃士隊のキャンプ地があるタクル高山の麓まで来ていた。キャンプ地には既に蒼天銃士隊のメンバーが集まっていて、射撃の訓練や銃の整備などしていつでも戦えるように準備をしていた。


「よお。アルノー。元気してたか? 風邪は引いてねえだろうなあ。ライン。久しぶりだな。少し見ねえ間に雰囲気変わったんじゃねえか?」


 茶髪で頬に傷があり、野性味あふれる中年の男性が話しかけてきた。この顔は見覚えがある。アルノーの父親のエミールである。


「父さん!」


 アルノーがエミールの元に駆け寄る。エミールはアルノーの頭をわしゃわしゃと掻きまわして再開を喜んでいる。


「父さん、聞いてくれ! 俺はウェアウルフのリーダーを倒したんだぞ! 敵将を討ち取れる程の立派な騎士になれたんだ。俺、紅獅子騎士団に入れて本当に良かった」


「そうか……良かったな」


 エミールはクールな口ぶりだが、口元が緩んでいて嬉しそうだ。もっと素直に喜べばいいのに。


「エミール。久しぶり。エミールは相変わらずのようだな」


「ああ。こっちは変わんねえよ」


 エミールはぶっきらぼうで口数が少なく、頑固でどちらかというと昔気質むかしかたぎな職人肌の親父と言った感じだ。僕とも必要最低限の会話しかしてくれなかった。雑談を振っても適当な生返事しかしてくれないし。


「そちらのお嬢さんが紅獅子騎士団の団長さんのロザリーか?」


「如何にも。私が団長のロザリーだ。よろしく」


 ロザリーはエミールに握手を求めた。エミールは無言でロザリーと握手をする。


「隊長が待っている。中央のテントにいる。話を聞いてやってくれ」


 それだけ言うとエミールは自身の持ち場へと戻っていった。息子や昔の仲間と再会したのに随分と呆気ないものだ。もう少し話をしてもいいと思うのに。まあ、それがエミールという人なのだろう。



 僕達は中央のテントの中に入った。蒼天銃士隊の隊長のピエールが中で待っていた。久しぶりに会ったピエールはその……前よりも後退していた。具体的にどこが後退していたとは言えないが、とにかく後退はしていた。


「久しぶりだなライン。元気にしてたか?」


「ああ。お陰様で。心身共に健康そのものさ」


 ピエールは僕と握手をして手をぶんぶんと降る。ピエールは頭皮と同じく明るい性格で蒼天騎士団の太陽的な存在だ。色んな意味で。


「お前がくるって聞いてびっくりしたぞ。でもまあ、久しぶりに会えて良かった。ライン。ますますいい男になったんじゃねえのか? 顔つきが前よりも凛々しくなっているぞ? 彼女の一人や二人でも出来たか?」


「二人はまずいだろ。まあ彼女は出来てないけど色々はあったさ」


「何だよ。含みを持たせるようなこと言いやがって。この任務が終わったら飲みにつき合えよ。洗いざらい訊いてやる!」


 洗いざらい訊かれるのは嫌だけど、ピエールと久しぶりに飲めるのは楽しみだ。彼は酔うととても面白いからね。僕が蒼天銃士隊に所属していた時も、裸踊りをして楽しませてくれたっけ。飲んでいた店は出禁になったけど。


「そちらの美しい人がロザリーで、端正な顔立ちの少年がエミールのせがれのアルノーか」


「ロザリーだ。よろしく頼む。蒼天銃士隊の皆と共同戦線を張れて光栄だ」


「よろしくお願いしますピエールさん。父がいつもお世話になってます」


 アルノーがペコリと頭を下げた。それに対してピエールは感慨深いような表情をする。


「おーおー。あの泣き虫坊主が随分と礼儀正しくなったもんだなあ。おじさんのこと覚えているかい? キミがまだ小さい頃一緒に遊んであげたんだがな」


 出た、昔よく一緒に遊んであげたおじさん。大抵覚えてないことに定評のあるおじさんだ。


「すみません。覚えてないです」


「そっかー。よく一緒に遊んだものだよ。マスケット銃で的をぶち抜いて遊んだり」


「ちょっと待てピエール。キミは子供に何をさせたんだ。それに陛下から賜ったマスケット銃をそんなことに使うなんて」


「ははは。冗談だよライン。いくら俺でも子供に銃を持たせねえっての。危ねえだろうが」


 ピエールは笑い飛ばす。僕は、ピエールなら本気でやりかねないと思った。だって公衆の面前で裸踊りをするくらい理性のタガが外れることがあるし。


「所でロザリー。キミはお酒は飲めるかい? 飲めるなら、任務が終わった後一杯付き合ってくれないか?」


「ダメです」


「ラインには言ってねえだろうが」


「ウチのロザリーにお酒を与えないで下さい。襲われます。彼女はお酒を飲むととんでもない肉食獣になります」


「マジで?」


 嘘は言っていない。実際、この前ワインを飲んだ時に僕は襲われたし。


「あ、あれは悪酔いしやすいワインを飲んだからああなっただけで、飲みやすい酒ならああはならんぞ!」


「とにかくダメったらダメ。ピエールと飲んではいけません!」


 僕は必死で止めた。だって、ピエールがまた裸踊りを始めたらロザリーにアナコンダを見せつけることになるし。そんなことしたらセクハラでピエールの首が飛びかねない。物理的に。


「じゃあ、アルノーはおじさんと一緒に飲むかい?」


「俺は未成年です」


「だよねー」


 飲みのことしか頭にないのかこのおっさんは。

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