私はいつものように騎士団の詰め所へとやってきた。今はモンスターの討伐依頼がないため、騎士団の雑務をこなしている。私は事務仕事は苦手だから、ラインやジャンに大体のことは押し付けている。私のすることと言えば彼らが作成した書類にサインをするだけの簡単なお仕事だ。この二人には本当に助けられている。
ジャンが騎士団宛てに届いた郵便物に目を通している。手際よく誰宛てに届いたものかを仕分けするその行動は最早熟練のプロの領域だ。
「ロザリー。貴女宛ての郵便が一件ありました。東洋からの郵便です」
「げ! 東洋の文字は私読めないんだよ」
というか東洋の知り合いはルリくらいしかいないのになぜ私に郵便物が届くのか。
「ご心配なく。名前の表記だけ東洋で使われている漢字という文字で、書面の内容はこちらの言葉で書かれています。名前は|瑠璃《ルリ》という人ですね。お知り合いですか?」
「ルリか! やっぱり彼女からの郵便物か」
私はルリからの書簡に目を通した。
『 拝啓ロザリー様
先日はどうもお世話になりました。
お陰様で皇帝陛下のご病気は快方に向かっております。
私は西洋の文化に興味があり、そちらの国の学院に在籍することなりました。
そちらで生活をするようになるので、どうかよろしくお願い致します。
また、紅獅子騎士団にご挨拶にいきます。
ラインさんとは仲良くやっていますか? 二人の仲が進展してますように
ルリより』
そうか。ルリはこの国に来るのか。それは良かった。やはり仲間は多い方がいいからな。
そういえば、最近煉獄の書を開いてないな。活字が苦手な私は結局本を読まなかったし、魔法が使えるようになる魔導書でもないから興味が薄れて本棚にしまいっぱなしになってた。
今日帰ったら、煉獄の書をまた読んでみよう。
◇
「ない……」
どこを探しても煉獄の書が見つからなかった。私が家に帰ってきてからずっと家中探しているけど見つからない。何故だ? 泥棒にでも入られたか? いや、泥棒に入られたにしてはあまりにも綺麗すぎる。もっと荒らされてもいいはずだ。
私の家には他に金目のものがあるはずなのに、なぜそれを無視して煉獄の書を盗んだんだ? 一体何の目的で……否、まだ泥棒に入られたと決まったわけではない。私がうっかり鍋敷きにしてというオチは……ないな。キッチンを探しても見つからないし。
どうしよう。ルリが一度は手放したとはいえ、彼女の本を失くしてしまった。このままではルリに合わせる顔がない。
私は本棚をよく見た。あれ? 心なしか本棚の配置が変わっているような気がする。私は意外に几帳面な性格で本をジャンル別に並べているのだが、兵法の本の間に剣術の指南書があったり、かなりバラバラに配置されている。誰かが一度本棚の中身を全部出して並び替えたのだろうか。
「やっぱり、これ私がやったんじゃないよなあ」
少なくてもウェアウルフ討伐に出掛けた日の朝はこの配置になっていなかった。それから本棚は見てないから、恐らくウェアウルフ討伐中に何者かが私の家に侵入して煉獄の書だけを盗んでいったのだろう。
この煉獄の書が予言の書だと知っている人物が盗んだのか? この国でその事実を知るのは私とラインくらいなものだ。ラインが盗みを働くわけないから、その情報がどこかから漏れたのか?
考えた所でわかるはずはなかった。私は頭がいい訳ではないからな。考えるのは苦手だ。
とりあえず、憲兵に盗難事件として届けておこう。もしかしたらどこぞの盗人を捕まえた時の盗品として押収されているかもしれないし。
◇
ロザリーの家から本を盗んだ。煉獄の書。東洋の予言者が未来の技術を書いて魔導書として売り出したものだ。私はこの本を悪用してこの国を陥落させよう。
未来の技術と私のモンスターを操る力が合わされば、いくらこの国の騎士が強くても倒すことは可能であろう。
これは復讐だ。この国の……否、人類に対する復讐。モンスターと心を通わせる異能力を持つ私を魔女だと迫害して追放した者達に鉄槌を下してやる。
魔女と呼ばれた私が魔導書を盗む。ふふふ。中々皮肉がきいていていいじゃない。最強の組み合わせね。
では、早速煉獄の書を開いてみよう……ふふふ。見つけた。今の私にぴったりのいい魔法が……
通常のゴブリンをボスゴブリンと同じ程度の戦闘力に押し上げる。ゴブリンの秘薬……ゴブリンはロザリー率いる紅獅子騎士団に倒された残党がいるわね。彼らを仲間にするわ。そして、彼らのロザリーに対する復讐心を利用してやる。
お互いの利害が一致しているからきっと心を通わせやすくなる。そうと決まれば材料採取ね。リュナ湿原地にある泥水から泥を抽出して出来た水。その水がゴブリンの秘薬の材料になる。
私は護身用のモンスターを引き連れてリュナ湿原地へと向かった。まさか一度モンスターを討伐した場所にまた私が戻ってくるとは思いもしないでしょうからね。
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