「ライン兄さん聞いて下さい! 俺ロザリー団長と一緒に戦うことになったんです」
アルノーが目を輝かせてそう言ってきた。無論僕はあの作戦会議にいたから事情は知っている。アルノーのスピードとテクニックが買われてロザリーと共に戦うことになったのだ。
「ああ。聞いてるよ。アルノー。大丈夫か? キミはまだ新人なんだ。無理だったら断ってもいいんだぞ」
「何言っているんですかライン兄さん! ここで活躍して名前を売るチャンスじゃないですか! 俺も騎士になったからには、活躍して武勲を立てたいですし!」
どうやらアルノー本人はやる気みたいだ。もしかして僕が心配しすぎだったりするのかな。
「アルノー。無理はしないでくれ。無理な戦いだと思ったらすぐに退いてくれ。紅獅子騎士団は後方の部隊の層も厚い。すぐに皆がフォローしてくれるはずだ」
「はい! わかりました!」
アルノーはいい返事をした。僕も後方でアルノーに万一のことがあった時のために待機しておくつもりだ。スライムの溶解液が付着した時の対処法は既にしっかり頭に叩き込んでいる。大丈夫。衛生兵の僕がしっかりついていれば治療できるはずだ。
「アルノー。私と一緒に特訓だ。スライムとの戦いを想定したやつだ」
「はい。ロザリー団長」
アルノーはロザリーに連れられて特訓することになった。僕はアルノーのことが心配で彼らの特訓を見守ることにした。
ロザリーはアルノーの背後に回り、彼の腕をとり体を密着させる。周りの騎士達がアルノーを羨ましそうな眼で見ていたり、殺気立った表情を向けている。
「いいか? スライムは私達よりも体高が小さい。故に有効になるのは、下方向の突きだ。こういう風に突き出してみるんだ」
ロザリーが突きの出し方を文字通り手取り足取り教えている。
「なるほど。大体わかりました。少し試してみてもいいですか?」
アルノーとロザリーの体が離れる。アルノーはロザリーに教わった通りの突きの動きをする。とても繊細で鮮やかな突きで芸術の域に達しているであろう動きだ。
「うむ。実に綺麗な突きだな。その突き攻撃でスライムの核を傷つけるイメージだ。スライムの外皮をいくら攻撃した所で奴は核さえあれば再生してしまう」
「ロザリーさん。スライムの核ってどこにあるんですか?」
「それは個体によってまちまちだが、スライムは半透明状の生き物だ。核の部分は色が濃くなっているからわかりやすいぞ」
アルノーは「なるほど」と頷いた。スライムと戦うイメージトレーニングをしながら、下方向の突きをひたすら撃っている。
「中々いい突きの精度ではないか。この調子なら大丈夫かな」
アルノーはロザリーのお墨付きを貰って調子が出て来たのか先程より精度の高い突きを繰り出した。
流石アルノー飲み込みが早い。だが……
「まだ足りない……」
「へ?」
僕の呟きをアルノーが聞いていた。僕としては聞こえないように言ったつもりなのだが、彼の耳は僕の予想に反して良かったみたいだ。鼻も耳も効くとか犬か。
「足りないってどういうことですか? ライン兄さん」
ロザリーは僕の真意を読み取ったのかニヤニヤしている。ことの成り行きを見守るつもりだろうか。
「確かにアルノーのその突きならスライムを倒すことが出来るだろう……でも、アルノー。キミの力はそんなもんじゃないはずさ。ちょっと貸してくれ」
僕はアルノーからレイピアを取り上げた。
「ライン兄さん何をするんですか」
レイピアを取り上げられたアルノーは憤慨した。いくら僕を慕ってくれているアルノーでも許せないことだろう。
アルノーからしてみれば僕はただの衛生兵に過ぎない。ロクに剣すら握ったことがないように思えるだろう……しかし、僕はレイピアを構えてから下方向に突きを繰り出した。
風が吹き荒れた。素早い突きを打つ。たったそれだけのことで突風を巻き起こした。どうやら僕の剣の腕は予想より鈍ってはいなかったようだ。
「ラ、ライン兄さん……今のは……」
アルノーは目を丸くして驚いている。まさか僕に剣の心得があるとは思いもしなかっただろう。
「今の突きを出せるようにしといてね。そうすればアルノーの生存率はぐんと上がるはずさ」
僕はアルノーにレイピアを返した。アルノーはただ茫然としている。
「ライン。もう剣を握らないんじゃなかったのか?」
ロザリーが僕に嫌味ったらしく話しかけてくる。確かに僕は剣を置いた身であった。それがアルノーに触発されてか不思議と剣を持ってしまったのだ。
「アルノーに剣を教えるためさ。戦場では剣は振るわないよ……僕はもう騎士ではないのだから……」
「あ、あの……ライン兄さん! ライン兄さんって騎士としても凄かったんですね。ますます尊敬しちゃいます! 俺頑張って今の技を習得します!」
アルノーはやる気が出たようだ。一瞬だけ見た僕の動きを模倣して突きをひたすらに練習をしている。
スライム討伐は三日後か……それまでには物にしてくれるといいなと僕はアルノーに期待を込めるのであった。
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