女騎士ロザリーは甘えたい

下垣
下垣

41.女騎士に花束を

公開日時: 2020年10月5日(月) 19:05
文字数:1,956

 僕は花屋に来ていた。軒先には鮮やかな花が飾られていて、とてもお洒落な雰囲気だ。色々な花の香りが混ざっていてどことなく不思議な匂いがする。赤いバンダナを頭に付けた清楚な雰囲気の女性店員が出迎えてくれた。年齢はロザリーと同じくらいだろうか。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」


「フリージアの花束が欲しい。プレゼント用にね」


「現在当店にあるフリージアは黄色のものしかございません。それでもよろしいですか?」


「ああ。構わないよ」


 店員は「かしこまりました」と言い、フリージアの花を幾つか見繕って取り出していく。鮮やかな手つきで包装紙に花を包む。熟練の職人芸に思わず惚れ惚れしてしまう。


「ラッピング用のリボンの色は如何致しましょう」


「そうだな……ロザリーの髪の毛の色は赤だから赤にしようか」


「かしこまりました。彼女さんの名前はロザリーって言うんですね」


 女性店員は微笑ましいものを見る目でこちらを見ている。正確には恋人ではないのだが、訂正するのも面倒なのでそのままにしといた。


 花束のラッピングをしてもらっている間に僕は店内を見回した。当たり前だけどスロボルの花なんて希少は花はどこにもなかった。


「はい。出来ました」


「ありがとう」


 僕は花束の代金を支払い、花屋を後にした。中々雰囲気のいい店だったな。また今度機会があれば行ってみよう。



 僕は花束を持ってロザリーの家の前まで来ていた。以前彼女のお見舞いに来たことがあるから場所は知っている。相変わらずの高級住宅地街ですれ違う人々の身なりもかなり上等のものだった。僕は何だか場違いじゃないかな?


 僕はロザリーの家の扉をノックする。それに気づいたロザリーが玄関に向かって駆けて来る音が聞こえる。僕は咄嗟に花束を後ろ手に隠した。


「はーい……お、ラインじゃないか。どうした? 私に会いたくなったのか? しょうがない奴だな」


「ああ。ロザリーが恋しくなってね」


「んな……堂々とそういうことを言うんじゃない」


 ロザリーの顔が分かりやすく真っ赤になった。自分で仕掛けといて何言っているんだこの人は。


「で? どうした? 今日は私に何か用があって来たんだろ?」


「用? そんなものなきゃダメなのかい? ただ顔が見たいからじゃダメなのかい?」


 ロザリーの顔が更に赤くなる。恋愛指南書に書いてあった落とし文句をそのまま言っているだけなのに効果は抜群だ。全くチョロくて可愛いなー。まあ、揶揄うのはこれくらいにしてそろそろ本題を切り出そうか。


「ロザリー。これプレゼントだよ」


 僕は隠していた花束を目前に出した。ロザリーはそれを見て目を丸くして驚いている。口もぽかーんと開けていて少し間抜けだけどどことなく可愛らしい。


「え? ええー。ど、どうしたんだ急に!? わ、私何かしたか? あれ? 今日私誕生日だっけ? ち、違う……え? 何かの記念日……?」


 ロザリーは花束を見てかなり動揺している。目も泳いでいる。サプライズは成功したようだ。


「僕がただロザリーに花を贈りたくなっただけさ。ロザリーはいつも団長として頑張っているからね。その感謝の印だよ。受け取って」


 僕は花束をロザリーの胸の前に突き出した。ロザリーは花束を抱きかかえて目に涙を浮かべ始める。


「えっと……その……これ本当に貰っていいんだよね……? あ、後で返せと言われても返さないからな!」


 ロザリーの顔面が涙でぐちゃぐちゃになっている。そんなに泣くほど嬉しかったのか。プレゼントを贈った甲斐があったな。


「そ、その……わ、私の頑張りを認めてくれて、嬉しい……ラインが私のことをちゃんと見てくれてたんだ……」


「当たり前だよ。ロザリーはいつも団の皆のことを考えてくれている。だから、紅獅子騎士団は成り立っているんだ。そのロザリーに恩返ししたいと思うのは当然だろう?」


「ち、違うよ……本当に恩返ししなきゃいけないのはロザリーの方だよ……ラインきゅんにはいつも甘えてばかりで……私ラインきゅんに何もしてあげられてない」


 何だ。ロザリーはそんなことを気にしていたのか。僕としてはロザリーに何かしてあげているという気は全くない。ロザリーは頑張ってくれているのだから、僕が尽くすのは当然のことだ。団長の精神的ケアも僕の役目だからね。


「大丈夫。ロザリーが紅獅子騎士団の団長として頑張ってくれている。それだけで僕は十分さ」


「ラインきゅん……わーん」


 ロザリーが花束と一緒に僕を抱きしめる。そして、そのまま僕の体を引いて家の中に連れ込んだ。


「ロ、ロザリー……?」


「今日はラインきゅんを絶対帰さないんだから!」


 あ、これ本当に帰れそうにないな。またロザリーの家に泊まっていくことになりそうだ。


「ロザリーのハートに火をつけた責任はたっぷり取ってもらうんだから。今日のロザリーはいつもより甘えん坊になってるかもよ」

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