僕はスケルトンを一体、また一体と撃破していく。最初こそ船の揺れのせいで剣筋がブレていたけど、慣れてしまえどうということはない。前線を張っている雑兵達を蹴散らして僕は前へ前へ進んでいく。
そして、敵将であるキャプテン・ホルスの前に僕は辿り着いた。
「小僧。中々やるな。名はなんという?」
「僕は紅獅子騎士団の騎士ラインだ! 今からお前の命をもらい受ける!」
僕のその発言に対してキャプテン・ホルスは豪快に笑い出した。
「ワシは既に死んどるっちゅーに。しかし、気に入った。その心意気は買ってやろう」
キャプテン・ホルスは腰に携えた曲刀サーベルを引き抜いた。構えに全くの隙がない。今までのスケルトン海賊とは格が違うのであろう。
「集え、セントエルムの火よ」
キャプテン・ホルスの合図と共に青い炎が彼の周りに集まってくる。ただ、彼の周りを漂い続けるそれは不気味としか言いようがない。
「行け!」
そう命じられた青い炎達は、僕に向かって襲い掛かって来た。冗談じゃない。あの炎に当たったら間違いなく火傷をしてしまうだろう。真水が貴重な海の上で火傷なんてしたくない。海水で冷やす手もあるが、結局その後は真水で海水を流す必要がある。
僕は飛来してくる炎を躱していく。炎はまるで自分の意思を持っているかのように曲がり、一度躱した炎も再度僕に狙いを定めて飛んでくる。
このまま避け続けていては埒が明かない。これを続けていたら僕の体力の方が持たないだろう。だから、この炎を何とかして消さなければならない。僕はクレイモアを構えて全身に意識を集中させた。
炎が止まっている僕めがけて飛んでくる。僕はタイミングを見計らい、掛け声と共にクレイモアを思いきり振った。僕の剣の一振りが炎に命中する。それと同時に風を切るような音が鳴り響き、炎が消え去ってしまった。
「ふぅ……成功して良かった。この技は練習中だったからね」
「な、何が起きた……」
キャプテン・ホルスは口をあんぐり開けて驚愕している。全く想定外のことが起きて困惑しているのであろう。
「教えてやろうか? 僕は今空気を切断して空気がない真空状態を作り出した。炎は酸素がなければ燃えることが出来ない。だから炎が消えたというわけさ」
「しんくう……? さんそ……? なんだそれは」
キャプテン・ホルスは頭にハテナを浮かべている。まあ、知らないのは無理はないか。海賊なんてやっている奴は識字率が極端に低い。まともに勉強なんて出来なかったんだろうな。
「なんだかよくわからんが訳のわからないトリックを使いやがって! こうなったらワシが直接ぶっ殺しちゃる!」
キャプテン・ホルスは僕にサーベルで斬りかかった。僕はそれをクレイモアで防ぎ弾く。甲高い金属の音が船に響く。
「く……」
後方にいるセイレーンが何かに反応したようだ。何だ……? まあいい。今はセイレーンに構っている暇はない。目の前のキャプテン・ホルスを倒す方が先だ。
僕はクレイモアで思いきりキャプテン・ホルスの顔面を叩きつけた。陶器が割れるような音がすると共にキャプテン・ホルスの顔面が粉々に破壊されてしまった。
「よし、倒した」
僕はその勢いのままセイレーンの所に向かおうとした。
「戦いはまだ終わってません。キャプテン・ホーク。私のために死ぬ思いでがんばりなさい」
セイレーンはそう言うと、胸の辺りで手を組み目を閉じて歌い始めた。
「邪悪なる心、不浄なる魂、それは決して朽ちることはない。永遠に。邪なるその心は、私の下僕たるに相応しい。私のために逝きなさい。私のために生きなさい。そして、私のために行きなさい!」
僕の後方で何か堅いものがカタカタと震えるような音が聞こえた。僕は後ろを振り返ってみるとそこには倒したはずのキャプテン・ホルスが立っていた。破壊されていたはずの顔面はすっかり元通りに再生している。これは一体どういうことだ。
「助かったぜ姐御」
復活したのはキャプテン・ホルスだけじゃない。先程僕が倒したはずのスケルトン達まで蘇っている。
「うけけ……復活復活!」「野郎ども! もっと戦いを楽しもうぜ!」「これで終わりかと思ったか騎士さんよぉ!」
「生に終わりはあります。しかし、死は永遠。終わりなき終わり。決して滅ぼすことが出来ない概念。つまり死している彼らは無敵なのですよ」
セイレーンが哲学めいたことを呟く。こんな理屈がまかり通ってたまるか。不死身だなんて冗談じゃない。きっと何か突破口があるはずだ。僕は諦めずにクレイモアを握った。
「ははは。無駄っちゅーに! わしは不死身! 死んでいるから疲れてることもない。しかし、貴様らはどうだ? 人間である以上、生がある以上体力の限界がある。勝敗は明らかなんだよ!」
さっき、こいつらはセイレーンの歌声に反応して蘇生した。だとすれば先にセイレーンを倒せばこいつらはもう復活しなくなるのでは? 僕はそう思い、セイレーンの所に向かおうとする。
「いかせるかよ!」
キャプテン・ホルスが僕に斬りかかった。僕は寸前のところでその攻撃を避けた。くそ、セイレーンの所に向かおうにもこいつが邪魔していけない。
「ヒャッハー! キャプテン! 俺も混ぜてくれでやんす!」
海賊の一体がこちらに向かってくる。まずい。二対一は流石にきつい。
「ぐぼへ」
語尾にやんすを付けていた海賊は後方からの奇襲により、その場で崩れ去ってしまった。その奇襲をしたのは紅獅子騎士団の仲間だった。
「ライン! こっちの雑魚共の相手は俺らに任せろ! お前はこの状況を何とかしてくれ」
「ああ。わかった。後ろは任せた」
僕はキャプテン・ホルスと対峙する。セイレーンは奴らにとって生命線。意地でも彼女の元に向かわせる気などないのだろう。
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