僕なら触っていい? い、一体何を触っているんだ。え? 触るって何? タッチしていいの?
僕の頭が混乱する。ロザリーの発言一つ一つに翻弄されている感じがする。何という小悪魔だろう。ただ、このまま翻弄されるのも悪くないと思ってしまっている僕がいる。
「触らないの?」
ロザリーが首を傾げる。その仕草が小動物的でとても可愛らしく思える。ダメだ。この可愛らしいロザリーに劣情を催すなんてどこか罪悪感を覚える。ロザリーは僕にとっては甘やかす対象。それを超えた感情を持ってはいけないのに。
「えい」
ロザリーが僕の右手を掴んで自分の方に寄せる。僕は流石にそれはまずいんじゃないかと思って手を引こうとするが……彼女の方が圧倒的に力が強い。僕の右手が吸い寄せられるように彼女の体に近づいていく。抵抗空しく僕の手は彼女の一部分に触れてしまった。
ドクン……ドクン……と僕の右手に鼓動が伝わってくる。衛生兵の職業病というか本能なのだろうか。心音の具合を確かめてしまう。
「ロザリー……やっぱりキミもドキドキしてたんだね」
「えへへー。バレちゃった。お揃いだね」
はにかむロザリーがとても愛おしい。僕は今物凄く幸せを感じているのだろう。僕の心臓の運動と共に体中に血液が行きわたるのと同時に全身が幸福感で包まれていく。
「ごめんロザリー……お互い兵士の立場でこんなこと言うのは本当は良くないんだけど言いたいことがあるんだ……」
「なあに……ラインきゅん。言って?」
僕は唾をゴクリと飲み込んだ。緊張する。こんなに緊張するのは衛生兵の採用試験を受けた時以来だ。この想いを口にしたら今の僕とロザリーの関係が壊れてしまうかもしれない……でも僕はどうしても言いたかった。その気持ちを抑えることなんて僕には出来なかった。
覚悟を決めた僕は口を開いた。ゆっくりと言葉を紡いで自分の思いを彼女に伝えるんだ。
「ロザリー……好きだ。今の僕はキミを一人の女性として見てしまっている……」
ついに言ってしまった。本当はずっと前から僕はロザリーのことが好きだったのだろう。それをずっと気づかないフリをしてきた。自分の団の団長だからとか、戦場で恋は厳禁だとか、色々理由をつけてそのことを考えないように目を背け続けてきた。
でも、もう限界だった。ベッドの上でこんなに近くで密着すると考えないようにするのは無理だ。体中の全細胞がロザリーを意識してしまっている。
「ありがとう……私もラインが好きだ」
真面目な時のロザリーが顔を覗かせる。きっとこれは本心からの言葉なのだろう。僕はそれを嬉しく思った。ロザリーも僕と同じ気持ちでいてくれたこと。それだけで嬉しかったのだ。
「ロザリー……戦場で恋は厳禁だ。戦場で恋に落ちた者は早死にすると言うのがこの国に伝わるジンクスなんだ」
「ああ……わかっている」
「だから、この想いは僕の心の中だけにしまっておくつもりだ。これ以上は出すつもりはない」
「ああ。そうした方がいい。私もキミに死んで欲しくない」
ロザリーの眉が下がる。とても切なそうな表情で僕を見つめる。ダメだ。そんな顔されたら抱きしめて頭を撫でてあげたくなってしまう。愛の言葉を囁きたくなってしまう。
「私もキミへの恋心は自分の中にしまっておく。ただ、今日だけ……今日だけキミを愛してもいいか?」
ロザリーの指が僕の指に絡まってくる。ロザリーの柔らかい手の感触が愛おしい。ただ手を繋いでいるだけなのに、何だか変な気分になってくる。自分の理性がだんだんと崩壊していくようなそんな感覚を覚える。
「今日は……大切な記念日だから」
記念日? 今日は何かの記念日だったか? 今日は何の記念日でもない特別ではない日だからこそ、僕はロザリーに花を贈ったのだけれど……
「キミが私に初めて花を贈ってくれた日だ」
そうか……ロザリーは僕の気まぐれな行動を記念日にしてくれたのか……何だか僕自身がロザリーの特別になれたような気がしてとても嬉しい。
「なあ、ライン……甘えん坊の私に戻ってもいいか?」
「ああ。いいよ。その方がしっくり来る」
「ありがとう。少し腕を伸ばしてくれないか?」
僕が腕を伸ばすと、ロザリーは僕の腕を枕にしたのだ。
「ラインきゅんの腕枕……一度やってみたかったんだ」
なるほど。添い寝の定番と言えば腕枕か。ベタではあるけど、それでロザリーが喜んでくれるなら僕は喜んでこの腕を差し出すよ。
ロザリーが目を瞑って寝息を立て始めた。もう就寝の時間か。僕もそろそろ寝るかな。おっと、腕枕したまま寝るのは流石に健康上良くないか。橈骨神経麻痺になるかもしれないし。
僕はロザリーを起こさないようにそっと腕を引き抜き、ロザリーの頭に枕を置いてあげた。相変わらず可愛い寝息を立てているロザリーだ。
僕は目を瞑った。暗闇の世界が広がり、やがて僕の意識は徐々に薄れていき眠りの世界へとついた。
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